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木曜、快晴午後5時半。
祐樹はひよりと共にバイトに勤しむ…
訳が出来なかった。

「すみません!」

「…ゆっくりやれ、小計を押してから値段を言うんだ」

レジスターは合計を押され0の状態で開く。
おかげでお釣を電卓で計算しなければいけない状態。
ああ、俺も昔やらかしたなあと祐樹はしみじみと思った。半年も過ぎればそのようなへまはなかなか起こさない。
だが、ひよりはそれを開始30分で4回もやらかした。

それをホッカイロ売り場で見つめる祐樹。
先ほどまでは自分がひよりに教えていたのだが、

「バイトが2人もレジに居たら仕事にならねぇ」
と、西條が正論を叩きつけ祐樹を補充へ追いやったのだ。
そして当たり前だが社員である西條が教育係。

レジスターを打つのは遅いわ、商品の詰め方は下手だわ、西條の堪忍袋の緒が切れるのはいつかと祐樹はハラハラする。
実質、自分には激しく怒ったのだ。
お客の見てないところで、だが。

(東條さんを殴るなよ…!)

心の中で念じる。
それが通じてか否か、西條は大して怒りもせずゆっくりと教えていった。
それこそ営業用スマイルは無いが、とても優しい。

ふつ、と祐樹のこころに何かが疼く。
目の前の景色が色あせてゆくのだ。


(…東條さん、可愛いから…)


それが、ひよりに対する思いなのか西條に対する思いなのか祐樹にはよくわからない。
そのもやもやを取り除こうと、積みあがったホッカイロの箱を綺麗に並べようとした。

その背後では未だに、

「きゃあ!ごめんなさいごめんなさい!」

「…ほら、早く戻す!」

「はい!」

苗を入れるための箱を豪快に崩すひよりを優しく諭す西條の掛け合いが続けられていた。



その後も延々と続くひよりのドジっぷり。
最初は西條も祐樹も単に初めてのバイトで慣れないだけかと思っていたが、違うらしい。

やっとバイトの休憩時間になると、客足も減り、西條は安堵の息を吐いた。
祐樹の不器用と遅刻癖にもほとほと悩まされているというのに更にドジを誇張させた新人アルバイト。
胃が痛まない自分が凄いと自画自賛しながら、ひよりの教育で手が回らなかった仕事を急いで始めた。


一方、事務室では。


「バイトって大変ですねー」

心臓潰れちゃいそうでした、とひよりがあっけらかんと笑いながら祐樹に話しかけていた。
数々の失態をもろともしないその精神力。
可愛く小さい体の代わりに、中身は強いらしい。

(そんなところもいい!)

そう祐樹は思いながら、ふと心にもやもやしたものを口に出してみた。

「そういえば、西條さん 怖くない?」


少なくとも、笑顔は見せていないし決して優しくは接してない。ただ、祐樹とは違い的確に間違いを指示し、さりげなくフォローをいれるだけ。
因みに祐樹の場合はその場で威圧を起こし、後々怒号とビンタを浴びせるのである。
なんという理不尽か、と思っていると。

予想とは裏腹に、ひよりは少しはにかみながら言った。


「怖くありませんでした。…逆に、凄く優しくて、その…いいひとですよね!」


失恋決定の悲しく苦い味が全身に広がった。
頬を染めてはにかむひよりは非常に可愛い。
かわいいのだ 、が。

これは確実に勝ち目も芽も無い、と祐樹は確信する。
人の恋愛を見てきた訳でも無いが、人の表情はよく見ている彼は、それがどんな思いか何となく察する。

女子高生な彼女が、顔立ちが良く尚且つ優しい社会人に心惹かれないわけが無い。


(さよなら俺の初恋…!)

この休憩時間に飲んだカフェオレは、なぜかどんなコーヒーよりも苦かった祐樹だった。

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