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朝、教室は朝学習を終え、和やかな空気に包まれる。
各々のグループで固まり談話をしていた。
その中で、より和やかな笑みを浮かべる1人。

「…祐樹、」

「ん?」

「なんか、いいことあったのか」

へにゃへにゃと締りの無い顔をしている彼に、雄太はげんなりしながら話しかけた。
そうでもしないと、周りの好奇の目が鬱陶しい。
祐樹が普段そんな顔をしないからである。

そんなことは全く気に留めない当の本人は、待ってましたと言わんばかりに雄太に輝かしい笑みを振りまきながら、

「バイト先に可愛い子が来たンだ!」

「おまえより?」

「俺はまず可愛くないから!」

大きく手を振ってのオーバーリアクション。
珍しい振る舞いに、雄太はそんなに可愛いのかと驚愕する。
昔からあんまり他人に興味を示さなかった祐樹が、成長したなあと心の中で安堵した。

しかしそんな祐樹と雄太を遠めで見ながら、数人の女子がこそこそと話し合う。
彼女達は文化祭の日、祐樹と西條のプロレスのやり取りを見ていたのだった。

「て事はあの西條さんという人はその子のお兄さんとか?」
「将を射んと欲すればまず馬を射よ ってやつかしら」
「さすが岡崎君…学年5番以内は違うね」

普段の努力の成績と比べていた。
祐樹は成績はいいがそれほど頭が良い訳では無いのだが。特に恋愛方面は。


実際、祐樹は今その瞬間。

「メアドとケー番はあるンだけどさ、これ連絡した方がいいか?でも迷惑だよな…シフト被るの今週はあと木曜だけだし…」

「…悩んでンな。俺、西條さんのこと好きになったのかと思ったのに」

慣れない女子との会話方法に悩んでいた祐樹に、雄太が冗談で茶化せば、その大き目の瞳をカッと開き睨みあげた。

「ンな訳あるか!俺はお前と違う!」

「冗談…つかその事をでかい声で言うな!」

「また西條さんの話題だしたら、航先輩の情報教えてやらねぇからな」

「分かりましたすみませんでした…!」

普段クールな雄太がひれ伏す。
その姿は周りから見れば異常なのだが、彼らにとってはある意味当たり前の光景だった。
何故なら、祐樹の親友である鶴谷雄太は。

小中高の先輩であり、祐樹と同じ所で勤務するアルバイトの北條航に思いを寄せている。

しかも雄太と航は幼馴染。家が隣同士なのだ。
そんな身近な人をよく何年も思い続けていられるな、と祐樹は呆れと同時に尊敬する。
だが、最も呆れるのは

「早く告ればいいじゃん」

「馬鹿、それが出来たら苦労しねぇ。わた兄(にぃ)は極度の天然だぞ」

「それは分かるけどさ」

雄太が何年も好きだと思っているくせに、その思いを口にしないこと。
口にしなければ通じる訳が無い。
どんな思いでも、恋愛というものは言葉にしなければ相手が分かるはずが無いのだ。
特に、航に至っては。

気の毒だ、と祐樹は心底思う。
昔から見てきた空回りを自分にはどうにもできないので思うだけだが。

「で、わたにぃはどうよ、最近」

ぐ、と雄太が顔を近づける。
真剣な面持ちだと普段の仏頂面とは違い、随分男前に見えた。
そんな顔をしていればいいのに、と呆れつつ

「お前、家隣じゃねえか」

と的確なことを言った。
しかし雄太は歯を食いしばり、

「…わたにぃはな、大学推薦で合格したくせにまだ勉強を続けてらっしゃるんだ…」

がくり、と項垂れた。
祐樹も知っている。彼の勤勉さを。
そしてその勤勉は周りの誰も寄せ付けないことを。

ああ、と頷いて同情する。
そしてとりあえず自分の持っている最近の動向だけを伝えた。

「航先輩、カッターで怪我してた」

「だから刃物に気をつけろとあれほど…!」

机の上で拳を握り締め、本気で心配そうな顔をする。その様子に祐樹はとことん呆れながら、

「いや、そんな心配しなくてもよ…」

と切り返すが、雄太はまるで聞いていない。

「動脈を切ったらどうするンだ!」

「なかなかないだろが!」

祐樹がいい加減にしろと言った瞬間鳴るチャイム。
おかげでこれ以上の言い争いをせずに済んだ。

授業が始まる前に携帯の電源を切ろうと、祐樹はポケットをまさぐった。
普段バイブレーター設定にしているので鳴ってもどうということは無いのだが、その方が気合が入るからである。
携帯を取り出し開けば、画面には1通のメール通知。

誰だろうかと開けば。

『東條ひより』の文字が。

途端に踊りだす心。
目を輝かせて緊張しながらそれを開いて、メールを読めばそこには可愛らしい絵文字で構成された女の子らしい文章。

『おはようございます!
先輩はもう授業中ですか?
だったらごめんなさい。
返すのは放課後でも大丈夫です!
木曜は一緒の仕事ですね!
もしよかったら色々教えてください

西條さんちょっと怖いんで…
よろしくお願いします』

読み終えた瞬間、またもや顔が綻ぶ祐樹。
先生が入ってきたので急いで電源を落とし、ポケットに再度しまった。

始まる授業は数学。
祐樹の得意科目である。
予習した部分を眺めつつ、先生が出す独自の問題を空けたノートの部分で解く。

尚且つ頭の中はほわほわと幸せに包まれていた。


(木曜楽しみだな)


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