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「東條ひよりです、よろしくお願いします」

くりくりとした小動物のような瞳。
ふわふわとしたねこッ毛は肩甲骨まで伸びている。
低い背、全体的に小さく可愛らしい。

レベル的には中の上か、と西條は思いながら

「西條だ、よろしく。わかんねぇことあったらすぐに聞いてくれ」

と話しかければ、花が咲いたように笑みを零す彼女。
元気に返事をするので、これならば接客業は出来るだろう、とバイト初経験者ながら高評価を与えた。

ふと、後ろでぼけぇとひよりを見つめる祐樹の方向に振り返る。
案の定、冷ややかな視線を送りながら。

「…岡崎!」

「ひ!?」

ぼんやりとしていた思考に冷水が叩きつけられる。
思わず体がすくむ姿に、ひよりは思わずくすくすと楽しそうに笑ってしまった。
そしてその笑顔にまた釘付け。

そんなに飢えてるのか、と西條は不思議がりながらも、祐樹を引っ張りひよりの前に立たせる。

緊張で肩があがる祐樹の前で、ひよりは頭を下げた。

「よろしくお願いします、先輩」

「あ、えと、よろしく…」

どもつく祐樹に、ひよりはまた笑顔を向ける。
その笑顔はさながら太陽で、きらきら輝いていた。
赤面硬直する祐樹。
動かない祐樹に、ひよりは困って首を傾ける。
その様子を第三者として眺める西條は、なんとなく気持ちの赴くままに祐樹の頭をいつも通り叩いてみた。

「はう、」

「…あれ?」

いつもの様に「いてええ」と叫ばず、小さく呻いて反応なし。
その様子に西條はぽかんと呆け、ひよりはいきなり祐樹を叩く行動にぽかんと呆ける。

そんな異様な光景に、レジを待つお客もぽかんと呆けたとか。





「え!岡崎先輩ってあの天明寺なんですか!」

凄い、頭がいいんですね!とひよりは大きい目を更にくりくりさせて祐樹を見上げる。
一通りの仕事を終え、西條が気をつかい休憩を同時にいれてくれたのだ。
恐らくひよりが分からないことを聞くためにとの事だとは思うが、こればかりは感謝する祐樹。

ほぼ生まれて初めて女子と2人きりで話す状態に、しどろもどろになりながらも頑張って応対した。

「えと、東條さんは?」

「えへへ…あたしあんまり頭良く無くて…奈多高です」

「あ、近くだ」

「そうです!だから学校終わったらすぐ来れます!」

話してみると、第一印象のおとなしそうな子とは違い大分はきはきした子だった。
自分が話さなくとも、切り替えししやすい話題を出し、とても話しやすい。
思わず顔が綻ぶ祐樹。
そんなふわふわした笑顔を見せる彼に、ひよりはより気持ちを許したのか、

「メアド交換しませんか?その、シフト交換でしたっけ?する時にとか」

様々なストラップが異様なほど沢山付いた携帯を取り出し、赤外線交信を求める。
はじめ、祐樹は何のことか分からず呆けたが、それが連絡先交換だと知り、慌てて自分の携帯を鞄から取り出す。
緊張して震える指で、必死に赤外線のメニューを選びながら何度も頷いた。


「シフト交換、いつでも言ってくださいね」

「うん、東條さんも気軽に言って」

にこ、とひよりが笑顔を見せる。
途端、祐樹のこころがふわふわと暖かくなり、思わずまた顔が綻んだ。

「…おい、休憩とっくに過ぎてるぞ」

だが、その綻びは西條のキツい一発でまた引き締まる。祐樹の後頭部にまたいつもの痛みが響いた。

また祐樹を躊躇いも無く叩く西條に、ひよりは驚いて目をまたくりくりと動かす。
だが、それがまた祐樹のどつぼに入るとは、知らない。



(東條さん、可愛い…)


生まれてこの方味わったことの無い甘酸っぱい思い。
一目惚れなどしないだろうと思っていたが、案外簡単にずっこけてしまった。


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