ぐるぐる
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口は半開き。
視線は空中を一定時間動かない。

「岡崎君…?」

どうかしたの?とパートの常田は話しかけるが上の空。
それでもお客がくれば対応はするし仕事をさぼる訳でもない。ただぼんやりとしている。

益々不思議がる常田に、仲の良い女性店員の宮崎が苦笑した。口元のしわがより深くなる。

「なにかあったのかしらねぇ」

元々少し抜けた子だけど、と。
そんな事を言う宮崎に、常田は目じりの皺を深くして苦笑する。
それもそうだ、と。

そんな事を言われているにも関わらず、祐樹はぼうっと空中を見つめ続けた。
前方をゆっくりとハエが飛んでいても。



(西條さんとシフト被ンねぇなあ)

(でも被っても話すことねぇや)


そんなことを、考えていた。




ふと、常田の明るい声が耳に入る。

「そういえば、新しい子いつ来るのかね」

新しい子、ということは新入社員だろうか、と祐樹は耳だけ傾けながら商品を補充する。
綺麗に並べたドライバーに少し優越感を得ていると、更に明るい宮崎の声が店内に響く。

「明後日来るそうよ、楽しみねえ」

そういえば明後日は自分と西條のシフトが一緒になる日だな、と祐樹はまたぼんやりと考える。
殴られないようにしよう、と拳を握った。

途端、持っていたドライバーが落ちた。

「あ、」

かんかん、と音を立てて転がっていくそれを追う。
転がるそれはなかなか掴まらず、悪戦苦闘していると、また楽しそうな常田の声が聞こえた。



「女の子だから楽しみね」


それは確かに、祐樹の鼓膜に響く。



歓喜のベルに似ていた。


「ほんとっスか!?」

転がったドライバーを放置して、祐樹は2人の下へ向かう。その様子に2人は目を白黒させていたが、あまりの嬉しそうな顔に思わず噴出してしまった。

男の子だな、と思って。


祐樹は女子の友人が、あまり居なかったので純粋に友人をつくりたいだけだったのだが。




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