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「よかったな、米貰えて」
俺のおかげだぞ、と言いながら西條が隣を歩く祐樹を見れば。
「うへ、ばあちゃん喜ぶぞ!」
へらへらと先ほどとはうって変わって笑みを漏らしていた。
重たいお米を持つ手は震えているのに。
随分とばあちゃん子だな、と西條は思いながらため息を吐く。
コンクリートに座っているため、少々尻が痛むのだ。
なぜ彼らがこんな、体育館裏の人目のつかない場所に居るというと、先ほどの男前コンテストで西條が優勝してしまったためである。
西條や祐樹と同じ浅見町出身の生徒が、彼がそこのホームセンターで働いていることに気付いてしまったのだ。
なれば、チャンスと近づく女子は多い。
女子高生にとって社会人は、憧れの存在である。
ハートマークを乱舞され、西條はほとほと困り、祐樹を引っ張って人気の無いところにようやく落ち着けたのだ。
「つうか、お前それどうやって持ち帰ンだよ」
「…がんばる!」
「米持って帰る高校生…」
「うげ、はずい!」
顔を歪ませ、米の袋を抱えてバスに乗る自分を想像する。とてつもなく異色な図だった。
どうしようかと祐樹が首を傾げて悩んでいると、
「お前、後夜祭とかあんのか」
「いや、そういうのは無いっスね…明日、片付けとお疲れ会みたいのはありますけど…」
西條が胸ポケットから煙草を取り出す。
愛用のジッポで火を付け、一気に肺に煙を送り込んだ。
そしてため息を吐くように煙を吐き出しながら、
「お前ン家浅見だろ、乗ってけ」
待っててやるから、と付け足す。
その好意に、祐樹は信じられないと言わんばかりの形相になった。
目を見開き口を歪ませる。整った顔が台無しになった瞬間だった。
「…なンだよその顔は!」
「あ、雨ふるかなって」
「俺が冷血人間みてぇに言ってんじゃねー…つーかお前俺を見せ物にしやがって…」
「ひ!」
がし、と肩を掴まれ、
押し倒される。と、周りには見えた。
が、実際は
「あ"ー!あ"ー!いでてででっ!ギブギブギブ!」
「メイドうさぎにSTFかけるとはな…」
けらけらと笑いながら、ばたばた暴れる祐樹にプロレズ技を決めていた。
首は軽くしめているが、体重を思い切りのせて、足の関節をぎゅうぎゅう締める。
全身に走る痛みと重さに、涙目になりながら何度も抗議すると、ようやく解放された。
荒くなった息を落ち着かせながら、祐樹は同時に沸きあがる苛立ちを必死で抑える。
(やっぱ最悪だこの人…!)
相変わらずケラケラ笑う姿は、祐樹にとって悪魔以外の何者にも見えなかった。
「おい、」
「なんスか!」
おかげで返事も荒げた声でしか返答できない。
近づくものかと祐樹が距離を置いたその時、
「後ろ」
「え?」
後ろを振り向くと、祐樹よりひどい形相でもはや夜叉の面をした面々。
息を荒げたその方々は、祐樹を見下ろしながら
「…岡崎くんは…」
ゆっくりと喋る。
あまりの恐ろしさに、祐樹は凍った。
その方々とは、祐樹のクラスの女子一同である。
休憩を与えたものの、一向に帰ってこない祐樹を心配して探しに来たのだ。
もはや心配を通り越しているのは、彼が一番女装が似合うマイナスイオン的な(彼女達にとって)存在だからである。
「うちのクラスの目玉なんだから!ほら帰るよ!」
がし、と両腕を掴まれ引きずられる。
必死に謝りながら引きずられてゆく姿に、西條はまた爆笑しながらも、
「俺の車知ってンだろ、」
待っててやると告げた。
一瞬、祐樹は無視してやろうかと思ったが、人の好意(しかも滅多にくれない)を無下にするわけにはいかず、わかりましたと告げる。
そんな2人を見た女子一同。
直接聞く勇気も無く、悶々とどんな関係なんだろうかと考えまくったとか。
文化祭も、終わりを迎える。