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快晴、今日は絶好のスポーツ日和。
西條と練習したあの日から、あっという間に日は流れて球技大会当日だ。
じりじりと、日に日に暑くなっていく気温も徐々にピークに達する。
そのピーク前兆なのではないか、という程に暑い。

じんわりと肌に汗が浮き出てしまい、祐樹は手の甲でそれを拭った。
朝からこんなに暑くては、昼にはどうなってしまうことやら。
憂鬱な気分になりつつ、ぼんやりと選手宣誓の声を聞いていた。

すると、後ろに並んでいた雄太がぽつりと呟く。


「どうする?西條さんが仕事休んで来たら・・・」

その声にすかさず、

「来る訳ないだろ!」

と、雄太の鳩尾に向かって弱い裏拳を入れながら反論する祐樹。
その反応が面白くて、雄太は喉奥を鳴らして小さく笑った。
相変わらず西條のことでからかうと、耳が赤くなるのが面白いのだ。
そんな雄太のことは無視しようと決めて、祐樹はぷいと前を向く。

眉間に皺を寄せても、そこへ額から汗が滑り落ちてくる。
汗っかきで暑がりな祐樹にとっては、地獄でしかない時間だ。
あまりにも暑いので、西條のことすらどうでもいいと思うほどに。

ふと、雄太がちょいちょいと祐樹の肩を叩いてきた。
いい加減うっとうしそうに祐樹は、分かりやすい程に怪訝な顔をして振り返る。
するとそこには真剣な顔をして、校門の方向を顎で示す雄太の表情。
「あれ西條さんじゃね?」なんて小声で言った瞬間、祐樹は目を丸くして同じ方向を見た。

だがしかし、そこには近所のおじいさんしか居なかった。


「西條さんじゃないだろ!ボケッ!」

「祐樹の反応・・・!」


顔を真っ赤にして激怒する祐樹に、雄太は思わず吹き出す。
すると、案の定クラス担任が咳払いをしながら「静かに」と注意してきた。
2人とも普段は真面目なので、あまり怒られることがない。
その為、祐樹は少ししゅんと落ち込んでしまったが、雄太はあまり気にしていないようだった。
お前のせいだぞと祐樹は目で訴える。
だが、雄太の笑いは収まらず、喉奥でクククと笑いながら肩を震わせていた。


「くそ・・・バカにしやがって」


小声で悪態を吐きながら、もう二度と騙されないよう祐樹は前を向く。
病気になるほどの暑さとイライラする気持ちとで、どうにかなりそうだ。
夏なんか大嫌いだとまで思うほどに。

ふと、うつろな目でフェンスの向こうに視線を移す。
するとそこには、薄々感づいてはいたが、厄介な人々。


「あ!こっち見た!つか、やっぱ先輩細すぎだね・・・」

「そうか?別に普通・・・より少し肉ついてると思うけど。
 つーか、ひよりの標準が筋肉ムキムキなだけだろ!」


私服姿で、わちゃわちゃと会話をしているひよりと赤井の2人がいた。
楽しそうに手なんて振って、全校生徒の注目を浴びていることも知らないのだろうかと祐樹は呆れた。
ため息を吐きながら、少し睨んでやろうと目を凝らす。
すると、そこには思いがけない景色が広がっていた。


「どれ?どれがひよりの先輩?」
「あの眼鏡?背高くね?すっげ」
「いいなー球技大会・・・俺らのトコだと白熱しすぎて殴り合いになっからなあ」


10人は軽く超えているだろう、多くの不良たちがわらわらと見物していた。
その光景に、祐樹の喉からは掠れて空気のような悲鳴が漏れ出る。
たった一瞬しか彼らの会話を確認できていないが、確実に分かることは1つ。

全員がひよりの友達であり、あまり素行のよろしくない青少年たちであるということ。

さきほどまで暑くて出ていた汗が、どんどんと冷たくなってゆく。
周りが更にざわめき出し、冷静な雄太もさすがに青ざめていた。
せめてバレなければ、ただ冷やかしにきただけの連中と思われれば。
そればかりを、神にさえも祈ったのも束の間、


「あ!いた!祐樹先輩ー!!応援に来ちゃいました!」

大声で祐樹を呼びだしたのだった。
一瞬にして全身の血が引ける音がする。
まるで滝のように足元に落ちていく感覚に、祐樹は一瞬ぐらりと揺れた。

慌てて雄太がそれを支えると、祐樹はハッと気がつく。
自分が倒れそうになっていた事実と、そしてもう1つ。


「・・・岡崎の知り合いか?」


担任教諭が、複雑な顔をして祐樹を見ているのを。
それもそうだ。
成績優秀でおとなしい祐樹が、よりにもよって奈多高校の不良と知り合いなど。
・・・天明寺高校にとっては一大事である。

(やばい!このままじゃ・・・俺の高校生活に関わる!)

必死に言い訳を考えるが、なかなか思いつかない。
かといって、真実をいえばアルバイト禁止のこの高校。
罰処分がくだるのは間違いない。
どうにもならなくて、ただただ口をぱくぱくさせていると、


「彼女は・・・浅見の幼馴染です。
 機械が好きなので、奈多高校の機械科に進んだみたいですよ。
な、祐樹」


こういう悪知恵というか、言い訳はパッと思いつく雄太のフォロー。
真実と嘘がうまく混ざっていて、教師や周りの生徒も「そうなのか」と納得した。
祐樹も半笑いをしながら、「そうなんです、困ったもので」なんて話を合わせる。


「応援はいいけれど、あまり騒がしくしないように」


と、釘を刺して元の立ち位置に戻る担任教諭。
その背中を確認してから、祐樹はこれまでにない気持ちを込めて雄太の手を握り、


「助かった、雄太・・・!さすが悪知恵だけは働く・・・!」

感謝の言葉をかけた。
多少、いらない言葉が混ざっているが。

「バカにしてるだろ。
 俺はお前の為を思って・・・つーかアイツら何なんだよマジで・・・」

わちゃわちゃと何やら盛り上がっているひより達を見て、雄太はため息を吐いた。
まさか仲間たちを引き連れてくるとは思わなかったので、正直かなり驚いている。

おかげでちらちらとひよりの方を見てしまい、いつもと違う表情にも驚いていた。


(・・・あいつ、ちゃんと女友達もいるんだな)


いかにもギャルらしき見た目の女子だが、ひよりと楽しそうに談笑している。
普段から男とばかりつるんでいるものだと思っていたので、雄太は少し安心した。

(いや、安心してどうすんだよ俺は・・・)

直後、安堵の意味を薄ら感づき、即座に考えないことにしたのだが。


そして、多くのギャラリーが増えてしまった球技大会が始まった。



「じゃ、祐樹がんばれよ。ちゃんとアップしろよ」

だがしかし、祐樹の出るソフトボールはまだ始まらない。
他の競技に少し遅れて始まるのだ。
外で行われる競技はソフトボールだけなので、まずは中の競技から応援しなければならないのである。
ならば、開会式も体育館でしろよと、祐樹は顔を歪めながら思った。


「・・・雄太の卓球見てるよ・・・」


更に、小声でアップをサボりたい宣言まで。
気持ちは分からなくもない雄太だが、


「だめだよ!ちゃんと準備体操はしないと、筋肉が痙攣したり腱が切れたりしてしまうからね!」


将来は整形外科の医師を目指している長崎が、まるで体育教師のように注意をしてきてしまった。
普段はおっとりして優しい長崎。
だがしかし、体を痛めることは許せないポリシーがあるらしい。
そんな長崎に注意されて、無視することなど出来なかった。


「・・・イッテキマス・・・2人ともがんばって・・・」


肩を落としながら、祐樹は1人とぼとぼとソフトに出る面々の元へ向かったのだった。


「・・・頑張れ祐樹!優勝したらきっと西條さんイイ事してくれるぞー!」

さみしそうな背中を見せる祐樹に、雄太は思わず励ましの言葉を叫ぶ。
周りは一瞬どよめいたが、長崎以外はあまり気にしていない。
長崎は「西條さん!?」と驚いて目を丸くさせていたが。

しかしそれ以上に驚いたのは、


「な、なにでっけぇ声で変なこと言ってんだ!?アホ!」


当本人の、祐樹だった。
耳まで真っ赤にさせて、怒りながらバタバタと走って逃げる。
イイ事を少しだけ妄想しながら。

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