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「へぇー、西條さんに教わることにしたのかー」


抹茶オレを飲みながら、雄太は祐樹から話してくれた情報にニヤニヤする。
対する祐樹は、いちごオレを啜りながらニヤニヤされたことにムスッと口を尖らせていた。
相談と報告がてら、話せる人物が雄太しかいないのは不服なのだろう。

いつも、「あの祐樹がなぁ…」なんてバカにされるような言い方ばかりなのだ。
本人はバカにしている訳ではなく、ただ感動しているだけなのだが。


「で、どこで練習すンの?」

「見にくる気だろ、絶対教えねぇ」

更に詳細を聞こうと、雄太は身を乗り出したが祐樹はツンとそっぽを向いてしまった。
まだ付き合い始めたばかりだ、こういうことには慣れていない。
嫌がっているというよりは恥ずかしがっているのだ。
現に西條との話題の時はちょっぴり耳が赤い。



「行かねぇから!俺もその日は卓球の練習するし」

「本当かよ…。…まぁ、棚橋の河川敷でやるけど」



棚橋にはあまり行ったことがない雄太だが、あそこは人も多すぎないしデートにはうってつけの場所である。
この季節になると、日光が木々や葉をきらきらと光らせてとても綺麗になるのだ。
それに相まって、川の水も反射してあったかくなる場所である。

西條さんやるな…と雄太は内心彼を褒め称えた。
西條は単に、キャッチボールをやりやすい場所がそこだとしか思わなかっただけなのだが。


「しかし…なんかアレだな、予想以上にほのぼのしてるっつーか」


「はぁ?」


祐樹はあまり意味が分からなかったようだが、雄太の呟いたことは確かである。
初デートが動物公園を兼ねている牧場だったりと、チョイスが柔らかい。
西條の見た目からして、もっと派手な場所だったりいきなりホテルだとか雄太は思っていたのに。


「なんでもねぇよ、楽しんで来い」

「お前は保護者か…頭撫でンな」


祐樹の相手が、西條でよかったなぁと雄太は会って話したこともないのにぼんやり思う。
彼のふわふわした髪質を楽しみながら。
だが、祐樹は頑張ってその手を振り払おうと1人奮闘していた。
その努力に、雄太は全く気づく気配は無かった。


学校で勉学に励み、友人と楽しく過ごした後は週に数回入るか入らないかのアルバイトである。
いつもは土日だけに入れたのだが、今日は5時間目までだったのでシフトを入れたのだ。
おかげで土曜日はフルで休暇を貰ったのだが、半日は西條と過ごす予定。
あまり勉強が出来ていないと言われればそれまでだが、今はまだ楽しく過ごしていたい祐樹。


今日も今日とてゴキゲンにホームセンターに赴く祐樹。
ふと、前のバイトの時に西條に抱きしめられたことを思い出した。

(…きょ、今日もしてくれないかな…)

西條に抱きしめられると、幸せで仕方が無いのだ。
思わず期待してしまう祐樹だが、


(って!俺は何を考えて…!バイトバイト…)


浮かれきっている自分と、西條に期待しまくっている自分に嫌気がさした。
自分のことばかり考えては駄目だ、と意気込んで仕事モードに切り替える。
軽く両頬を自らの両手で挟むように叩くと、軽く走って裏口へと向かった。


仕事モードとなると、時間はあっという間に過ぎる。
祐樹が西條に会っても「おはようございます」だけで済んだし、何より今日はレジ担当だったので会話もあまり無かった。

それはそれで寂しいけれど、仕事と恋愛はちゃんと区別したいのだ。
だが、心の中では今すぐにでも西條と話をして、あわよくばぎゅっと抱きつきたい。
彼の体温に、触れたい。

それを必死にガマンしながら、今日の閉店時間が平和に過ぎた。
…平和に過ぎて、西條と幸せな土曜日を過ごすはずだったのに。
軸はほんの少しだけ、軌道を曲げることになる。


閉店作業も終えて、祐樹と中條はのんびりと帰宅準備をしていた。
すると、宮崎が倉庫から慌てて事務室へと戻ってくる。
「待って!」と息を荒げながら走ってくる彼女に、2人とも慌てなくても待ってますと紳士的な返事をした。
宮崎はそれでもわたわたと冷蔵庫のなかから、あるものを取り出してくる。

ケーキか何かだろうか、と祐樹がわくわくしていると。


「はい!これ、沢山貰っちゃったから…食べていって!
中條くんは…お漬物大丈夫かしら?」


取り出したのは、瓜類を漬けたいわゆる奈良漬であった。
不思議な色合いをした物体に、中條はちょっと尻込みつつも、


「ええ、ありがたく頂きます」


と紳士的な返事をする。
良かった、と宮崎は笑顔になると、食べたら戻してねとだけ伝えてまた仕事へと戻った。
去っていったことを確認する祐樹と中條。
そして、2人とも同時に深い溜息を吐くのだった。


「…俺、この漬物食ったこと無いンだよね…浅漬けだったらしょっちゅう食ってるけど」

祐樹は、見た事の無いタイプの漬物に少し怯えている。
一体何の成分が染みこんだ野菜なんだ?と疑問符を浮かべながら、それを1つ爪楊枝に刺して匂いを確かめた。
薄っすらと酒の匂いがして、ウイスキーボンボンの漬物バージョンかな?なんてアホなことを考える。
だが、中條はというと。


「実は僕…お漬物とか食べたことが無くて…あの、あまりしょっぱすぎるものは不得手でして…ははは」

「ええ!?さっき食べるよとか言ってたじゃんか!」


漬物自体、あまり好きでは無いらしい。
宮崎の手前、食べられると言ってしまったが、好き嫌いばかりはどうしようもできない。
中條も高校生らしく、嫌いなものは食べられないと口を噤んだ。

祐樹は、少しだけ先輩ぶりながら奈良漬を1つ口に運ぶ。


「まあ、俺が中條くんの分も食べるから」

「ありがとうございます!お礼は身体で」

「いらねぇーよ!」


なんて笑い話をしながら、祐樹は中條の淹れてくれたお茶を呑みながら奈良漬を8つも食べてしまった。
彼は、それが「酒かすに漬けたもの」だとは知らない。
案の定、8つを食べ終えた時点で祐樹の目はとろんと潤んで、口元はへらへら歪んでいた。

さすがの中條も、これは酔っ払っていると気づく。


「へへへ、中條くん、お茶持ってこーい」

「あ、ハイ今すぐに…じゃなくて、どうしましょう…と、とりあえず西條さんを…」



奈良漬8枚で、へろへろに酔っ払ってしまった祐樹。
元々酒が強い方ではない、というよりは未成年なので酒の味を覚えていないのだろう。
しかも絡み癖が人よりも強いらしい。
中條のシャツをぐいぐいと引っ張って遊んでいた。


「岡崎先輩、ちょっとだけ手を離しましょうね?
僕、西條さんを呼んできますから」

「えー…さいじょうさん…さいじょーさん…は、どこ?」

「今から来ますから、ね?」


案外面倒見の良い中條。
実は、将来保父になりたいくらいの面倒見の良さである。
よしよしと祐樹の頭を撫でて、手を離させるとダッシュで西條を呼びに行った。



「西條さーん!今すぐ来てくださーい!!」

「断る」



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