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西條と祐樹の間に漂う、くすぐったいような雰囲気を若干察すひより。
不思議そうに眉を顰めつつも、未だに気づいていないのかコソコソと祐樹に耳打ちをする。


「西條さんに応援に来てもらうとかはどうですかね?やる気倍増!」

「ええっ!?西條さんその日仕事だしムリ」


だが、西條のシフトはばっちり把握済みな祐樹にその計画は却下されてしまった。
それに、祐樹は西條にあまり自分の情けない姿を見られたくは無い。
軽く頭を横に振りながら、祐樹はエプロンをしっかり着けると、ひよりの隣に座って時間が来るのを待った。
すると、静かな事務室ではコソコソ話も意味が無かったのか、西條が書類に目を落としながら、


「俺がどうした?」


祐樹が自分の話題をしているのが気になっているらしく、さりげなく聞いてきた。
ひよりと祐樹は一緒に肩を跳ねさせて、目を丸くする。
聞こえていなかったと思っていたので不意打ちだったのだ。
どきんと跳ねた心臓を抑えながら、祐樹はごくりと唾を飲む。

久々に会ったからか、付き合ってから初めて会ったからか分からないが、緊張して仕方が無いのだ。
西條の声を聞くたび、気配を感じるたび心臓が鼓動を早める。
このままでは仕事に支障をきたす、と何とかこっそり深呼吸をして自分を抑えた。

そんな祐樹を余所に、ひよりはアハハと乾いた笑い声を出しながら誤魔化すように西條に返事をする。


「いやー、岡崎先輩の球技大会応援したら面白いですねという話です!」

「面白いって何だよ…」


相変わらず意味不明な返事に、西條は呆れて溜息を吐いた。
だが、未だに何やら誤魔化しているひよりを見て、西條は少し安心する。

なぜならば、それは「ひよりにバレていない」という遠まわしな証拠だから。
西條は、あまり祐樹との関係を表沙汰にしたくはない。
自分が恋愛関係の話をするのに慣れていないのもあるし、相手である祐樹は付き合うのは初めてだと言う。
きっと慣れている訳が無いだろうということで、その辺はゆっくりしようと決めたのだ。

だがしかし、そんな西條の配慮など知らないひよりは。


「いやでも、岡崎先輩出るやつソフトですよ!応援のしがいが!」

何とか西條と祐樹を近づけさせようと、アピールしまくる。
未だに祐樹の片思いだと思っているからだ。
こういう時の女子は、自分がするよりやけに積極的である。驚くほどに。

すると、ひよりの狙い通り…よりも遥か斜め上を行った回答が帰ってきた。
西條はぎょっと目を見開いて、祐樹を凝視する。
だが、相変わらず目つきが鋭いので、睨んでいるようにしか見えない。


「はぁ!?バットもろくに振れねぇのに何選んでンだ岡崎!」

「ひぃっ!?こ、これには訳が…!別に俺が好きで選んだ訳じゃねぇっス!」


おかげで、西條の心配の声がただの怒りにしか聞こえない。
そのためか、祐樹は久しぶりに身を縮こませて西條に怯えた。
いくら好きとはいえ、怖いものは怖いのだ。

(相変わらず怖ぇー…!あーちゃんと話聞いてりゃ良かった!)

じろじろと心配そうに見つめる西條の視線に怯えながら、祐樹は激しく後悔する。
バットも振れない、キャッチボールすらろくにした事の無いのにソフトを選んだなんて、呆れただろうとも危惧して。
まさか、たかだか学校行事に西條がそこまで心配するとは思ってもみないからだ。

そんなよく分からない状況の中、17時を知らせる有線放送が鳴り響く。
その有線放送に、思わず祐樹とひよりは仕事モードへとスイッチを切り替えた。
タイムカードを持って、ひよりはレジ・祐樹は商品補充をするために店内へと向かう。
先ほどのぐだぐだした空気が一変して、仕事の空気になるのは1人残された西條のいる事務室も同じ。

頭を切り替えて、西條はまた書類処理に打ち込む。
それほど量も無いので、終わったらすぐに発注や商品棚の模様替えをしてしまおうと計画立てながら。
机の上に置いてあった、発注用の機械を引き寄せると、ふと西條は思いつく。
普段、仕事中にプライベートの事を考えないようにしている西條だが、先ほどの祐樹との会話(にもなってないが)が心残りすぎた故である。

西條はこっそりロッカーに赴くと、携帯を取り出して幼馴染である望月に簡単なメールを送った。
良い返信であるように望みながら携帯をまたロッカーにしまうと、気持ちを切り替えて書類処理を始める。


一方その頃、店内の商品を補充している祐樹はというと。


(ああ…やっぱりムズいよなぁ…)

今更ながら、西條との付き合いに深い溜息を吐きながら悶々と考え込んでいた。
生活用品のコーナーで黙々とトイレットペーパーを積みつつ、溜息。
祐樹はある程度は仕事モードに切り替えることが出来るも、西條と違って完全なオンオフはまだ出来ない。
仕事をしながらも、思わず西條のことや決まってしまったソフトボールの事を考え込んでしまう。


(付き合うってどういう感じなんだろ…俺、付き合ったこと無いから分からん!)


恋人同士といえば、祐樹の(恋愛方面に対しては)貧困な想像では手を繋いでデート?ぐらいしか思いつかない。
しかし、西條と会う機会なんて西條が休みの日以外は、今のように仕事上でしかない。
プライベートで会うことは、なかなか無いのだ。おかげで、付き合っている実感があまり無い。

(そりゃまあ…まだ数日しか経ってないし…)

だが、告白からまだ数日しか経っていないことは事実だ。
しかもそれ以降会っていなかったので、分からないのも無理はない。
祐樹は前向きに考えよう、と自分の弱気な心を押して、別の棚に移動し始めた。

そこは同じように生活用品が並んでいる棚。
だが、トイレットペーパーやティッシュではなく、女性の生理用品が並ぶ棚だ。
祐樹にとって、出来れば避けたいエリアなのだが今日は大分売れたのかほとんど空の状態。
ひよりと交代後まで、持たないであろう。実質、「無いのかな…」と呟く女性が何名か通り過ぎた。

祐樹は唇をぎゅっと結んで、心頭滅却すると、無言で生理用品を綺麗に積み始める。
時折、「朝まで安心!」とのキャッチフレーズが目に入り、どういうことだと疑問に思うも何とか心頭滅却しまくって補充を終えた。
これでひと安心だと息を吐く祐樹。
だが、持って来たコンテナにはまだそのエリアに補充しなければならないものがあった。

それは、滅多に減ることの無いもの。


(…誰だよ…ココで買う奴は…!)


長方形の箱は、しっかりとビニールで包装されている。
淡いパステルカラーのそれには、特に商品名などは記されていない。
だが、さすがの祐樹も商品の中身は知っている。
2つほど手にとって、無言でさっさとそれを置く祐樹。

ふと、何を思ったかもう1つ残ったその箱のラベルを凝視してしまった。
ゼリータイプだとか、薄いだとかが記されており、思わず祐樹はふむふむと納得する。
だが、直後に生理用品を買いに来たであろう女性が近づいてきたため、慌ててそれを棚に戻すと、祐樹はそそくさとペットコーナーに逃げた。


(はあ…コンドームか…)

保健体育で、そういう知識は得たもののやはり慣れない祐樹。
授業の時、ビデオでコンドームの装着方法を見た衝撃は未だに忘れられない程である。
だが、いずれ必要な知識ということで祐樹もそれをどうやって何に使うかは学習済みだ。
おかげで、ハッと祐樹は気づいてしまう。
補充する前に悩んでいたことと合わせて。


(…つ、つつ付き合ったら、やっぱ…スんのか!?俺らが!?)


ガッ!と音を立てんとばかりに、祐樹は自分の顔を両手で押さえる。
セックスという単語が思い浮かんだ瞬間、心臓がバクバクと鼓動を早めてぶるぶると体が震えた。
恥ずかしさや、緊張そして恐怖が祐樹の心を一気に支配して、混乱する。

西條を好きになってから今まで、キス以上のことを考えてこなかったのだ。
自分が西條とどうなりたいのかも分からない位、祐樹は1人ペットコーナーで混乱した。


(どうやるンだ!?てか…俺はどうなりたいんだ…!)

今更すぎる悩みに、うんうんと唸りながら思わずその場に腰を落としてしまう。
頭を抱えて、悩めば悩むほど思い浮かぶのは泊まった時のこと。
西條の肌を見た事や、彼に身体へ口付けされたことを思い出す。


(うっぎゃあああ!!俺とんでもねーことされた!?ひいい!)

いつものストイックに仕事をする西條が自分に、と思い出すだけで頬から火が出そうになった。
ぬぁああ!と意味不明な叫びを小声で漏らしながら、恥ずかしさにのた打ち回る祐樹。
すると、なんとも良いタイミングで声が降ってきた。


「おい…何してンだお前は。不審者すぎるだろが」


「ぎゃあ!?」


呆れた表情を浮かべる西條の声に、祐樹は思わず飛び跳ねる。
しかも、変な方向に飛び跳ねたので、頭を棚に思い切りぶつけてしまった。
ガシャーン!と大きな音が店内中に響くせいで、辺りの買い物客は驚いてざわめき始めた。
西條は慌てて「大丈夫です」と買い物客にフォローを入れると、痛みに悶える祐樹を倉庫へと引っ張った。
そこは仕事モードのせいか、手ではなく胸倉を掴んで。



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