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ちょうど良いタイミングで鳴り響くチャイムに、西條はイラッとして表情を歪ませる。
その表情が今まで見てきた怒りの中で大分怖い部類に入ったので、祐樹はビビって動きを固めた。
尚も鳴り響くチャイム。非常にしつこい。

西條は盛大に舌打ちをして、ずかずかと玄関に向かう。
誰か確認もせずに鍵を外して勢いよくドアを開けた。
すると、いきなりドアが開いたために訪問者は当たりそうになって驚きの声をあげる。
わたわたしながら、訪問者は明るい笑顔で玄関に入り込んだ。


「よぉ、瑞樹!布団回収しに来てやったぞー」


日曜日なので、私服で登場してきたのは西條の幼馴染、望月だった。
望月は普段のジャージ+スーツとはまた違った、ラフなアメカジ風のスタイルで現れる。
綺麗目の服だとばかり思っていたので、祐樹は後ろでじっと望月を観察した。
すると、西條が祐樹に見えないように望月の胸倉をがっと掴み、


「おい…なんでわざわざ来てンだよ…俺が持ってくっつったろうが」

邪魔すンじゃねぇと脅しをかける。
もう少しでキスマークを付けたのが自分であることが確認できたのだ。
つまりそれは、昨夜の一連の流れが全て現実であるという証拠。
せっかく祐樹と本当に好き合って付き合うことが出来ると期待していたのに。

しかし、そんなことは微塵も知らない望月はしゅんとして、

「なぁに怖い顔してンだよー手間かかンなくて助かっただろ?」

上目遣いで許しを請うが、いくら顔が良くとも25歳の成年だ。可愛くはない。
むしろ、幼馴染の西條にとってはムカついて仕方ない表情だ。
べしっと音を立てて一発頭を叩くと、「持ってくるから待ってろ」と吐き捨ててリビングへ向かっていく。
その後姿を祐樹はぼんやり見つめながら、心底不思議そうに首を傾げた。


「…布団?」


それもそのはずで、昨夜は一緒に雑魚寝してしまったので布団など出していない。
使っていない借りっぱなしの布団は、部屋の隅に放置されたまま。
祐樹は西條の冬用の布団だろうかと思っていたのだが、あれは望月のものであったのだ。
何でわざわざと思っていると、

「あれあれ?もしかして使ってねぇの?」

望月が無遠慮にずかずかと靴を脱いでキッチンに上がってきた。
ずいずいと祐樹に近づいて、「昨日どうやって寝たの?」などなど質問をぶつけまくる。
望月はこういう人だったか?と、いつもとは違う高いテンションに怯えながら祐樹はちょっと逃げ腰になった。
あまり人にぐいぐい来られることは得意ではない。


「昨日は床で寝て…」

「えっ、なんで…って、あ」


飲んでも居ないのになぜ床で、という疑問をぶつけようとしたが望月は目ざとく祐樹の白い首筋に映えるうっ血の痕を見つけた。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、急いで望月の布団を持って来た西條に向かって、

「やったな瑞樹!」

なんて言って、親指を中指と薬指の間に入れる…例の下品な性交を示すポーズをとった。
慌てて持って来た西條には、先ほどの祐樹と望月の会話など聞こえてなどいない。
だがしかし、明らかに「ヤっちゃったな!」と言わんばかりの憎たらしい笑みとポーズに、イライラが頂点に。
重いはずの布団を望月に向かってぶん投げ、ギロリと睨んだ。


「うっせぇ、帰れ!」


いきなり布団を投げつけられて、望月はちょっと不機嫌になって「ンだよ!」と怒るが、これ以上邪魔するのも可哀想なのでいそいそと出て行く。
昼間から布団を持って出て行くとはシュール極まりないのだが仕方ない。
ドアを閉める瞬間、急いで鍵を閉めようとする西條にこっそり囁く望月。

「シたのか?」

どうやったか教えてくれよ!なんて、最低なことを。
しかし、その望月のせいで自分が一体どこまで本当に何をシたのか分からなくなったのだ。
西條はまた鬼のような形相で望月を見ながら、祐樹に聞こえないようこっそり返事をする。
もちろん、舌打ちもして。


「多分シてねぇ、帰れ」

「え、どういうこと…あっテメェ」


望月が驚いて疑問してきたが、無視して西條は思い切りドアを閉めた。
バタン、と大きな音が静かな部屋に響く。
大きな布団を押し付けられて、部屋から追い出された望月は不服そうに唇を尖らせつつも、西條を怒らせるのは嫌なのですごすごと帰宅した。
今度高い酒を奢ってもらおうとちゃっかり一方的な約束を取り付けながら。


一方、いきなり現れた邪魔者に、西條は相変わらず不機嫌そうに眉間に皺を寄せたまま。
野暮なことを散々突いてきたので尚更だ。
そんな西條が何だか怖くて、祐樹は「続き続き…」なんてひとりごちながら料理を再開した。
ハンバーグのタネを作り、ちょっと置いといて別の料理を作る。
男2人だ、量は多い。

ほうれん草とコーン、そしてベーコンでソテーを作る。
これならば料理初心者の祐樹でも可能だ。更にボリュームがあってお腹いっぱいになるだろう。
材料をバターで炒めながら、隠し味ににんにくの微塵切りを入れてみる。
働き盛りの西條には良いだろうと、結局西條のことばっか考えた料理だ。

すると、リビングでイライラしていたはずの西條がひょっこり現れた。
祐樹は料理に集中していて気づかない。
だが、西條は祐樹の肩に手を乗せて抑えながら、出来上がって皿に盛ったソテーをちょっとツマミ食い。


「あっ!ツマミ食い!」

「腹減った」


バターとベーコンが空腹に直接クる香りを漂わせたために、寝起きから何も食べていない西條は思わず手を出してしまった。
ほうれん草とベーコンだけだったが、十分美味い。
これうまい、と褒めながらもう一口頂こうと手を伸ばした。
しかし、祐樹にぱっと手を止められてしまう。あと一口とねだろうとしたが、


「手で食ったらベタベタになるっスよ」

はい、といくつか菜ばしで取って、西條に差し出す。
いわゆる、あーんの形だ。西條は初めびっくりしたけれども、嬉しいことに変わりは無い。むしろ役得。
あ、と口を開けて屈んで待つと、祐樹はへらっと笑いながら西條に食べさせる。
箸越しに伝わる口の感触に、祐樹は何だかドキドキしてしまった。

「うまい?」

さっき、美味いと言ったのにもう一度それを聞きたくて、再度聞く祐樹。
期待した瞳で且つ上目遣いで見られ、西條は頬を緩ませながら、


「うめぇ。だからもう一口くれ」

もう一口食べたいの半分、祐樹にまた食べさせて貰いたいの半分でまたねだった。
祐樹は困ったように笑って、あと1回だけと言う。
無くなっちまうからーと言いながらも、嬉しそうにもう一度箸でいくつか取って西條の口に運んだ。
再度屈んで、素直に口を開けて食べる西條。この味が大分気に入ったらしく、美味そうに食べていた。

しかし、これ以上食べたら少なくなってしまうので更に食べたい気持ちをガマンしながらねだるのを止める。
少し子どもっぽい西條に、祐樹は何だか可愛いと思いながら料理を再開した。
隣にいる西條がちょっと気になったけれど、すぐにリビングへ戻っていったのでちょっとホッとする。


そして、ハンバーグの焼き方に悪戦苦闘したり、コンソメスープみたいなものを作ったり努力すること45分後。
やっとこさ、ちょっとばかし豪勢な昼食が出来上がったのだった。


空腹は最高の調味料という言葉があるが、その通りかもしれないと西條は思う。
大分腹が減ったので、一生懸命祐樹が運んで並べた食事を早速頂くことにした。
出来立てでほかほかと湯気が立っているそれらは、ちょっと不恰好だけどとても美味しそう。

祐樹が作ったメニューは、
チーズ入り(大分溶けてはみ出てる)ハンバーグに添え物としてニンジンのグラッセとブロッコリーに惣菜のエビフライ。
更に、先ほど西條がツマミ食いしたほうれん草のソテー。
そして、野菜が沢山入ったコンソメスープとオーソドックスにご飯。何故か、ついでに祐樹の祖母が浸けた浅漬け。

祐樹は豪勢に並んだそれらを見て、頑張った!と小さくガッツポーズをした。
自分の誕生日を祝うために頑張った祐樹を見て、西條は思わず頬を緩める。何だか幸せだと思えた。
人に料理を作ってもらうことがこんなに嬉しいものなのか、としみじみ想いながら早速ハンバーグに箸を伸ばす。


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