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遮光カーテンの隙間から朝日が差し込む。
おかげで電気をつけている意味も無くなり、二重の眩しさに西條は重い瞼を上げた。
まだ意識は完全に覚醒しないため、何度も瞬きを繰り返す。
しかしまだ眠たいので、二度寝に入ろうとまた瞼を下ろそうとすれば、

「…いって…」

目覚めさせるかのように急に響く頭痛。
昨夜、祐樹が度の強いウイスキーを飲ませたことを思い出し、それかと納得する西條。
久々に味わう二日酔いの苦しみに、しばらく小さく唸る。
頭蓋骨を壊すかのような勢いある頭痛に耐えながら、西條は仕方なく瞼を上げた。

目の前に広がる風景は、


(…は…?)


すーすー、と規則正しく寝息を立てる祐樹のあどけない寝顔。
自分の隣で横になって眠っている。
西條はあまりのことに理解が出来ず、なぜか布団を持ち上げ、自分と祐樹の衣服を確認した。
2人ともちゃんと衣服は着ているので、過ち…というか西條にとって出来たらシたいことは無かったらしい。
ちょっとホッとしつつも、少し残念な気持ちもあったりなかったり。

布団を下ろして、ぼんやりと祐樹の寝顔を見つめる西條。
癖の強い髪は無造作にあっちこっちの方向に向いている。きっと寝癖がひどいことになっているだろう。
綺麗めの顔立ちを元々しているが、寝顔はあどけない子どものような雰囲気だ。
長めの睫毛が朝日と電気のおかげで影を落とす。
小さな唇は少し開いていて、そこから息が規則的に漏れていた。

西條は、祐樹の健やかに眠る姿を見てふわふわと気持ちが浮く。
頭がめちゃくちゃ痛いが、祐樹の寝顔を見て時折髪をちょっと触るだけで癒されていくのだ。
ゆっくり、優しく祐樹の頬を撫でる。
すべすべとして心地よくて、温かい。
触るたびに、祐樹の頬がふにゃっと緩んでいくのが分かった。


(…つか、俺なんで床で寝て…?)


祐樹の頬を撫ぜながら、徐々に意識を覚醒させていく。
なぜ床でわざわざ寝ているのか、隣にベッドがあるというのに。
素朴な疑問をぐるぐる一生懸命考えながら、西條はゆっくりと身を起こしてみた。
とりあえず身体を起こせばしっかり目覚めて、考えられると踏んだからだ。
西條の思惑通り、意識がしっかり覚醒してゆき、理性や判断力が目覚め始めた。

だが、目覚めたおかげで色々なことを 思い出してゆく。
とてもぼんやりしたものだが、確かに昨夜自分が言った言葉を。


あまりのことに一旦フリーズする西條。
どっと、冷や汗が背中に沸いた。


(俺は何をしてンだ…!?)

告白はいずれ自分からしようとは思っていた。玉砕覚悟で。
けれど、まさか酔った勢いでポロリと言ってしまうとは思わなかった。しかも好きとも言わずに。
頭を潰すかのように抱える西條。
痛いけれど、それよりも思い出していく自分の言葉の方に冷や汗が湧く。
だが、まだ告白の部分しか思い出せない西條。その後どうやってこの体勢になったのか分からないのだ。
思い出せないのならば、もしかしたら断片的な夢かもしれない。
その可能性を踏まえて、唸りながら頭を抱えて必死に思い出そうとしていると、


「…あ、…おはよう、ございます…」

寝ぼけ眼を擦りながら、掠れた声で祐樹が西條に声をかけた。
西條の唸りのせいで目が覚めたのだ。本人はさほど気にしていないが。
ぎくり、と西條の動きが止まる。


「…お、おう。体痛くねぇか」


とりあえず返事をして、床で寝たため体を労わった。
すると、祐樹はのそのそと起き上がり、その場に胡座をかいて自分の身体を触り始める。
案の定床で寝たためか体の部分部分がちょっと痛むらしい。


「ちょっと痛いけど…ヘーキっす…」

寝ぼけているので、いつもより柔らかい、へにゃーとした笑みを浮かべながら返事をした。
その笑顔と、祐樹の声を聞いて思い出した。自分の告白への返事がイエスであることを。
それがどちらも相まって、西條の心臓を跳ねさせた。
高鳴る鼓動を抑えながら、「そうか、悪かったな」なんて冷静を装う。

内心では、現実なのか夢なのか未だに必死にぐるぐる考えているというのに。
そんな西條のことなど知らないかのように、祐樹はまだ眠いのかうとうとと船を漕ぐ。
座ったまま寝そうな祐樹に気づいた西條は、一旦考えるのを止め、


「まだ寝てるか?…一応今10時ぐれぇだけど」


大分寝てしまったな、と西條は自分に呆れながら時計を見る。
すると、祐樹は10時という単語に反応し、ゆっくりと頭を横に振った。
今から昼飯の材料を買いに行って、西條のために作らなければならない。
また寝てしまっては、きっと作れずに終わってしまうだろう。
祐樹は「起きる…」と小さく呟いて、一生懸命瞼を擦った。何とか瞼に上がっていただきたい。

そんな些細な行動さえも可愛いなんて思ってしまう西條。
18歳になった男子高校生相手に思うものではないが、祐樹の些細な行動でさえ愛しさを感じてしまうのだ。
また触れたくなるのをガマンして、西條は祐樹に「顔洗ってこいよ」とタオルを渡した。
こくん、と頷きながらタオルを受け取る祐樹。
いそいそと洗面台へと向かっていった。

朝は弱いのか、と西條は新たな発見を覚えながら祐樹が顔を洗っている間に着替えを始める。
特に衣服はダサくなければいいや、という考えの持ち主だったが最近はちゃんと選んでいる。
元々、私服でいる時間が少ないし、祐樹の前だからというのもあるが。
…素材がいいので、それほど気にしなくても大丈夫だということを本人は分からない。

ジャケット以外を着替えた後、タイミングよくドアが開く。
顔を洗ってサッパリ目覚めた祐樹が「借りましたー」と報告しながら部屋に入ってきた。
次は交代で西條が洗面所へ向かう。
その様子を見て、祐樹は自分が西條の家に泊まったということを今更ながら実感した。

持ってきた服に着替えながら、祐樹はぼんやりと点けてあるテレビを眺める。
日曜の昼によくあるローカル番組。祐樹も好きでよく見るのだが全く頭に入らない。
着替えを終えた後も、ぼーっとテレビに向かって視線を浮かせていた。

思い出すは、昨夜の出来事ばかり。
西條に告白されて、イエスの返事をしたら抱きしめられた。
鮮明に思い出せるほどその出来事は祐樹にとって幸せで大きいことである。
けれど、やっぱり半信半疑。
西條が昨晩あまりにも酔っていて、尚且つ今朝の態度がいつもと変わらないから。


(…い、一旦忘れて、今日は飯作らないと…)


西條の体温や吐息を思い出してまた欲情しそうになる自分を必死に抑える祐樹。
今日は、西條のために美味しい昼食を作ると決めていたのだ。
ぼんやりして焦がしたり失敗したらマズい。
祐樹はきゅっと唇を結んで、持ってきた料理本で復習し始めた。
戻ってきた西條が隣に座って、一瞬集中が吹き飛びそうになったのは言うまでも無い。


しばらくして、西條が思い出したかのようにテレビを見ながら話しかける。

「そういや…材料買いに行かねぇとな」

「あ、ハイ!この辺にスーパーとかは…」

「あー…確か、タカザワが近くにあったな」

タカザワとはまあまあ大き目のスーパーである。
そこならば大体の食料品は揃うであろう。祐樹はじゃあそこに…と言って財布を取り出した。
シンプルな黒い財布を見て、ふと西條は気づく。
そういえば、今回祐樹はめちゃくちゃ出費していないかと。
確かにウイスキーを買ったり、無駄にお泊りセットを買ったため祐樹の財布はそろそろ悲鳴を上げそうだ。


「飯代は俺が出す」

お前、ヤバいだろそろそろ。と、言いながら西條はその財布を奪い元の場所に戻す。
祐樹は数秒ほどあっけに取られたが、すぐにその財布を取り返して、

「い、いや、大丈夫だし…」

もごもごしながらも大丈夫だと胸を張って財布を奪われないようにぎゅっと握り締めた。
西條の誕生日なのだから、西條に払わせるのは嫌なのだ。
祐樹も男としてのプライドは持っている。
西條もその気持ちは分かるけれど、まだ祐樹は高校生だ。無茶はさせたくない。


「昨日のウイスキーで貰ったようなもんだろ、気にすんなよ」


2人分じゃたいしたことねーよ、と言いながら西條はそっと祐樹の財布をまた取り、鞄に戻した。
さすがに二度目ともなり、祐樹は諦めて財布を取り戻そうとはしない。
けれど、「西條さんの誕生日なのに…」と小さくひとりごちながら口を尖らせた。
そんな祐樹を見て、思わず頬が緩む西條。
祐樹のこういう、ひねくれていない純な所が好きだ。

「…行くかー」

心の中で惚気る自分に呆れて、西條は忘れたかのように取り繕う。
自分の財布をポケットに突っ込みながらキーケースを手に取った。
祐樹は慌てて立ち上がり、必要な材料をメモした紙を持ちながら西條の後を着いて行く。

外に出ると、初夏のおかげで晴れ渡った綺麗な青空が広がっていた。
心地よい温度と空気に、祐樹はちょっと深呼吸をした。

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