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100円均一で買ったマドラーでウイスキーを混ぜる祐樹。
本格的か…、と西條は軽く突っ込みながら祐樹の傍にリンゴジュースを置いた。
すると、祐樹はマドラーを動かすのを止め、嬉しそうにお礼を言う。
風呂上りにはやっぱり飲み物っすよね!なンてよく分からない事を言いながら。


「どーぞ…俺、ウイスキーとか作ったこと無いンで分かンないっすけど…」

そして、作り終えたウイスキーの水割りを西條に差し出す。
ハイボールとか、お湯割りとか色々オススメを祖母から受けたのだがさっぱり分からなかったのだ。
なので1番質素な水割り。だが、ウイスキーがまあまあ値段高めなので良いだろう。

「おう、サンキュ」

西條は素直に礼を言って、口の端を上げながらグラスを持ち上げた。
祐樹が入れてくれた酒は格別に美味いだろう。
早速、ぐいっと喉に落とすように一口飲んだ、のだが。
ゴクリと呑んだ瞬間、勢いよく咽る。
ガハガハッ!とまるで気管に何か入ったかのごとく咳き込む西條に、祐樹は驚いて目を丸くした。
慌てて呑んだのか!?と祐樹がおろおろしていると、


「ばっ…かやろ…!岡崎、お前どんな割合で入れた…!?」


喉のヒリヒリ感を抑えながら、西條がちょっと涙目で睨みつけて来た。
祐樹はまた更におろおろしながら、

「え!?カルピスと違って水みたいだから…水はちょっとだけ…」

まさかの、水割りでない発言をした。本人は水割りだと思っているが。
カルピスのようなものだと祐樹は思っていたので、注いだ時不思議に思ったのだろう。
濃い方が美味しいという認識だったため、水割りではなくほぼストレートのものを出してしまった。
しかも、祐樹の買ったウイスキーはアルコール度40度以上。
焼酎よりも高めのものだったので、水割りだと思って思い切り呑んだ西條にはキツかった。

喉が焼けるようにヒリヒリして、一気にアルコールが体内に回る。


「…これの半分でいい」

西條はもう1つグラスを持ってきて、それを2つに分けた。
それでも大分濃いのだが、先ほどよりは薄いので何とか呑めるだろう。
祐樹が「すいません」としょげるのを見ながら、西條は気にするなと言わんばかりに呑む。
先ほど一段と濃いものを呑んでしまったので、今のでも十分に濃いのだが感覚が麻痺したのだろう。
いつもよりアルコール度の高いウイスキーを半分以上飲み干した。

祐樹と一緒におつまみ代わりの菓子を食べながら、いつもより早いスピードで酔いを回らせる。
本人はそれほどの量とは思っていないのだ。…更に、度は高い。
2杯目を呑み終えた後、更に祐樹が注いで来たものを呑んで、西條は。


「…あれ?西條さん…?」


ベッドに背中を預けて、ぼんやりと空中を見つめる程に酔ってしまった。
いつもならば完全に酔っ払う一歩手前で飲酒を止めるのだが、祐樹と話していて楽しかったのかグビグビ呑んでしまったらしい。
完全に酔ってしまい、西條は祐樹の言葉に応答しない。
かろうじて意識はあるものの、理性は無きに等しいのだ。
寝る一歩手前。頬を少し紅潮させて、ぼーっと宙を見つめる。

そんな西條に、祐樹は不思議がって近寄った。
幾度か「眠い?」とか聞いてみるけれど「うー」とか「あー」位しか返事はしない。


(…酔っちまった…のかな?)


初めて見る、西條の酔っ払った姿。
もっと豪快かと思っていたが、予想外に大人しい。
祐樹の胸に何かがこみ上げてきて、思わず隣に寄って行ってしまった。
隣、と言っても大分距離はあるが、顔はよく見える。
いつもはキリッと締まった顔をしているのに、ぼんやりした緩い顔だ。


(そんなに強いのか…?)


ウイスキーどころか酒も呑んだことが無い祐樹。
煙草は吸っても酒は呑まない理由は、1人で酒を呑んでも楽しく無さそうだからだ。
煙草は1人で吸うものだから。
今となっては、吸っていないに等しいのだけれど。

だが、煙草を吸うほどの罪への好奇心はある祐樹。
西條がぼんやりしている今、この余った酒を呑むことは可能ではないか。
1口位…いいかな、と祐樹はあっさり好奇心に負けて西條の呑んでいたグラスを手に取る。
西條が口をつけていた所を飲めば、関節キスかもしれない。
と、一瞬思ったがさすがにそれは…と遠慮して反対側から一口呑んでみた。


「かっら…!?」

超度数の高い祐樹特性ウイスキーを呑まされた西條と同じように、祐樹もガハガハと咽る。
呑んだことのない人間が、いきなり度数の高いウイスキーを飲んだならば当たり前だ。
更に、祐樹は甘い方が好き。美味しくない!と口を尖らせた。

しかし、何だか徐々にとろんと瞼が落ちてくる。
ふわふわと気持ちが浮いてきて、何だか体が熱くなってきた。
…たった一口呑んだだけだったが、度数が強いので酒に強くない(むしろ慣れていない)祐樹は酔ってしまったのだった。
思わずもう一口。更に酔っ払う祐樹。
顔に出やすいのか、頬が真っ赤に火照って目がとろーんとしている。
酒の入っていない西條が見たら、一体どうなることか分からない位にいつもとは違った雰囲気を出していた。

そして、


(…西條さん…)


へにゃあと締まりの無い笑みを浮かべながら、祐樹はぴったりと西條の隣にくっついたのだ。
酒が入ると恥ずかしさとか遠慮が無くなり、素直になるらしい。
甘えるように西條の腕に頬を摺り寄せる。すり…と寄ると西條の香りが鼻腔を満たす。
それが、なんだかとっても幸せだった。

ふと、西條がぼんやりした意識を徐々に覚醒させていく。
と言っても完全に酔いは覚めないので祐樹が自分のすぐ傍にいるという認識程度。
夢か現か分からないけれども、こんなにも近くに居てあまつさえ甘えてくる祐樹に胸が熱くなる。

肩口にある、乾いてふわふわした髪に西條は顔を埋めた。
自分の家のシャンプーの匂いだけれど、感触は祐樹の髪。ふわふわして気持ちいい。
すると、祐樹はさすがに西條ほど酔っていないので慌て始めた。
ちょっとだけ理性が戻ってきたのだ。


「あ、あのー…西條さん、寝ますか…?」


自分から寄ったのに、まさか頭に顔を埋められると思っていなかったのでパニック。
嬉しいけれど、恥ずかしくてたまらない。
もじもじと身体を揺すりながら、寝るかどうか問うた。
しかし、西條は何も言わない。そして、祐樹の肩に腕を回して、抱き寄せた。

「うわっ!?」

西條の胸の中に納まる祐樹。
心音がとても近くに聞こえ、西條の香りがいっぱいに広がり、体の感触が嫌ってくらい触れた所から染み渡る。
どっと一気に祐樹の鼓動が早まった。
それでも、西條は祐樹の髪に顔を埋めたまま、ようやく言葉を紡ぎ始める。
酒焼けでいつもより低く、掠れた声でゆっくりと。


「岡崎、…お前 俺と居てツラくないか…?」


酒で本音が、零れた。
西條は、祐樹の事が好きでたまらないけれどその分不安もあったのだ。
どれほど自分が祐樹を傷つけたり、意地悪をしたりしたか分かる。
そして、自分は8つも年上だ。明日で26になる、三十路間近の男。
そんなやつと大事な10代をこんな風に過ごしていていいのか、と大人なりに不安だったのだ。
好きだからこそ、心配なのだ。彼の、今と言う時間が。

「…俺はなぁ…昔っから口悪ぃし、態度もでかいからよ…」


祐樹は何度か大きく瞬きをする。
確かに、西條は口も悪いし、態度もでかい。
何度か意地悪をされたし、正直傷つけられたこともある。嫌いだった。

けれど、


「…ツラく、ない」


好きだ。

こんな風に情けなかったり、自分の弱さに苦しんだりする姿さえも。
抱き寄せられて、体温を知って、西條の弱い部分も知って更に祐樹は再確認した。
西條の優しいところも、情けないところも、意地悪なところも、全てが好きだ。


「俺、ちゃんと言ったじゃないっすか…一緒に、居たいって」


楽しくても、ツラくても、一緒に居たいんです。
小さな、小さな声で顔を真っ赤にしながら祐樹は伝えた。
お酒の力で、普段なら絶対に恥ずかしくて言えないことがポロリと零れる。
照れ隠しにと祐樹は西條の胸に顔を埋める。いい生地のスウェットが顔に当たって心地いい。
すると、いきなり西條は顔を祐樹の頭から離して、祐樹の目の前に近づけた。
身体を屈めて、祐樹を一旦胸から離して。

じっ、と祐樹の瞳を見つめる。
こんなにも見つめあったのは初めてではないか、と祐樹は全身を軽く奮わせた。
愛しそうに西條は祐樹を見つめる。
どうであっても、西條と一緒にいたいという言葉に西條の心は完全に落ちた。理性はとっくに落ちている。


「岡崎、」


ウイスキーの香りが祐樹の鼻腔を刺す。
それは西條の口から香るものだ。それほど、2人の距離は無いに等しい。
祐樹はあまりのことにショートして、「ふぅ、」と気の抜けた息を出す。痺れに似た震えが止まらない。
西條の額が、祐樹の額に当たった。コツン、と小さな音がする。
いつの間にか、テレビが消えていたことに祐樹は今更気づいた。
静かな部屋の中。


「俺と、付き合ってくれ」


その言葉が、ひどく木霊したのは祐樹の頭の中。
付き合うって、どこに?とかそんなベタな事も過ぎったのだけれど、その真剣な瞳がそんなことを言うはずが無い。
一気に酔いが頭に回りすぎて、冷静に戻り始めた祐樹は、

「…は、い…」

震えて掠れた声でそう伝えながら、小さく頷いた。

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