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「好きなトコ座ってていいぞ」

と言って西條は祐樹を置いて台所へ行ってしまった。
祐樹はもう既に夕飯を済ませたので問題ない。
祐樹が西條にご飯を作るのは、明日なのだ。買出しは明日一緒に近くのスーパーに行く。

テレビでも点けてろ、と言われたので祐樹はいそいそと小さめのテレビの電源をつけた。
この時間帯ならば、いつも見ているバラエティ番組がやっているはず。
チャンネルを変えて準備万端にした後、祐樹はどこに座ろうか迷った。

うろうろ…とちょっとだけさ迷いつつ、とりあえずテーブルの窓側にちょこんと腰を下ろす。
持ってきたウイスキーを鞄から出してテーブルにどんと置いた。
どうせ夕飯を食べるならば、西條に注ぎたい。
氷はあるだろうか、と西條に聞くために立ち上がろうとしたそのとき。


「おし、行くぞ岡崎」

「えっ?」


西條がコンビニ弁当と何か袋を持って、祐樹に来いと言ってきたのだ。
祐樹は慌ててテレビを消すと、先に玄関の外に出た西條を追う。
座ってテレビを見てろと言ったのに、いきなり外に来いとは何事か。
苛々とは来ないが、不思議で首を傾げる祐樹。
わたわたとしながら部屋を出て、鍵を閉める西條の後ろに立つ。

西條は祐樹に来い来いと手招きをして、更に上へ向かう階段を昇っていった。
祐樹も後を着いて昇ってゆく。にやける頬を隠すために、2段後。
正直、手招きされて何だか嬉しかったのだ。親密になった気分で。

そのまま上がってゆけば、3階の上にまた更に屋上のようなものがあった。
3階程度の共同住宅で屋上があるのは物珍しい。
更に、特に規制をしていないのか所々に座れるようなベンチがあった。

その1つに西條は向かうと、腰を下ろす。
祐樹にも座れと目で合図すると、祐樹も隣に腰を下ろした。

ちょうど、街が一望できる場所。
格子がちょっと邪魔だけれども。

それほど煌びやかでも無い街の灯りのおかげで、夜空の天の川が打ち消されていない。
星空と、街灯りの融合がとても綺麗で、祐樹は思わず感嘆の息を漏らす。
感動でぼんやりする祐樹の隣で、西條はガサガサと袋を漁る。
そして、自分のコンビニ弁当を横に置いて、先に別の袋とフォークを祐樹の膝の上に置いた。

いきなり何かを置かれて、祐樹は目を丸くする。
その瞳がきらきら光っていて、西條は思わず心臓を跳ねさせた。
時々思うけれども、祐樹の瞳は綺麗だ。それは、星空を映しているからか、西條を映しているかは分からない。

開けてみろ、という声に祐樹は素直にそれを開けた。
袋の中からは小さな箱。そして、その箱からは、


「…ケーキ!?」

小さなホールケーキを模したショートケーキ。
控えめにちょこんと添えられたバースディチョコレートにはローマ字で祐樹の名前が描かれている。
つまり、これは適当に買ってきたものではなく、西條がケーキ屋で頼んだものだ。


「それ買ってたら遅くなっちまったンだよ」


仕事を早めに終わらせて、さっと買う予定だったのだが仕事も買うのも押してしまったのだ。
西條はずっとケーキを見つめる祐樹を横目で見ながら、


「…18、だよな。あー…、…誕生日、おめでとう」


照れくさくて小さな声で告げた。
ぶわっ、と祐樹の全身に言いようも無い温かみと幸せな痺れが広がり染みる。
嬉しいとか、一言じゃ収まらない位の喜びが心を満たした。
震えそうになる声を必死に整えて、祐樹も告げる。


「…あ、…ありがとう、ございます…」


最後の方は小さく掠れてしまった。
ごまかす様に、いただきます!と大きな声を出して、いきなりがっつく祐樹。
いい値がするものなのだろう、コンビニのケーキとは全く違う美味しさに祐樹の頬がほころぶ。
西條が自分のために買ってきてくれて、おめでとうと言ってくれて、こんな綺麗な場所に連れてきてくれて。
それが、全部積み重なって美味しいケーキが何倍も何百倍も美味しいと思えた。


嬉しそうに食べる祐樹に、西條はほっと息を吐いて自分も弁当を食べ始める。
喜んでくれてよかった、と心から思えた。
祐樹はケーキを夢中で食べながら、天に流れる星の川を見上げる。
何だか嬉しくて、段々味が分からなくなってきた。

ふと、西條の方を見れば、彼もちょうど祐樹を見ていたらしく目が合う。
もぐもぐと鮭を食べている西條を見つめながら、祐樹はへにゃっと笑った。


「すげー、…美味いっス…」

ふにゃふにゃと緩い笑顔を浮かべながら、そんな可愛い事を呟く祐樹に西條は箸で掴んでいた米を落とす。
しかし西條はそんな事を気にしない素振り。
それは良かった、なんてそっけない返事をして、またご飯を箸で掴んで口に運ぶ。

2人がそれぞれを食べ終えるまで、静かな時が流れた。
時折下の道路から、車が走る音が聞こえたり、人の話声がほんのちょっと聞こえる程度だけ。
食べているので沈黙が長かったけれど、全く苦痛に思えなかった。
それは、2人とも。

7月7日。
祐樹にとって、特別な誕生日になったのだった。




「お前、風呂いっつも何時に入ってンだ」


食べ終えた後、しばらく屋上でのんびり過ごしてから部屋に戻ってきた2人。
西條が、用意した丸型ザブトンの上にちょこんと座る祐樹の隣に座りながら聞いた。
祐樹は「うーん」と首を捻りながら時計をじっと見る。
正直、まちまちだ。祐樹の気分で1番風呂に入ったり、最後に入ったり。


「特には…決まってねーけど…10時頃?」

「そうか、じゃあ湯 張ってくる」


西條は立ち上がると、さっさと風呂場へ行ってしまった。
祐樹は「え!?」と間抜けな声を上げながら、慌てて後を着いていく。
普段、西條はシャワーだけ浴びるのだと以前何気ない会話で聞いたことがあるのだ。
自分のためにわざわざ面倒くさいことをさせては申し訳ない。

シャワーで良いと、言おうとユニットバスのドアを開ける。
すると、バス用の洗剤を湯船にかけて掃除する西條の姿。
思わず、祐樹は言うのも忘れてニヤニヤしながらその姿を眺めてしまった。
何だかとっても珍しいというか、面白いというか。

そんな祐樹に、西條が気づかない訳が無い。
視線に気づいた西條が外を見れば、祐樹が同じ目線に座りながらニヤニヤして此方を見ているのだ。


「…何見てンだ?」

「え…いや、何か…ウケるというか」

意外性の爆発というか、なんて日本語としてどうなんだという発言をする祐樹。
バカにされていると気づいた西條は(そんな事は無いのだが)スプレー型の洗剤を祐樹に向ける。


「バカにしてンのか、かけるぞ!」

「ぎゃっ!?」


かけるフリをして、祐樹の近くにある壁に向かってひと噴き。
それでもビビって声をあげ、わたわたと逃げ帰る祐樹。
相変わらずアホだな、なんて思いながら西條はささっと掃除を終わらせ、湯を張り始めた。

湯が満タンになるまで、西條はユニットバスの使い方を教えた。
西條の予想通り、祐樹は使い方を全く知らない。
シャワーを浴びる時は、シャワーカーテンを湯船に入れろと何度言っても理解出来ないのか何度も首を傾げた祐樹。
頭はよく、理解も出来るのだが如何せん使い方に至ってはその理解が通じないらしい。
祐樹が入ってきた当初、レジスターの説明がどれほど大変だったが思い出される。


「…床、びしゃびしゃにすンなよ。まぁ、拭くけど…」

「りょ、了解っ」


最後にそう忠告すると、祐樹は持ってきたタオルやら下着、スウェットを持っていそいそと風呂場へ向かった。
バタン、とドアが閉まる音がした後、また開く音がする。
服はどこに置けば…!?と慌てた表情で必死に聞いてくる祐樹。
西條は、外に着替えを置いといて、上がったら廊下で着替えろと諭す。
脱衣所が無いと落ち着かない時は、頑張ってトイレで着替えろと。

しかし、祐樹は分かったと言うと素直に着替えを廊下に置いた。
別に問題は無いからだ。居間と廊下を繋ぐドアを閉めると、服を脱ぐ音が西條に聞こえる。
思わず西條は慌ててテレビを点け、音量を上げた。
いくら祐樹でも男の体だ、と言い聞かせながら。

そのうち、風呂に浸かる音だとか、シャワーの音だとかが聞こえてくるというのに。
もちろん聞こえたら聞こえたで大変。
西條は悶々しまくってテレビの音を大音量にするだけでは気が済まず、滅多に使わないヘッドホンまで使いだしたのだった。


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