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荷物を持った祐樹が、「お疲れ様です」と労いの言葉をかけながら出てくる。
ちょっと待ってくださいと慌てて鍵をかけて、準備万端にした。
そんな祐樹を見て、ホッと息を吐く。なぜなら30分も遅れてしまったからだ。


「悪いな、ちょっと長引いた」

「え、いやいや!大丈夫っす!」


疲れているのに、これから俺が泊まるし…と謙虚な返事。
疲れてでも、祐樹を泊めることは絶対に中断しない自信がある西條は「いや、平気だ」と返した。
アイドリングしてある車に向かいながら、祐樹はふと星空を眺める。
天の川が今年はハッキリと見えた。
夜空に流れる川は、一体どこまで続いているのだろう。
なんて、不思議なことを考えながらちょっと小走りで西條の車に乗り込む。

もちろん、助手席。

相変わらず煙草の匂いと、車用の芳香剤の香りが漂う車内。
カーステレオから流れるジャズの音楽に、祐樹は足踏みを合わせながらそわそわした。
そんな祐樹の動きに、西條は横目で見ながら、


「…何そわそわしてンだ?便所にでも行きてぇのか」

「違っ!」


なんてデリカシーの無い(男相手にデリカシー云々も無いが)一言を言ったのだった。
便所はちゃんと出かける前に行きました!とよく分からない言い返しをする祐樹も祐樹だが。
アホだなあと西條は思いながら、面白くて喉を鳴らして笑った。

しかし、1泊しかしないのに大分荷物が多いように思える。
一体何が入っているのだろう、と家に着くまでの繋ぎとして西條は聞いた。

「何か…荷物多くねぇか?」

何入ってンだ?と聞くと、祐樹はきょとんと目を丸くさせながらも鞄を開ける。
鞄は大きすぎる訳でも無いが(学生鞄を使っている)やたら詰まっているように思えたのだ。
案の定、


「えと、着替えと…タオルと、歯ブラシとか…」

修学旅行並みの中身だった。
西條はびっくりして思わず声を上げる。

「タオルはいらねーだろ!貸せるもんは貸すっつの」

バカだな、と呆れる西條に祐樹は久々にムッと眉間に皺を寄せて「なんだと!」と言い返した。
荷物が多いのは確かに祐樹も薄っすら感じていたのだが、念には念をと思ったのだ。
久々にバカにされてケラケラ笑われて、嬉しさと同時に怒りが沸く不思議な感覚に襲われる。

「西條さんタオル洗ってなさそうだし!?」

「なめンな!洗ってるっつの!」

思わず2人とも、おかしな言い合いを始める。
これから一夜を共にするというのに、何とも緊張感も何も無い。
西條の家まで10分ほどかかったが、やっぱり最後まで変な言い争いをしていた2人なのだった。



共同住宅の裏に、車を停める所がある。
いつも停めている所に、ゆっくりと停めると「行くぞ」と言いながら西條は祐樹の荷物を持った。
さりげない気遣いに、祐樹は嬉しくなるも「大丈夫」と言ってそれを半ば奪い取るように自分の手元に戻す。
西條は拒否されたことにちょっとだけしょげるも、まあいいかと自宅の鍵を取り出しながら201号室へ向かった。

西條の部屋は2階の角部屋。
日当たりは良いのだが、夏が暑いのが問題だ。
寒がりな西條にとっては問題は無いけれども。

西條の後を着いて、祐樹は高鳴る胸を押さえながら階段を昇る。
今から、西條の生活している部屋に入るのだ。
一体どんな部屋なのだろうとドキドキする。

「言っとくが、朔哉の家より狭いからな」

「そうなンすか?」

「あっちは8畳だが、家は6畳だ」

へえ、と祐樹は納得してみせるも正直違いが分からない。
1人暮らしも何もしたことがないので、感覚がよく分からないのだ。
自分の部屋の畳の数を必死に脳内で数えながら、西條の後ろを歩くとあっさり角部屋に着く。
ガチャっと鍵を回し開け、先に祐樹を入れる。


「おじゃましまーす…」


玄関には2,3つの靴が並んでいる。
入るとすぐに台所が目に入り、あまり使っていないのか綺麗にしたのか分からないが小奇麗だ。
もちろんフローリングで、棚は茶色。ドアも茶色なので、シックな洋風と言うべき所だろうか。
祐樹はとりあえず、コンロの位置などを把握しておこうと台所をじろじろ眺める。
包丁とまな板もちゃんとあるので、料理は出来るだろう。問題は、


「あの、鍋とかはどこに…」

鍋やフライパンの数や大きさだ。
西條はその言葉を聞いて、急いで靴を脱ぎながらドアに鍵とチェーンをかける。
どうせ距離は無いので、慌てもせず祐樹の隣に腰を下ろした。

「鍋とか食器とかはここだ、全部」

下の戸棚に全て置いてあるらしい。祐樹も一緒に腰を下ろすと、大分使っていないのか綺麗な鍋やフライパンが置いてあった。
この大きさならば、2人分は楽に出来るだろう。
しかし、祐樹は隣の戸棚にふと目が行った。
思わず開ければ、

「うわっ」

そこには買い置きのカップ麺やらレトルト食品がたくさん。
どうやら西條は日ごろあまり料理をしないらしい。
不健康なのもあるのだが、それより祐樹はある点に理不尽な怒りが行った。

がっと西條に詰め寄って、べたべた腹を触る。
いきなり触られた西條は、驚いて「うわ!?」と変な声を上げてしまった。
だが、祐樹はというと


「あ、あんな添加物ばっか食ってるくせに何すかこの腹は!
腹筋!ずりぃ!」


俺なんて、こんなに薄いのに…!と嘆く。
確かに、西條は不健康極まりない食事をしているというのに引き締まっている体だ。
触れば分かる硬い腹。
なぜあんなに脂っぽいものを食べても維持できるのか。
祐樹は筋肉すらなかなか付かないというのに。

すると、西條も思わず便乗して祐樹の腹を触ってみた。
確かに薄い。薄い、が。


「…おい、岡崎お前最近…」

祐樹の後ろに回りこんで、腕を回す。
そして、ぎゅっと祐樹の腹…の余った肉を掴んだ。
それはそれほど多くも無いが、男にしてはちょっとだけ多い。
肉!というよりは柔らかい皮みたいな触り心地。


「甘いもん食いすぎで太ったろ?」

「うっ!」


ふにふにと腹の肉を弄りながら西條は意地悪な口調で囁く。
図星を思い切り抉られて、祐樹は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
ぶるぶる震えて、その手を振り切りながら、

「うるせぇ…!違う、これは違う!」

何度も首を横に振って否定しまくった。
否定しつつも、脳内では「しばらく甘いものは食わないようにしよう」と決めているのだが。
そんな祐樹を見て、西條は満足そうにニヤニヤしながら「はいはい」と適当にあしらう。
別にちょっとぐらい太っても西條は構わないのだ。
むしろ、あの柔らかい感触と摘むと屈辱に歪む可愛い顔がたまらない。
祐樹がダイエットに奮闘して無くなる前に、もう一度摘ませて頂こうと嫌な計画を立てるのだった。

そんな西條の嫌な思惑に、一瞬勘付いた祐樹。
むーっとしかめっ面をしながら、戸棚をバタン!と閉めた。


「しかめっ面すンなよ、部屋上がれ」

祐樹の機嫌がちょっと悪くなってしまったので、西條はとりあえずその場から離れようと部屋に来るよう指示する。
祐樹は素直に立ち上がって、西條の後ろを着いて部屋に入った。

望月の部屋はどちらかというと中性的な部屋で、緑とか黄色が基調だった。
だが、西條の部屋はまさに男性の部屋というイメージ。
黒と白のちょっとモコモコしたラグに、ガラステーブル。
黒いポールが目立つベッドに、カーテンは濁ったベージュ。

角部屋なので、2つも窓があり明るい。
祐樹は何だか感動してしまって、辺りをきょろきょろと見回した。

本棚には獣医関係の本や、植物・仕事関係の本が並んでいる。
クローゼットは備え付けなのか、一見壁かと思ってしまった。
確かに、広くは無い。1人暮らしには十分な大きさなのだが。

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