5,
----------
「あら…祐樹ったらなんで干ししいたけなンて買ってきたのかしら」

祖母が、祐樹が買い物してきた食材を見るといつもの惣菜やジュースに混じってありえない食材があった。
干ししいたけなんて存在を知っていたかどうかも危ういのに、何故か。
不思議に思って、祖母は部屋にいる祐樹に聞こうとそれを持って彼の元へ向かった。

なにやら、1人でがさがさしている。
祐樹の部屋はいつも静かなので、一体どうしたのだろうと心配になって祖母は戸を開けた。
すると、いつも綺麗なはずの部屋が散らかり放題。
あちこちに服をばらまいて、当の本人は歯磨きセットが無いとわたわたしていた。


「…祐樹、どうしたの?」

孫の異常な行動に、祖母はオロオロしながら問う。
すると、やっと祖母が来たことに気づいたのか、祐樹は「うわ!」とびっくりして動きを止めた。
思わずビックリして持っていた下着を畳の上に数着落とす。
どれも最近買ってきた新品のものだ。

しかも、拡げている服は全て祐樹が選んできた新目のもの。
少々大きめの鞄に、タオルやら何やら詰め込んでいた。

どう見てもお泊りの道具。
祖母は散らかす祐樹に軽く溜息を吐きながら、散乱した服をひとつひとつ拾って畳み始める。


「雄太くん家にお泊りに行くの?」

「えっ…いや、違くて」

祐樹は言おうか言わないか決めかねて、もごもごと口を濁らせる。
実は、祖母に何も言っていないのだ。
いきなり西條の家に泊まるなんて言ったら、「迷惑でしょう!」と怒られるかもしれないから。
祐樹も自覚はある。社員とアルバイトの関係であるにも関わらず、いきなり「泊まりたいです」なんて非常識だ。
どこかに行くのもとても楽しみなのだが、西條と1日過ごすことがしてみたかった。

2人で同じ部屋で眠ることは幾度かあったが、そのどれもが何だか安心できて幸せだったから。


未だ何も言わない祐樹に、祖母はある疑念が浮かぶ。
怪訝そうに眉を顰めて、ちょっとだけ寂しそうに呟いた。


「…もしかして、女の子のお家に泊まりに行くとかじゃ…」

祐樹も、もう年頃の男子高校生。
容姿が悪い訳でもないし、少々背は低いが祐樹より背の低い女子なんて五万と居る。
悪いとは言わないが、責任を持つような事になったら少し悲しい。大学に行けなくなってしまう。
そんな所まで祖母は考えて、しゅんと肩を落としながら「良いのだけれど…」と呟いた。
しかし、そんなことは無い。

祐樹は何度も首を横に振って、そんなことはありえない!と断言した。


「そうじゃなくて…えーと…実は西條さん家に泊まることになって…」

飯は俺が作るンだ!と、なぜかそこをプッシュ。
西條の家ということに、祖母は目を丸くして祐樹の服を畳みに落としてしまった。
いくら、少しばかり親しくなったとは言え8つも年の差があるのに、と。
しかし、祖母は思い出す。
西條が祖父の見舞いに来てくれた時の、彼の切望に似た願いを。
あの時は、ただひたすら彼の悲痛さに切なかった。
だから、深く考えなかったのだ。
彼が「岡崎の傍に居ていいのか」という言葉と、祖父が「祐樹を選んでくれてありがとう」と言った意味を。


(…そういった、意味なのかしら)


つまり、彼は祐樹と一生を添い遂げる仲でありたいと。
家族は家族でも血縁の仲ではなく、他人同士で愛したいと。
理解が、追いつかない。
彼女はぼんやりと遠くを見つめながら、「そうなの…迷惑は、かけないようにね…」と空返事をした。

祐樹はその返事を聞いて、心底「良かった」と言ったような笑顔を浮かべた。
それこそ幸せそうに、ルンルン気分で服を選ぶ。
シャンプーとかはどうしようか、小さい入れ物はあっただろうかと修学旅行前日のような浮かれ具合だ。
その様子を見て、更に祐樹もそうなのではないかと祖母は勘付く。
あまりのことに頭が追いつかない。自分はどうすればいいかなんて全く分からなかった。

けれど、祐樹がとても幸せそうにしているのならば。


(私は、あの子のおばあちゃんとして、見守るしか無いのね…)

もう、誰かと添い遂げるのは止めろと言うことは出来ない。怖い。
祖母は「そんなに持っていかなくてもいいのよ」とアドバイスをしながら、自室へと戻っていった。
少し滑りが悪くなった襖を閉める。
ゆっくり溜息を吐きながら、目を閉じた。
まだ、どうしたらいいのか分からないし、本当にそうなのか本人達に聞かなければ分からない。
とにかく、今は見守ろう。
そう決めた祖母は、自分も実家に帰宅する準備を始めようとゆっくりとタンスを開けた。



そして、日は瞬く間に通り過ぎとうとう当日になってしまった。
前日の金曜まで、雄太に何度も何度も「どのタイミングで風呂とか借りればいいんだろう」とか「飯、何がいいかな」とか無駄に聞いてきたのだ。
最初の方はニヤニヤしながら受け応えた雄太だったが、最終的には疲れてきて「大丈夫だから!」と諦めさせるほど。
他人の家に泊まったことが無いので不安なのは分かるが、心配しすぎである。
それほど、祐樹が真面目だという事なのだが。

一生懸命な祐樹を応援するのは構わないが、もう少しルーズでもいいのでは?と雄太はその真面目さに呆れてしまった。
しかし、真面目なところがあるけれども抜けてもいる祐樹。
雄太は悪ふざけに、アドバイスと言う名の冷やかしを告げた。


「やっぱ、西條さんも大人だからお酌されたら嬉しいだろ。
ビールもいいけど、ウイスキーとか作ってあげろよ!」

と、西條が理性と戦わなければならないのに、それを崩すようなアドバイスをした。
西條の理性なんて知らない雄太はもちろん、祐樹も全く考えていないのであっさり「買うか!」と頷いたとか。
実は、2人とも飲酒したことは皆無。
お酒を飲んだら気持ちが良くなる程度の酔いとしか思っていないからこそ出来る発言だった。



(ウイスキーの注ぎ方…カルピスみてぇにやればいいか…)

金曜日に祖母にムリを言って買ってもらった(代金は祐樹が出した)ウイスキーを鞄に入れる。
大分度のきっつい物を買ってきたのだが、もちろん祐樹は気づかない。
家に行ったら、冷蔵庫を借りようとワクワクしながら西條の仕事が終わるまで、自宅で勉強しながら待った。

因みに午後シフトは祐樹がレジで、西條は外の商品整理。
目も合わせられない程会えなかったけれど、7日から8日の夕方までずっと一緒にいるのだ。
そう考えると、祐樹の気持ちはどんどん高揚してゆき思わずシャーペンを割り増しクルクル回してしまう。
思い出してはそわそわして、荷物を確認したり、料理の本を見たり落ち着かない。

早く来ないかな、と思ったり。
逆にまだ来ないでくれと思ったり。

腕の神経全体に痺れが染み込むような、不思議な緊張に襲われながら祐樹は祖母が置いていったオニギリを食べながら待った。



すっかり夜は更けて、七夕らしく星の帯が川のように夜空に浮かぶ。
この辺の住宅では行事をしっかり楽しむのか、所々笹が飾られていた。
家の中から夜空を眺めて、願いをかける人達。
その中を、西條は気をつけながらもアクセルを出来る限り踏んで岡崎家へと向かった。

やっと見慣れた1階建てのちょっと古めな家に到着。
車を止められるスペースがあるので、そこにバックで車を入れ止めると、小走りで玄関に向かった。
後から取り付けられたような呼び鈴を押し、足音がこちらへ来るのを待つ。
ばたばたと少々やかましい足音を立てながら、その音は玄関にたどり着く。
電気がパッと消えて、暗くなった家。そして、引き戸が開いた。


- 143 -


[*前] | [次#]

〕〔サイトTOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -