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閉店時間をとうに過ぎて、時刻は21時に近い。
今日は残業が無いので、西條もバイト達と一緒に帰り支度をしていた。
バイト達のように元の服装に着替えるという事はしないので、荷物だけを持つ簡単な支度なのだが。
ふと、ロッカーに突っ込んでおいた携帯を開けば、新着メールが2件。

1件は望月で、もう1件は祐樹だった。
もちろん望月のメールは後回しに、祐樹のメールを先にチェック。
最近会う時間が少ないので、メールのやりとりは貴重だ。
赤井とひよりが支度し終えるまで、西條はじっとその文面を読みふける。

しかし、ある箇所を見た瞬間。
西條は驚いて空気をヒュッと呑んでしまった。
早足で店長机に向かい、過去の履歴書を保管するファイルを取り出す。
ペラペラと捲り、祐樹の履歴書とメールを何度も見返した。
すると、


「西條さん何見てるンですか?」

ひよりが背伸びをして西條の見ているものを問う。
ぎく、と西條は肩を揺らすと、気にしないふりをしながらファイルを閉じた。


「いや、別に。お前ら帰り支度終わったのか?」

「はい、準備万端です」


話を逸らす西條に、ひよりはニヤニヤが隠せず思わず「ふふふ」と声を出して笑ってしまった。
何笑ってんだと西條は軽く睨みながら、照明を消してセキュリティのスイッチを押す。
残り3分でセキュリティが始まります、という音声合図とチカチカ赤い光が点滅。
3人は早足で外へ出て、それぞれの帰路に付いた。
相変わらず仲の良い赤井とひよりは、今日の夕飯の話題について大声で話していたとか。

西條も、帰路へ着くために車へ乗り込む。
煙草を1本吸いながら、ふと腹が減ったことに気づいた。
だがナイスタイミングで、今自宅にそれほど食料が無い。


(…スーパーにでも行くか…)


いつもならコンビニで調達してしまうのだが、何となく気分的に近くのスーパーに寄る事にした。
そこは10時まで開いており、尚且つ安い。
少し節約を始めようと西條は3日前から思っていたのだ。
それも、お金を貯めて祐樹に何か買ったりどこかに行ったりしようという計画のため。
我ながらアホだな、と西條は溜息と煙草の煙を一緒に出しながら、アクセルを踏んだ。


近くなのでものの数十秒で着いてしまった。
更に、この時間帯になるとあまり人も居ないため、すいすいと買い物が出来るだろう。
1週間分程の食料(カップ麺とか)を買いだめしておこうと、西條は買い物カゴを1つ持って自動ドアを通った。

遅く帰ってきた女子高生とその母親や、仕事帰りの男性などがちらほらいる。
何か惣菜でも食べるか、と揚げ物に手を伸ばしたその時。

隣に見慣れたふわふわした頭が見えた。
認識する間もなく、西條が隣を見ればそこには、


「…あ、あれ!?西條さん…!?」

「…は!?お前、何でここに…」


買い物カゴを持って、から揚げのパックを持つ祐樹が居た。
祐樹の買い物カゴの中身は、缶詰やおにぎり用のふりかけ、ジュースなど。
祖母の代わりに自分の弁当のための買い物に来たのだ。ついでに夜食も買おうと。
先ほどまで勉強に取り組んでいたので、上はTシャツ下はジャージという非常に楽なスタイルで。

もっと良い格好をしてくればよかった、と祐樹は後悔しながらから揚げのパックを慌ててカゴに入れた。
そわそわと身体を動かしながら、祐樹は西條の買い物カゴを盗み見る。
案の定、カップ麺とかレトルト食品ばっかりだ。
料理が出来ない訳ではないのだが、如何せんめんどうくさいらしい。

しかし、西條がスーパーで買い物カゴを持って商品を選ぶ姿を見ると笑いがこみ上げてくる。
祐樹は我慢できずに、肩を揺らして笑ってしまった。


「何笑ってンだ岡崎…」

「いや、だって、なんか西條さんがスーパーとかおもろくて…」

意外性に笑ってしまう祐樹。
西條はさすがに恥ずかしくなって、照れ隠しに祐樹の額を軽く叩いた。
そして、西條も祐樹のカゴを見れば、

「あ?別にいいだろ!つーかお前…よくまぁ甘いもんばっか…」


そこにはお菓子やら手軽なロールケーキが入っていた。
ちゃんと弁当用のおかずもあるのだが、それらが目立つ。
相変わらず甘いものが好きなのか、と脳内で祐樹の好みをメモしておいた。

とりあえず、会ってしまったので別れは惜しい。
ただでさえ最近会っていないので、出来るだけ長い時間一緒に居たいのだ。
それは西條も祐樹も同じ。

他愛無い話をしながら、2人並んでスーパー内をぐるぐるしだした。
ふと、西條はメールの返信をしていないことに気づく。
どうせならば今聞いてしまおうと、牛乳売り場をなぜか凝視している祐樹に声をかけた。


「そういえば、岡崎って今週誕生日なンだよな」

「あ、はい…えっと、土曜日っすね」

七夕なんですよ、と祐樹は困ったように笑う。
きりのいい日に生まれてよかったな、と良く分からない返事をしつつ、西條はひとつ咳払いをして告げた。
言い慣れていないのか、ちょっとばかし恥ずかしそうに。


「…次の日が、俺の誕生日なンだよ」


なんと、西條の誕生日は偶然にか祐樹の誕生日の翌日だった。
祐樹はまさかの事にびっくりして思わず目を丸くして「えっ!?」と声をあげる。
同じ誕生日ほどではないが、何だか運命に似たようなもの感じてしまう。


「8日!?」

「おう、7月8日」

「…すげー近い…あっ!」

すると、祐樹がわたわたとポケットを弄る。
とっさにシフト表を探そうとしているのだ。
いつもついついチェックしてしまうので、財布に入れているのだ。
財布に入れるために何重にも折りたたんだそれを開いて、西條の目の前だと言うのに自分と西條のシフトをチェック。
さすがの西條も目を丸くしてしまった。


「あ、8日西條さん休みだ」


俺も8日は休み、とちょっと喜ぶ。
屈託の無い笑顔に、西條はちょっと唾を飲み込んでしまう。
相変わらず、祐樹は自分を好きなのかどうか確かめていないのに期待しているからだ。
もしかして何かしら予定を組んでくるのではないか、と期待して手に取っていた商品を棚に戻す。

すると、祐樹は


「誰かと、どっか行ったりするンすか?」


ちょっぴり寂しそうに聞いてきた。
本当は遊びに行きませんか、と誘いたいのだが先約が居そうで怖いのだ。
だから軽く予定があるのか当たり障りの無いように聞いてみた。
しかし、西條に予定は無い。
店長が気を利かせて休みにしてくれたのだが、この歳で誕生会などやられても迷惑な話だ。
実際、望月がメールで『和之達(高校時代の友人)と一緒に呑みに行こうぜ!』と誘ってきた。
だが男だらけで飲兵衛になるより、祐樹と過ごした方が良い。


「いや、予定は無ぇな」


暇な位だ、と告げる。
すると、途端に祐樹はそわそわしだしてきた。いらないであろう、干ししいたけをカゴに入れたりする。
それをどうするつもりだ…と西條は思いながら祐樹を見ていると、ぎゅっと1つ唇を噛む。
そして、少し声を震わせながら勇気を振り絞って、


「あの、…俺も8日暇なンで…良かったら何か奢らせてください」


遠まわしに一緒にどこかに行こうと誘った。
もう口の中は乾くし、頬から耳まで熱いし、鼓動がやかましい。
緊張して、ドキドキしつつも祐樹はまた昆布(干し)を持って弄りながら返事を待った。
西條は一瞬押し黙って、遠くを見つめる。
それは西條の鼓動も早まってきたからだ。落ち着かせようとした行動。
ふう、と小さく息を吐いて、


「ああ、良いけど…奢りじゃなくていい」

祐樹に奢ってもらうなんて出来ない。
男として、大人として、祐樹には奢りたいが奢られるのは申し訳ないしプライドが邪魔をする。
なので、自分が誕生日だと気づいてから祐樹にして頂きたい願望を言う事にした。

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