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祐樹は、自宅に帰るとまず初めに庭に行く。
朝か夕方に水をやる習慣があるためだ。
今日は暑かったので夕方にも水をやるのだ、2人で植えたトルコキキョウに。

西條が意外と慣れた手つきで、綺麗に並べていった事を思い出しながらジョウロに水を汲む。
本当はホースもあるのだが、これから夜なのでそれほどやらなくても大丈夫だろうと少なめにしたのだ。
夏前のちょうどよい気温の中、祐樹は1人花壇の前に座りながら水をやる。
そろそろ芽が出るかもしれない。
徐々に成長していく、力強い植物が祐樹は好きだ。

だから、

(…もし!…これが咲いたら…こ、こ…告白…)

しようかな、なんて小さく決意。
だがしかし、自分が西條に「好きです」なんて告白するイメージが全く掴めない。
それどころか「は?」と嫌悪剥き出しな西條しか想像出来ず、祐樹はちょっと肩を落とした。
可能性は無いようなあるような中途半端な状態だ。
けれど、嫌われはいないことは分かる。

(とにかく…好かれるように、がんばるか…)

今の目標は、とにかく好かれるようにする事らしい。
近づきすぎてまた失敗するのは怖いので、徐々にという作戦だ。
作戦と言うほど高度なものではないが、祐樹にとっては大進歩。

水をやり終えると、とにかく西條も応援してくれている勉強を頑張ろうと即座に自室へと戻った。
祐樹が受ける大学は、面接・小論文はもちろんのこと筆記試験もある。
因みに公募推薦なので、落ちる可能性も配慮してちゃんとセンター試験用に勉強もしているのだが。
最近は学校に行けば、授業・推薦用の書類書き・小論文対策に追われている。

段々精神的にストレスが溜まってきたが、我慢して祐樹は机に向かった。
正直煙草を吹かしたい気分にもなるけれど、それもまた我慢。
面接の時に、歯が黄色かったりヤニくさかったらアウトだ。

面接、嫌だなぁ…とぼんやり思いながら、祐樹は英語の文法問題に取り掛かり始める。
ちょいちょい単語を口ずさみながら、ちゃんと覚えられるように。
静かな部屋の中、ぼそぼそと英単語を呟く祐樹の声と鳴き始めた蛙の声が響く。





「あー…あの先生厳しい…見ろよこれ、訂正めちゃくちゃある」

昼休み、祐樹はぐったりとした顔つきでカフェオレを飲む雄太に書類を見せた。
文字通り真っ赤な書類。
確かに、推薦入試は書類審査も大事だがこれはやる気が失せる代物だ。
更に、


「お疲れ…祐樹、これ何枚目?」


「…5枚目…」


やり直しは効かないので、毎度毎度一から書き直しという苦痛だ。
祐樹は元々字がうまくないので、更にツラい。
しかしやらない訳にはいかないので、祐樹は昼休みも返上して訂正部分を見直した。
雄太も滑り止め用の私立大学への受験が控えている。因みに彼は推薦ではなく一般入試で受験する予定だ。

頭が冴えるようにと、普段買わないチョコレートを祐樹に渡しながら彼もまた勉強をし始めた。
すると、いきなり鳴り響くジョーズの着信音。

「えっ!?」

マナーモードにしていない上に、着信音が今時ジョーズだなんて一体誰だ!?と、雄太は目を丸くして辺りを見渡した。
しかし、いくら辺りを見渡しても皆こちらを注目しているだけ。
嫌な予感満載で、傍にいる祐樹に視線をソッと向ければ、


「げっ、マナーモードにし忘れたっ」」

「お前かよ!」


祐樹の携帯の着信音だった。
慌てて携帯を開き、着信音を止める。メールを見る前に、ひとまずサイレントモードにして一息ついた。
そして、やたらむずむずした顔で携帯画面をじっと何十秒も見つめる。
返信を打たないのだろうか、と雄太は観察するもいつまでも飽きずに読んでいた。
一体誰からなのだろうか。
気になったので、ゴミを捨てに行くふりをして後ろから覗き見る。
そこに映されていたのは、


『昨日も東條はコンクリ袋3つ持ってたな。
アイツは筋トレでもしてるのか…確かに凄いと思うぞ。

もう7月か…早いな。
そういやお前誕生日とかいつだ?

あと、一昨日来た野良猫の写真添付しとく。』

大分淡々としたメールだ。
絵文字も手のマークとか、笑いの顔くらいがちらほら程度。
しかし、口調とホームセンターらしき事情を言っていることから察すとどう考えても、


「西條さんか…」


くくく、と喉を鳴らして思わずニヤニヤ笑ってしまう雄太。
祐樹はその声に勢い良くバッと振り向き、恥と怒りを併せ持った表情で立ち上がった。
ガタガタとうるさく鳴る机や椅子の音に周囲は驚きつつも、それ以上に真っ赤になってガァッと雄太を殴る祐樹にびっくり。
殴ると言っても、本気ではなく肩を軽くパンチする程度なのだが。


「何勝手に見てんだこのやろっ!!」

「いえいえ、たまたま視界に入ったンで候」

「どう考えてもわざとだろその顔…」


随分おもしろいやりとりに、思わず周囲も笑ってしまう。
特に、友人である長崎は祐樹の新鮮な反応に肩を揺らして笑った。
彼は祐樹が西條の事を好いていることなど1ミリも知らないが、何となくおかしくて笑ってしまう。
祐樹を落ち着かせてやろうと、長崎は2人の間に向った。


「まぁまぁ、落ち着いて祐樹くん。はい、これ食べな」

「智也くん、だってコイツが…あ!それ購買で1日30コ限定のぷにまろ…!」


ぷにまろとは、ぷにぷにした大福のようなシュー生地に抹茶クリームが包まれている人気のお菓子。
祐樹が言うとおり1日30個限定なため、なかなか買えないのだ。
しかも祐樹は普段からお弁当。購買に行く機会もなかなか無いし、なぜか恥ずかしい。
だが食べてみたくて仕方なかったのだ。
しっぽを振る犬のように、祐樹は長崎に近寄ると「いいの?いいの?」と何度も問うた。


「うん、これ妹に頼んで買ってきてもらったンだ。僕も食べたかったし」

一緒に食べようと優しい笑顔。
祐樹は目を輝かせて何度もこくこくと頷いた。雄太に冷やかされてイラッとしていたことが嘘のように。
嬉々とぷにまろを受け取ると、祐樹は早速丁寧にそれを持ちながら長崎を雄太の座っていた席に座らせた。


「あ!祐樹お前なぁ!」

「雄太はほっといて2人で食べようぜ!」


俺にもくれよ、と雄太は祐樹に背後から緩いスリーパーをかけながら長崎に甘える。
長崎は軽く喧嘩しだす2人に苦笑しながら、雄太にもぷにまろを与えた。
何だかんだ、この3人は甘いものが好きらしい。
ふと、雄太はもぐもぐとそれを食べながら先ほどの話題を軽く小出ししてくる。


「そういや、なぜか誕生日聞かれてなかったか?」

祐樹はちょっと眉間に皺を寄せながらも、素直に携帯を開く。
確かに、7月ですねという話題に何故か誕生日はいつだと聞いてきているのだ。
祐樹も不思議に思って首を傾げた。しかし、偶然の一致。


「俺、7日誕生日なンだよなそういえば…超能力…!?」

祐樹の誕生日は7月7日、七夕の日だ。
誕生日が七夕であっても特に支障は無いので気にしたことは無かったのだが、西條に聞かれると一気に意識する。
更に、なぜか7月の話題で誕生日がいつかと聞かれれば、単純な祐樹は「まさか当てて!?」と考えた。
そんな訳はさらさら無い。

雄太は「あるわけないだろ」とサラリと突っ込み。
しかし、祐樹よりはマシだが天然な長崎は、


「え!?祐樹くん七夕誕生日なの!?ケーキは七夕風とか?」

なんて意味の分からないことを聞いてきた。
しかし対する祐樹も、


「ああ、そうなンだよなー…ケーキじゃなくて七夕ゼリーみたいのだなぁ…俺的にはケーキのが…」

なんて、普通に返していた。
天然2人は大変だ、と雄太は肩を竦ませる。
まあ、祐樹が楽しそうならいいやと納得したけれども。


昼休みは、そのぷにまろを食べながら祐樹の書類について3人で話し合ったり、勉強について話して終わった。
メールを返せなかったのがちょっと心残りだったが、放課後に急いで返そうと祐樹は思いながら次の授業に取り組む。
授業を受けながらも、より良い書類を書くにはどうしたらいいかなんて考えながら。
一緒に頑張れる友人がいるなら、もっと頑張れると思えたからだ。


そんな祐樹が、放課後バスに乗りながら出したメール。
毎日、という訳でもないが最近は頻繁にしている唯一のつながり。


『東條さんの趣味は機械弄りと筋トレらしいです。
前、腕の筋肉見たら凄かった…。

俺は7月7日誕生日です!
西條さんはいつですか?

猫すげー可愛い!』


さりげなく、西條のも聞く。
勉強も恋も、一生懸命ちょっと積極的に頑張ってみよう。
そう決意したのだが、打ち始めたのはバスに乗った直後なのに送ったのは地元に着いてからだった。

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