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10時開場ということで、喫茶店は上々な客入りである。
皆、最初にお化け屋敷などを見てから喉を潤したり、手始めに喫茶店と思うものも居たのだ。

接客業は慣れているも、中学からの友人にからかわれたりスカートを捲くられて遊ばれたりと祐樹はなかなか忙しかった。
それほど、祐樹のクラスの喫茶店は人気らしい。



一方、祐樹のクラスとは逆方向で1人の青年がうろうろとしていた。


(あのボケ岡崎…クラス言ってねぇからわかンねぇぞ…!)

機嫌が悪くなりかけている、西條であった。
ちら、と顔を見せてコーヒーを飲んで帰ろうと思っていたのだが…異常なまでの混み様とどこに行っていいかのわからなさに悪戦苦闘していた。

喫茶店とだけは聞かされていたが、そんなものはいくらでもある。
学年は知っていても行き方を知らないので、未だに3年棟(1、2年棟とは別)をうろうろしていた。

そのうえ、彼の容姿と身長が災いし、

「プラネタリウム喫茶どうですか!」

「あの、自主作成映画見に来ませんかー」

主に女生徒にとてつもなく誘われ、なかなか前へ進めない。
断りながらクラスを確認するも、皆3年なので、どうしたものかと頭を抱え始めたその時、

「あれ!?西條さん?」

助けが舞い降りた。
格好はフランケンシュタインだったが。

「…北條!」

「来てたんですか?」

航もこの高校に通っているうえに3年。
ちょうどいい具合に西條は航のクラスの前にやってきたのだ。
私服で一瞬分からなかったが、その容姿と声で西條と確定した航は、一旦休憩を貰い西條と一緒に1・2年棟へと向かう。

西條に遠回りな言い方で「案内してくれ」と言われたからである。
もちろん航は二つ返事でOKをだした。
親切心ももちろんあるのだが、普段、祐樹と西條の仲違いに常々嫌気がさしているのだ。

コレを機に仲良くしていただきたいと、航は決心を定めた。
何が何でも会わせて共に行動してもらおうと。



「1人で来たんですか?」

背の高い西條を少し上目で見ながら、他の人が居ないことを確認。
西條が学校にいるという異質にちょっと笑いながら。

「いや、岡崎に…来いって言われて」

すると西條は、後ろ頭を掻きながらバツの悪そうに呟く。
来ませんか?とは言われたが、来いとは言われていない。
そう言ってしまうのは、単に気恥ずかしいからだ。

「誘われたンですか」

「その言い方やめろ…」

誘う、という単語にもやもやしつつ、西條は航の案内に従う。
普段は逆の立場なので、航はちょっとばかり嬉しかったり。


人混みを何とか渡り、やっと祐樹のクラスである2年4組に辿り着いた。
やっと一息つける、と西條はため息を付きながら可愛らしいノレンを潜った。
その後ろを着く航は、ふと皆が不思議な仮装に身を包んでいるのに気付く。

が、すぐに窓際の席に案内されそのことには深く考えないことにした。

近くを歩いていた袴を着ている女子に祐樹を呼ぶように頼む。
念のため、航の名をつけて。


「北條ン所はお化け屋敷か」

「そうですよ、作るの苦労しました」

「だろうな」

祐樹が来るまで適当に雑談をしていると、裏方で料理を作っていた(というより盛っていた)当の本人がばたばたと2人の元へ。

西條が居るとも、知らずに。


「先輩!あの、西條さん見なか…」

「おかざき、く…?」


メイド服に身をつつみ、うさぎの耳をつけたたいそう可愛らしい祐樹。
思わず北條は目を丸くする。
線が細いため女装が似合わないというわけではない。確かに男なので多少は不恰好だが。

それより祐樹は、

航と同じテーブルに座る西條を見たおかげで、一気に血の気が引いてしまった。
ひぃ、と言葉にならない悲鳴をあげ、全速力で裏(カーテンでしきった教室の3分の1のスペース)に逃げた。

数秒後。

航と同様に目を丸くしていた西條が爆笑。
腹を抱えて足をじたばたさせた。

「メイド!岡崎メイドかよ!なんもできなさそうなくせに、よりによって…!ひー、腹いてぇ!」

「さ、西條さん笑っちゃかわいそ…」

と、咎めながらも航も腹を抱えて笑う。

そんな2人をよそに、祐樹は頭を抱えて膝をついていた。委員長が言わなくてごめんねと謝るが、けっして彼のせいではない。
1人で来るだろうと勝手な予測をつけた祐樹のミスである。

「…いや、委員長のせいじゃないから…」

「そう?でもごめんね…そのさ」

委員長が慰めの言葉を続けようとしたその時、
店内(教室)から呼び声がかかる。
男性特有の代名詞とでも言えるであろう低い声が、祐樹を呼ぶ。ケラケラ笑いながら。

「岡崎!オメー1回見られたンだから諦めて来いよ。あと俺コーヒーな」

「僕、アイスティーで」

ついでに注文もする現金な2人に、祐樹は涙がこみ上げた。





「…コーヒーとアイスティーっす…」

肩を落とし、消え入りそうな声で注文の品を渡す。
西條も航も祐樹を見てはにたにたと馬鹿にした笑顔を向けた。
祐樹はあまりの羞恥に耐えられなくなり、

「俺だって好きでこんな格好してる訳じゃねぇよ!」

と怒るがまるで迫力が無い。
むしろより2人の笑いのツボを煽るだけだった。

早く解放されたい、と願っていると、
突如ふわりとスカートが捲られる。

「下は普通の下着か」

「ぎゃ!西條さん何して、」

少しつまらなそうにしながらも、メイド服なうえに下着丸出しな姿にまた西條は爆笑した。
非常に性質が悪い悪戯である。

祐樹は耳まで真っ赤になりながら、その手を思い切り叩く。
いってぇな、と抗議するも西條は爆笑。まさに小学生の悪戯かセクハラレベルである。

いっそ潔い悪戯と反抗に、うっかり蚊帳の外である航は生暖かい視線を向けながらアイスティーをすすった。


「じゃ、僕そろそろ休憩終わるから戻るね」

アイスティーを飲み終えた航は、席をたつ。
やっと笑いがひき、コーヒーを飲む西條は礼を言いながら手をふった。後で行くからと適当な約束をつけて。
だが祐樹はそれどころではない。
この男をどうしろと、という状態だ。慌てて航を引きとめようとすると、

「頑張って!一緒に回りなよー」

「せ、先輩!そんな!」

慌てふためく祐樹と、のんびりコーヒーを飲む西條を置いて航は自分の教室へと戻っていった。
そして更に悪いことには、

「じゃ、岡崎君お昼休憩ね!」

ちょうど12時近くなったため、お昼休憩というなの言い訳皆無状態。
当初、祐樹は西條と回ろうかと思っていたがこの格好で回るなど1ミリグラムも思わない。というよりは拒否。

せっかく来てくれた西條には申し訳ないが、本来の目的、女子を喜ばせるは達成しているのである。
辺りを見れば、クラスの女子は普段見ることの無い大人の男前に皆心を震わせている。
普段は、真面目な男子生徒か普通な容姿、教師は皆おじさんばかりなのだ。
無理もない。

よって祐樹は逃げ、

「おい、岡崎休憩だろ。案内しろ」

ることなどできなかった。

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