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「東條!俺はな、お前がそうやって項垂れてンの1番見たくねぇンだよ!
大丈夫な訳ねぇだろ…昨日みてぇに苦しいのぐれぇ俺にぶつけろよ…!」

ぶっきらぼうだけど、一生懸命な想いだった。
ひよりの胸に直結に突き刺さるような、そんな強力な思い。


「俺はまだガキだから、どうこう言うなンてできねーけど…」


ガキだから、まだ家族の事とかそういう事は考えなくても大丈夫だ。
今自分の想っていること、やりたい事だけ見るのも許されている。
その思いを不器用な言葉にして、雄太は伝えた。
しっかとひよりの肩を掴んで、逃がさないように。


「…東條が苦しんでンのは、見たくねぇンだよ…」

それは、ワガママかもしれない。
けれどそのワガママが、今のひよりを救う言葉であった。
我慢していたはずの涙が、昨日の夜のようにひよりの大きな瞳からぼろぼろと流れ落ちる。
ゆっくりと上を向いて、じっと雄太を見つめる。
大っ嫌いだった雄太が、今はこんなにもきらきらして見えて、とても縋りたい。

蚊帳の外だった祐樹が、ふと雄太の鞄から見えていた本のタイトルに気づく。
それは、雄太が一生懸命自分の気持ちを確立して先ほどの言葉を伝えるために選んだもの。

航の事しか考えていないようなヤツだと勝手ながら思っていたが、今は少し違うらしい。
祐樹はへらっと力なく笑って、優しく雄太の背中を押してやった。
お前も、今この気持ちを優先しろと優しく囁いて。


雄太は小さく細い、震えるその体を壊れ物かのように抱き寄せた。
そっと背中に手を触れるだけ。
けれどその体温が、ひよりにはとても嬉しかった。

なんだか、男とか女とかじゃなくて。
自分という存在を心配されているような気がして。

静かに流れる風は、夏の暑さを運んでくる。
遠くで聞こえてくる鳥の音が止み始め、夕方を知らせてくれた。



「…う、岡崎先輩〜…ティッシュ持ってません?」

しばらくして、ひよりが泣き止むと2人は何も無かったかのように離れる。
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔をちょっと隠しながら、ひよりは少し離れた所に居た祐樹に近づく。
なんだこの2人、と祐樹はニヤニヤしながらポケットからティッシュを出して渡した。


「お前、ハンカチティッシュぐらい持てよ…俺も祐樹も持ってるンだぞ」

「た、たまたま忘れたの!今日休みだったから!」


すると、間髪入れずに雄太が嫌味を言う。
もちろん反抗するひよりは、祐樹にお礼を言いながらティッシュを受け取り鼻をかんだ。
やっと泣き止んで、スッキリした顔になっているひよりに安心した祐樹。
そろそろと雄太の後ろに回りこんで、肘で彼の背中を突いた。



「雄太ぁ、お前いつの間に東條さんと仲良くなってたンだな」

後で教えろよ、とからかってみせる。
すると、雄太はギッと祐樹を睨みつけて「仲良くねーよ!」と否定した。
しかしその顔は耳まで赤く染まっていて説得力が皆無だ。
更にそれを聞いていたひよりが、勢い良く祐樹に近寄る。しかも思い切り胸倉を掴んで。


「そうですよ!最近このメガネがよく夜にこの辺うろうろしてるから何となく話しているだけの仲です!」

ひよりは、嘘のつけない性格である。
雄太がうろうろしているのは、恐らく祐樹と西條はどうなっているのだろうかという勝手な野次馬だろう。
元々雄太の趣味が散歩なのも相まって。


「っていうか…祐樹、結局お前西條さんを飯に誘えてるのか?」

すると、急に雄太が祐樹の話題を振ってきた。
祐樹は急なことだったので、ギクリと肩を大きく揺らし「へっ!?」と変な声を出してしまう。
雄太の言うとおり、実は全く誘えていないのだ。
祐樹は幸せを持続させるタイプなので、一緒に遊びに行った時の幸せでまだ満足している。

いやでも忙しいし、ともごもごしていると痺れを切らしたひよりが、


「あと半年しか無いンですから、近寄れる所まで近寄りましょうよ!」

と、ハッキリ言った。
その言葉に、祐樹はうっと言葉を飲み込む。
ひよりの言うとおり、もうすぐ7月。祐樹がアルバイトを辞めるまで半年位しか無いのだ。
アルバイト以外に接点の無い2人。
ただ好きなままで離れるのは、確かに寂しい。

けれど、まだ怖い。


「俺のことは良いから…メールだって、一応してるし…」

昨日からしていないけれど。
すると、雄太とひよりが珍しく視線を合わせて頷いた。
そして、2人して思い切りガガガっと祐樹に詰め寄る。
あまりの剣幕に祐樹の口の端が引きつった。


「良くねぇよ!祐樹の初恋だろ!最後まで頑張れ!」

「そうですよ!西條さんだって、絶対岡崎先輩のことが好き…」

2人共大声を出してそんなことを言うものだから、祐樹は「うるせー!」と言おうとしたが、



「うっせぇぞ!…岡崎と東條は早く店入れ!」


5時過ぎてンぞ!と、別の声がそれを制した。
その聞き覚えのある声に、祐樹どころかひよりと雄太も身を固まらせる。
そう、先ほどから出ていた名前の人物。


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