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商品補充のために、祐樹は先ほど通ってきた倉庫へと少し早足で向かう。
恐らく西條は倉庫中心に業務をしているのだろう。
いつもは発注作業で店内をうろうろしているのだが、それよりも倉庫で少しばかり話したり指示されたりする方が楽しい。

以前は、なるべく関わらないように遠ざけていたのに。
何だかおかしくなって、祐樹はにやける口元を袖口で隠しながら倉庫の扉を開けた。

まずは、トイレットペーパーや洗剤など補充が最も必要な生活用品を終わらせる。
先ほど事務所へ向かう前にチラリと見てきたので、大分減っているのが見て取れた。
台車にはトイレットペーパーとティッシュのダンボールをを乗せたらいっぱいいっぱいなので、洗剤や芳香剤は後々確認する。

2年ほどこなしてきた業務をしっかりと脳内で確認し、まずは速攻でダンボールが積み上がっている倉庫の端へと向かった。
さすがに基本的な業務を終わらせなければ、仕事中の西條に話しかけることは出来ない。
昨日のようなプライベートではないのだ。

少し埃臭いダンボールをしっかと両手で掴み引きずりおろす。いつもよりは低い位置にあるので、安易に大きいダンボールは床へ落ちた。
少し鈍い音を立てるそれを、せっせと台車に積む祐樹。
いつもの作業なのだが、やっぱり奥に居る西條が気になるらしく、チラチラ見てしまう。

いや、集中集中!と誰も見ていないのに首を横に小さく振って、雑念を振り払おうとした。
そんなことで簡単に振り払える訳が無いのに。

案の定、祐樹はティッシュのダンボールを積み終えるまで、何度も何度も西條の方を見ていた。
対する西條は、仕事となると集中力が凄まじく良いので、祐樹が倉庫に入ってきたことも知らなかったのだが。

いつもより時間はかかってしまったものの、早く沢山すべき補充の指示を受けたいので、祐樹は少し早足で店内へと向かう。

ガラガラガラ!と勢いよく台車の車輪が音を立てた。
擦れて汚れるのではないかと一瞬思ったが、大した汚れにはならないで気にせず目的地へと向かう。


すると、新しいフェイス作りに勤しんでいた宮崎から「走らないの!」と小言が飛んできた。
祐樹は苦笑しながら「すんません…!」と返事をしつつ逃げる。
宮崎自体は優しくて好きなのだが、彼女の小言は如何せん不思議なプレッシャーを与えるのだ。
何だか母親に叱られているようで。



(まぁ、西條さんに怒られるよりはいいか…なンて)



こんな時でも思わず西條のことを考えてしまう。
恋の病とは恐ろしいものだと、本人が1番気づかない。

祐樹はまたまたご機嫌に鼻歌を小さく歌いながらダンボールから補充するものを取り出して積んでいった。
いつもよりノリノリで、ちょっとリズムを取りながら。


そんな祐樹を、常連の客である年配の方々は「今日の岡崎くんはとても元気ね!」なんて噂していたとか。




気づけば、いつも補充をする箇所は大体終了していた。
生活用品も、ペット用品も。
あとは恐らく、普段補充しない工具や園芸用品であろう。
今までの祐樹ならば、めんどくせぇなぁと思っていたのだが今日はワクワクな気持ちで一杯だ。


早速、倉庫へと向かった。


扉を開け、奥の方で相変わらずガサガサやってる西條を見つけると、速攻で彼の元へ向かう祐樹。
すると、さすがの西條も人の気配に気づき屈んでいた身体を起こした。

ぱっと目が合い、思わず祐樹は逸らす。
しかし、このままだんまりしては仕事に影響が出るので、少し目線を逸らしながら、



「補充終わりました、あの、今日たくさんあるって聞いたンすけど…」


自然に聞けば、西條は「ああ、」と小さく頷いて搬入口の方へと向かう。
発注していた商品が、今朝大量に入ったらしい。
半分ほど西條が終わらせたのだが、まだまだ残っていて大変なのだ。



「今日早いな、補充すンの」


助かるけどな、とちょっと小ばかにした笑みで積み上げられたコンテナを押す西條。
そのコンテナを受け取りながら、祐樹はちょっとむくれつつも「助かる」という言葉が素直に嬉しくて、


「…俺も2年くらい働いてますから、早くなりますよー」

自慢げに言ってみたり。
しかし、


「2年もかかったけどな」


いつも通り意地悪なことを言われた。
何だか仕事中はとても意地悪じゃないか?と祐樹は怖気づくも、俺からしたら進歩っす!と反論してコンテナを半ば引きずるようにしながら倉庫を出て行った。

そんな祐樹の背中を、少しぼんやりして西條は見つめる。
そして後頭部を痒くも無いのに、無意識にかきながら

(…やっちまった…)

意識するとついからかってしまう自分に反省していた。
好きで意地悪なことを言っているのではない。いや、どちらかといえば西條はサディストの方面だが痛めつけて快楽を得るほどではない。
云わば、好きな子をいじめてしまう小学生男子レベル。
25年も男前な顔立ちで生きてきて、ずっとそうであった訳ではないが、相手が相手。
8つも年下など西條から見たらまだ子どもだ、そして何より異性ではない。
更に、ここまで心を揺さぶられる程惚れたのは祐樹が初めてなのではないかと思うほど。

先ほど会って、話しただけで分かる。
自分がどれほど祐樹を好いているなんてことは。

けれど、


(好きだ…けど、わっかンねぇー…)


あまりにも分からない所が多すぎて困惑しているのだ。
早く告げてフられた方が良いのか、それともまだこのまま仲の良い上司とバイトを続けたほうが良いのか。

終わりの分からないことは目を背けたくなるものが人間である。
西條は先ほどの祐樹と同じように小さく頭を横に振って、仕事に再度集中し始めた。
残業を減らして、少しでも祐樹と話せるように。



(…予想以上だ…)

一方その頃祐樹は、予想以上の補充商品の多さに愕然としていた。
しかも普段補充しないものばかり。
場所は何となく把握できるが、こんなものがあったのか!?というものも沢山ある。
お客様に聞こえないよう小さく溜息を吐いて、なるべく全て終わらせるように集中して取り掛かった。

そんな祐樹を、レジからチラリと見ているのはひより。
レジから工具売り場は近いので、ふわふわした頭の祐樹はよく見えるのだ。

忙しく動いたり、じっと売り場を見て商品の場所を見つけようとする動きは見ていてちょっと面白い。
けれどそんなことより、ひよりは事務所での彼の表情がとても気になっていた。

以前、ひより自身が勝手に思い込んでいたこと。

それは西條が祐樹を好きなのではないか、という勘違い。
でも今は、


(…あの表情は…恋愛とか分かんない私が見ても…)

祐樹が西條に、恋をしているとしか思えないのだ。
それが思い込みであること、少し願った。

今日の有線は、不思議と恋愛を歌う曲ばかり。
より憂鬱になって、ひよりはゴキゴキと肩を鳴らした。


三者三様の思いをぐるぐる募らせ、あっという間に閉店時間は過ぎる。
そんな3人の悩みなど気づかないのか、宮崎は元気に閉店作業をする3人に声をかけた。

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