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適当な服に着替えて、祐樹はまた携帯を開いた。
メールボックスの分け方など知らないので、全てメインフォルダだが、元々メールをあまりしないので問題は無い。

受信フォルダの最新メール。
読み返すたびに、思わず頬は緩んでしまう。


(…とりあえず、返信…)


恐らく西條は仕事中なので、ゆっくりで構わないだろう。きっと彼がこのメールを見れるのは昼休みか3時頃の休憩時間だけ。

とにかく昼前には送ろうと決め、ぽちぽち打っていった。


『なるべく、夜の早いうちとかにします。
俺は夜遅いと寝てて気づかないんで…
昨日のとか気づかなくてすいません。』

まで打った。まずは当たり障り無い返事。
因みにちゃんと絵文字は所々使っている。
すいません、の後に汗マークと泣いているマーク。
きっと西條が見たら「かわいいな…」と思ってしまうだろうが、祐樹は特に意識してやっていない。
あまり絵文字が無いのも寂しいからという若者の配慮。

しかし、祐樹はその後の文面が打てずに迷い始めた。



(…ま、また行きたい…とかひかれるかもしンねぇ…!?)


遊びに行ったことへの返信。
相手は完結してしまっている文を送ったので、それ以上話を盛り返すにはそれしかない。
しかし、そんな積極的に祐樹が出来るわけがない。

今度こそちゃんとサブメニューを素早く押して、下書き保存。


携帯を放って居間へと向かった。


そうこうしている間に、昼前。
西條が携帯を開けるのは恐らく昼食の時と休憩の時だけだ。なるべく昼に送ってしまいたい祐樹。
うーん、と唸りながらたった一言が打てずに居た。

また行きたい、それだけなのに。

とりあえずそこだけを抜かした文は完成した。
シフトは出来るだけ入れるように調整してみます!受験代稼ぐンで…と当たり障りの無い返事だ。
受験という単語を打つのに少し気が滅入ったが、理由を打たなければと真面目な祐樹が思っての行動。

そこまではスラスラと打てたのだが、問題は先ほどから悩んでいる部分。

無情に進んでゆく時にちょっとイライラ。
普通に考えれば問題の無いむしろ接待に似たような単語が意識して打てない自分にもイライラ。


「うわー!もう嫌だー!」


思わず大きい独り言を叫びながら、またもやごろごろと畳の上に転がる。
おかげで、居間にいる祖母に「祐樹静かに!」とちょっと怒られてしまった。
今までうるさいと怒られたことが無かったので、心底驚く祐樹はぐっと押し黙った。
確かに先ほどから少々やかましい。

祐樹は何度か深呼吸をして、自分を落ち着かせた。


そして、ゆっくりと1文字1文字押す。

『また遊びに行きたいです』


それを打った直後、勢いに任せて祐樹は送信ボタンを押して、また携帯を部屋の隅に投げた。
先ほどからひどい扱いをされている携帯は、不吉な音を立てて壁にぶつかる。
壊れては困るので、祐樹は慌ててそれを拾い上げ、送信できたことを確認すると窓際にそれを置いた。


午前中の涼しい時間に勉強を終わらせようと祐樹は決めたので、手元に携帯があっては集中できないから。


伸びてきた前髪を、祖母がくれたヘアバンドで上に上げる。
切ろう切ろうと思って、ついつい後伸ばしにしている髪の毛。
そろそろ切らないとな、と思いながら祐樹は英語の復習に勤しんだ。
最近買った参考書を開いて、くるくると二度三度シャーペンを回してから。



外では晴れていることを知らせてくれるかのように、小鳥のさえずりが聞こえる。
まるで音楽を奏でるかのように聞こえ続けるそれに耳を傾けながら、祐樹は頬杖をついた。
日はゆっくりと南から西へと動いていった。


そして、太陽がちょうど南に来たとき。
昼を知らせる鐘が少し遠いところにある小学校から聞こえた。
普通休みの日は鳴らさないだろう、と祐樹はぼんやりと小さな文句を心の中で呟きながら参考書を閉じる。
そろそろ祖母がお昼を用意して、呼んでくれる時だろう。

今日のお昼は何かな、なんて暢気なことを思いながらごろんと畳みに転がった。



(…そろそろ何かまた育てっかな)


ゆっくりと首を傾け、窓の外を見つめる。
ふわふわとした髪が、畳の上に擦れた。
初夏に近づいている外の空気は、きらきらと輝いていて植物を育て始めるのには良い機会かもしれない。



「祐樹、ご飯だよー」


廊下から祖母の声が聞こえた。
美味しそうな親子丼の香りと一緒に。
祐樹はご機嫌に返事をしながら、空腹を満たすためにちょっと駆け足で居間へと向かった。

また、着信音が鳴ったのも知らずに。



「そういえば、西條さんの好きな食べ物知ってるのかい?」


もぐもぐと親子丼を頬張っている祐樹に、また祖母は西條のことを質問した。
案の定祐樹は、ちょっとむせりそうになったが必死にこらえて、


「えっと…アスパラのベーコン巻き…かな…」

記憶を辿って答えらしきものを出した。
以前、弁当を作って持っていった時に今度入れとけと言われた物だ。恐らく好物なのだろう。
祐樹の作ったものを全て食べてくれたことを思い出し、思わず小さく笑ってしまった。
すると、


「あらまぁ、随分質素だねぇ」


良い身体をしているから、もっと肉類かと思った。と祖母はしげしげ呟いた。
確かに。
祐樹はうぐっと言葉に詰まった。
恐らくあの時は、弁当のオカズの中ではという意味合い。実際好きなものなど分からない。
ハンバーグが美味しそうという声は聞いたが、それはその時で別に好物だとは聞いてないのだ。


「今日聞いてみる」

話の話題が1つ増えてちょっと嬉しい祐樹。
器の端に寄せておいた大き目の鶏肉をもぐもぐ食べながら、こぼれそうな笑みを誤魔化した。

「じゃあ今度いらした時にでも」


祖母はそう言って、口の中にいっぱい入れて食べないの!と注意。
久々に注意されて祐樹は怯えながらも軽く謝った。
しかも怒られる原因がそんなこと。
思春期な祐樹はちょっとだけむかっと来るも、祖母相手にそんなことは出来ないので、言われたとおりちょっとずつ食べる。


「西條さんがいらした時に恥ずかしいでしょう?そんな風に食べたら」

「…確かに…」


祖母にそう言われて、少ししゅんとした祐樹。
確かに、西條が居る前で頬張って食べるのは恥ずかしい。
昨日のうどんは頬張る必要がなかったのでナイスチョイスである。
自分で自分の行動に内心親指を立てた。


ふと、祐樹はいつも祖父が座る場所を横目で見やる。
眉が勝手に下がって、胸の真ん中が小さく痛んだ。





「じゃあ、お祖父さんの所に行ってくるね」

今日も雄太の母の運転で病院へ行く祖母を見送る祐樹。
夕飯までには帰ると心配そうに告げながら玄関を出る祖母にひらひらとてを振った。
そんなに心配しなくとも、1人で留守番くらい出来る歳だ。

困ったなあ、と祐樹は軽く困ったように笑いながらいそいそと自分の部屋へと向かう。
それは、もちろん。


(昼に返信来てた…!)


西條からのメールを見るため。



『気にしなくて良い。
別に夜遅くても俺は起きてるしな。

無理はすんなよ。
推薦だろ?前言ってたよな。

またシフト休み被ってたら行くか』



やっぱり短い文章。
西條は好かれようと思ってメールを打ったことがないので、結局あっさりとしたメールだ。
しかも後半なんて、シフトの休みが被っている日が分かっているのに誘えなくてこのあり様。
けれど、祐樹はこのあっさりとした文章でも嬉しかった。


またご機嫌に鼻歌を歌いながら、ゆっくりボタンを押してゆく。


『じゃあちょっと夜遅くても許してくださいね。

はい、推薦を狙ってます!
浅見からちょっと遠い大学ですけど…

今度は西條さんの行きたいとこが良いです』


西條と違って、所々ちゃんと絵文字を使ったメール。
段々羞恥が薄れてきて、今度はなんて誘うような文章を打ってしまった。もう勢いで打つべきだと学んだのだ。


(送信っと、)

さて、送信したらちょっと土弄りをしてからバイトへと行こう。
今日の夕方が待ち遠しい祐樹は、午後の暖かい日差しが満ちる庭へとご機嫌に突っ掛けを履きながら出た。



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