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天気の良い日曜の朝。
眩しい位の朝日がカーテンを割って入ってくる。

眩しさが瞼の裏を通り過ぎ、すやすや眠る祐樹に起きて起きてと訴えかけた。
さすがの祐樹も、あまりの眩しさにもぞもぞと身体を動かして布団の中に潜ってしまう。
今日は日曜日だし、バイトは夕方からなのでゆっくり眠っていたいのだ。月曜日のためにしっかと休息はとりたい。

しかし、徐々に上がってきた気温のおかげでいつまでも布団に居ることが気持ち悪くなる。
仕方ない、起きよう。
そう祐樹は決めて渋々と布団から這い出た。

ふと、今の時刻が気になって枕の下に埋めた携帯を取り出す。
ぴかぴかと何やらランプが点いているが気にしない祐樹は、何も疑わずに携帯を開いた。

そこには、「新着メール1件」の文字。

昨日の夜に誰か送ったのだろうか、と寝ぼけ眼を擦りながら祐樹はそのメールを開く。
自分が昨日緊張しまくったことなどすっかり忘れて。


そこに映ったのは、


差出人は『西條瑞樹』件名は『RE:』
そして本文は

『いつでも構わない。
仕事中とか夜遅すぎるとかはわかんねーけど。

そうか それなら良かった。
俺も面白かった。

夕飯。暇があったらお邪魔しますと伝えとけ。

了解。
もうすぐ受験だろ?
本格的に始まる前にもうちょっと入れられるか?』


構わない、の後に掌の絵文字。
その程度の色味の無いメールだったが、確かに西條らしい文面。

祐樹は一度さらりと読んだが、全く頭に入らず何度も何度も理解しようと読み返した。
けれど、頭に少しずつ入れば入るほど、一気に火照ってくる身体。
目なんて、とっくに覚めた。


思わず携帯を放り投げ、布団の上に倒れこむ。
ごろごろごろ!と部屋の端まで転がって、「ひょぅうぇわぁあ」なんて変な悲鳴をあげた。

西條からメールが来るなど、信じられなかった。
好きだと云うこともあるが、何より西條が携帯を弄る所などあまり見たことが無い。
それが、自分に向けて送ってきたのだ。メールを。

片思いの相手からメールという単純な文章が送られてくるそれだけで、祐樹は舞い上がる。

ぴたり、と動きを止めて畳に突っ伏した。
そのまま幸せを噛み締めるかのようにふにゃふにゃとはにかみ始める。
むずむずする胸の真ん中に片手を添えながら、祐樹はふにゃふにゃしたまま携帯をまた開いた。


(面白かったンだ!…良かった…)


西條からのメールをまた見直す。
昨日のお出かけを楽しんで貰えてよかった、と。
また行きたいなぁなんて思ってみたり。


(…ばあちゃんに後で言っとこう)


今日辺りとかは、ちょっと気が早すぎるかな。
なんて思ってみたり。
西條とまた家で夕飯を共に出来るなど、何だか夢みたいだと祐樹はぼんやり思った。
そして、最後の文面。


(…そういや、シフト減らしたっけ…)


夏休みから本格的に始まる受験勉強。
祐樹は進学クラスなので、去年の冬前からちょこちょこ課外に参加はしていた。
が、夏前になってより増えたのでシフトを減らしてもらっていたのだ。

西條も受験を経験した身。
分かりつつも、祐樹にもうちょっと会いたいので遠まわしに伝えてみたのだ。

一方、祐樹はというと。


(…さ、西條さんが言うならがんばろっかな…!…なンてな!)


西條に頼まれたので、頑張ろう!と素直な解釈。
それに下心が含まれているとは知らない。
祐樹は急いでカレンダーの前に、課外日程表を持っていった。
苦手な科目は絶対として、英語と数学は確実に出たい。
それ以外の科目を少し減らせばバイトにも行けるだろう。
現代文の課外をパスして、その分昼休みに配られるプリントを貰えば夏休みまでには何とかなると祐樹は踏んだ。

来月のシフト表を見ながら、ちょっとずつ日を増やしていった。


なんだかんだ、祐樹も西條に会いたいのだ。
祐樹がバイトの日以外、全く接点が無い。
だから、せめてバイトの時間を沢山増やして。


(…そういえば、まだバイト入ってないな…)

ふと、祐樹は気づく。
シフト表と課外の時間表を机の上に戻しながら、カレンダーであの日のことを思い出した。

祐樹が、西條のことを好きだと気づいたつい2、3日前。色々ばたばたしていたので、バイトに入っていないのだ。
バイトの面々にも色々説明しないとならないなぁと、みんなの顔を思い出してふと、ある人物が浮かぶ。

それは、西條にも祐樹にも厄介な人。


(…そういえば、中條君キスしないと諦めないとか何とか言ってたな…)


ハァハァと息を荒げて「西條さんの身体を頂きたい!」と王子様顔を台無しにしている中條を思い出すと、思わず祐樹はむかむかとイラついてきた。
胸の真ん中がもやもやして煙たくなる。

いくら西條が嫌っているからと言っても、やっぱり嫉妬はしてしまうものだ。
しかし、祐樹はまだそれがハッキリと「嫉妬だ」ということが分からない。
何かイライラするな、くらいのレベルだ。

でも自分以外にはキスしてほしくないな、とは薄っすら思ったりする。
けれど、祐樹はそれを強く強く思うことが出来なかった。
嫉妬を忘れるように軽く頭を振って、スッキリした状態で返信しようと手洗い場に向かう。



ばしゃばしゃ、と静かな洗面所に水流音を響かせた。
生ぬるい水と祖母が買ってきた一般的な洗顔石鹸で顔を洗う。
時々長い前髪が濡れるが、祐樹は特に気にしない性格なので、ちょっと濡れたままタオルで顔を拭き部屋に戻る。

ついでに居間に顔を覗かせて、のんびりテレビを見ている祖母に「おはよう」と挨拶。
祖母も「おはよう、祐樹」とにこにこしながら挨拶を返した。
今日もまた、雄太の母と病院に行くらしい。
祐樹はバイトがあるので、今日は行けないが明日はバイトが無いので行くねと告げる。
なるべく祖父に会いたい。



いくらまだ回復途中とは言えども、やっぱり退院には早いらしい。
しかし、以前医者に峠かもしれないと告げられたが、発作が起きてもまだ大丈夫かもしれない位に回復したのだ。
それを聞いて、少し安心。
病は気から、というのは案外正解なのかもしれない。



「祐樹はこれから受験だからね、あんまり忙しなく動かなくてもいいンだよ?」


祐樹の分の朝食を準備し始めようと、腰を上げながら祖母は告げた。
それは、とても優しい口調で。

祐樹の喉が、一瞬クッと鳴る。
それを誤魔化すように咳払いをして、「うん」と返事をした。


西條のメールにも、あった言葉。
「受験」の言葉にちょっと心が重くなった。


「…俺、着替えてくるー」


「はいはい」


その重さから逃れたくて、祐樹は部屋に戻って西條のメールに返信しようと足を向けた。
歩くたびキシキシとなる古い床の音。
それを耳に入れながら、ぼんやりと課外の宿題をもう一度やるべきかと悩み始めた。


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