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このショッピングセンターは結構広い。
先ほどの楽器フロアはもちろんのこと、他にも様々なフロアがある。
西條と祐樹は、のんびり服や靴を見ていた。

ここの所あまり服も自分で選んでいないので、祐樹はどういうのが流行りなんだろうかと首を傾げる。
すると、ぽすんと頭に何か乗せられた。
乗せた張本人は、「こっちのほうがいいな」と呟いて別の方を乗せる。

「え、なに…」

さすがに不思議になってきた祐樹。
何だろうと思って近くにあった鏡を見る。
すると、鏡に映る自分の頭の上にはよく似合った帽子が乗せられていた。
中折れ帽子のような、それでいて不思議な形だが。


「お前って帽子似合うよな」


西條の言うとおり、祐樹は顔が小さく髪も長めなので帽子がよく似合う。
西條に帽子を見立てられて、何だかちょっと照れ臭いけれど嬉しい祐樹。もじもじしながら、西條が帽子やら服やらを選んで持ってくるのを大人しく待った。

そんな祐樹に、帽子を被せるのが実は楽しい西條。

乗せるときに、ちょっと目をつむる仕草がたまらなく可愛い。そんな下心がありつつも、純粋に祐樹に似合う服が見たくて選んでいるのだが。

すると、祐樹がふとある帽子に気づく。
西條がちょうど後ろを向いている隙に、背伸びしてその帽子をこっそり被せた。
と言っても気づくものは気づく。
西條は不思議に思って振り向けば、


「…西條さんも、似合う!」


へにゃぁ、と笑ってみせる祐樹。
一気に西條の胸が高鳴り、心臓に悪すぎる!と内心慌てながらもポーカーフェイスを保ち、傍にある鏡を見た。
被らされていたのは、中折れ帽子。
黒の生地に、銀のストライプが入っていてオシャレだ。
正直、西條はあまり自分で帽子を被ることはしないのだが、祐樹が選んできたので何だか嬉しい。

しかし服やら帽子を選びあうなど、女子高生のようなことをしているなと一瞬冷静になった。


「そろそろ行くか」

あんまりこんなことをやっていても岡崎は楽しいのだろうか、と危惧して西條は別の所へ行くことを提案。


「えっと、じゃあ…これ買ってきます」


すると、祐樹はあっさり許諾したが、西條が選んでくれた帽子を買うことに決めた。
物で示せる思い出は少しでも欲しい。
あまり帽子を被る機会は無いが、部屋に飾ろうと祐樹はわくわくしてレジへと向かった。

すると、


「ちょ、待て!…俺が買う」


がしっと祐樹の細い肩を掴みながら、西條はその中折れ帽子を半ば奪い取った。
祐樹は目を白黒させる。へ?と分からない言葉を浮かべている隙に、西條はさっさとレジで会計を済ませてしまった。

ありがとうございました、と元気な店員の声でようやく気づく。


「え!?そ、そンな悪いっすよ!」


中折れ帽子は意外とリーズナブルだったので、祐樹のアルバイト代でも十分買えた。
祐樹は返しますと言い寄るが、西條は全くその気が無いらしく、買った帽子をすぐさま取り出して祐樹に被せながら、


「俺が選んだンだから当然だろ」


ちょっと口を尖らせて言って見せた。
祐樹はそう言われると、もう何も言えなくなる。嬉しさと申し訳なさと、なにか心がふわふわしたものに襲われて、しどろもどろになりながら、


「え、え…っと、大事に、します…!」


ふにゃふにゃ笑って早速被って見せた。
相変わらず心臓に悪い可愛らしい笑い方。西條は胸の高鳴りを抑えるために、祐樹から視線を外してエスカレーターへ視線を向ける。

相変わらず人でごった返しているが、エレベーターを使うよりはいいだろうとそちらへ足を向けた。
上に何があるかは知らないが、とりあえず最上階までうろうろするだけで結構面白いのだ。

そんな西條のちょっと斜め後ろを着いていく祐樹。

何度も帽子を被りなおして、慣らそうとしていた。そんなすぐに被らなくてもいいのに、と西條は思いながらも、贈り物を身に付けてもらえる喜びに浸っていた。



メンズ服の上は、レディース服や小物なのでスルー。
その上は変わった小物が沢山ある店。

何となく見てみるが、やはり不思議な食べ物や変なマスコットが棚に並んでいた。
西條は何となく、海外性特有のフォルムをした七面鳥のストラップを手に掴む。ぎゅうっとしてみると、「ぐぉぁ」と変な音が鳴った。
思わず「きもい…」と呟きながらも、ツボにはまったのかぐあぐあ鳴らしまくる。


「うわー!なンすかそれ!?きもー」

すると、隣で香水の香りを何となく嗅いでいた祐樹が、音に食いついてきた。
けらけら笑いながら、西條のとったものと色違いのものをとる。同じように押して、ぎゃおぎゃお鳴らしながら楽しんだ。


「これ岡崎に似てね?」

「え!?俺そんなにキモいの!?」


西條はニヤニヤ意地悪な笑みを浮かべながら、祐樹をからかう。


「弱く押すとお前の腹の音」


「…!!そ、それは!」

確かに、やわく押すと「きょわー」と中途半端な音が鳴るのだ。
祐樹の腹の音を幾度か聞いた西條の情報は間違いない。祐樹もそれはちゃんと自覚している。

高校でもよく昼近くなると腹の音が聞こえてくるが、みんな「ぐー」とか普通の音。
でも祐樹は「きゅー」とか「ぎゅう」とか半端に高い音なのだ。コンプレックス云々でなく、単に恥ずかしい。

祐樹は真っ赤になりながら、ふるふる震えて、


「もー…俺の腹の音なンて忘れてくださいよ!はずい…」


ちょっと、軽く西條の腕を叩いてみた。
あまり触れたことが無いので、腕の質感・体温を一瞬感じただけで心臓が止まるんじゃないかってくらいドキドキする。

対する西條は、


「いや、お前が聞かせるからだっつの」

けらけら笑って意地悪を言いつつも、内心軽くボディタッチしてきた祐樹が可愛くて仕方ない。
水面下でお互いにデレデレしていることなんて、周りはおろか本人達も気づかないなんて、滑稽なようで純粋だった。




ふと、西條が中古の漫画をぺらぺら見ている隙に、祐樹はこっそり西條から離れて雑貨売り場に早足で向かう。
先ほど見つけた、綺麗な夜空を象ったようなストラップを買うために。

雫の形をして、中には夜空。
ちょっと洒落てる細いチェーンがぶら下がって、女性よりは男性が付けるような感じだ。


お値段はちょっとするけれど、最近煙草を吸わなくなったのでその分浮いているお金。


祐樹は西條に見つからないように、こっそりレジを素早く済ませた。

鞄を持たない性格なので、こっそり財布の中にしまう。ポケットに入れたら落としてしまいそうな気がしたから、大事に大事に。

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