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「えーと、俺はきつねうどん…で」

西條さんは?と、無意識なのか小首をちょっと傾げる祐樹。
セレクトも可愛いが仕草も可愛いな、と内心デレながら西條はポーカーフェイスを保ち、

「じゃあ俺は掻き揚げでいいか。
…ん?ボタン無ぇから呼ぶのか」

自分の分を決めつつ、店員を探した。
西條が後ろを向いている間に、祐樹は心の中で掻き揚げ食べる西條さんか〜と無駄な期待をする。
掻き揚げなんて誰が食べても同じなのに。
恋は盲目なのかどうかは、果たして祐樹に当てはまるかどうかは分からないが、ちょっと浮かれていた。


どうやらここは店員を呼ぶシステムらしく、西條はちょうど前を横の土間を通りかかった女性店員に声をかけた。

「すいません、注文…」

「はい…。…!な、何でしょう!」

すると、可愛らしい女性店員は西條を見た瞬間ぽっと頬を赤らめる。
西條がタイプだったのだろう、それはもう今がチャンスとばかりに見つめていた。
だが、西條は注文するのに集中していてそんな視線など微塵も気づかない。

祐樹はもちろん、気づいているというのに。

祐樹の胸の中にもやもやした煙が燻る。
前々から西條がモテている場面など腐るほど見てきているというのに、今更ながらやっぱりちょっとはやきもちを焼く。

ふと、祐樹は以前の西條と宮崎の会話を思い出した。
それはいつもの事務室で、西條が書類作業をして宮崎が送られてきたポップなどを整理していた所。
因みに祐樹は事務室に忘れてきたカッターを取りに来ていた。

すると、いきなり宮崎が西條の襟を掴み、彼の首筋を覗き込んだのだ。
ぎょっと祐樹がそれを見ていると、宮崎はケラケラ笑い、西條は困ったように苦笑していた。
そして、鈍感な祐樹も直後の会話で気づく。

『西條くんったら、まァた適当な女の子捕まえて…激しいわねぇ〜付いてるわよいっぱい』

『ああ…ったく、うぜぇな…まぁ付き合ってる訳じゃ無いンでそのうち消えますよ』

『お客さんに見えないようにちゃんと隠してね』

『了解』

さらっと会話をしていたが、童貞でましてや女の子と付き合ったことすらない祐樹には衝撃そのものだった。
しかも適当、言い寄ってきたらまぁ抱くかのレベルなのだろう彼には。
それがより理解できない。祐樹がまだ子どもだからという点もあるが。(それにしても西條は最低だが)


そんなことを思い出して、一気に祐樹の背中に冷たい汗が伝う。


もし、あの可愛い店員が西條を本気で気に入って「一晩だけの関係でもいいので!」と言い寄ってきたらどうしよう。
大分可愛かったからきっと西條は承諾してしまうのではないかと祐樹は不安になってきた。

しかし、それでも別に西條と祐樹は恋人同士ではない。ましてや男同士で友達…でもきっと無い。
たかだか上司とバイトの関係。
そう思った瞬間、祐樹の浮かれていた気分は一気に底に落ちた。


「…おい、どうした?」

腹でも痛いのか?と西條は心配そうに聞いてくる。
先ほどまでにこにこしていた祐樹が、いきなりしゅんとしているから。
これからうどんを食べようとしているのに、腹が痛いのでは確かに落ち込むだろう、と西條は勝手に脳内完結する。

祐樹は、さりげなく気遣ってくれる西條の態度に何だか綻びが出来て、つい口走ってしまった。



「…あの、抱くンですか?」



西條はひたすら疑問マークを浮かべる。
何を、というかどちらの意味で?(抱きしめるorセックス)ぐるぐると考えながら、西條はひとつの答えを導き出した。


(…お持ち帰り希望?)

まさかの、自分にとって最も都合の良い展開。しかも間違っている。
まだプラトニックな感情しか育てていない祐樹が、いきなり真昼間のうどん屋で「俺を抱くンですか?」なんて聞くはずが無い。
それを分かりつつも、ついつい都合よく考えてしまったのだ、西條は。

しかし、男なんてどうやって抱くのか。
大体思いも伝えていないうえに、相手も自分を好いているとは思えない西條。
どうしたものか、と無駄に考え込んだ。


その悩みこみが祐樹にとって最も恐れていたことなのだが。


沈黙した空気に、祐樹は耐えられなくなってちょっと掠れた声をあげる。



「や、でも西條さんモテるし…さっきの女の人どころかいっぱい…相手してたし、」


今更っすね…!と、力無いが元気(に振舞って)に答えた。
しかし、西條の悩みこみは一発で吹き飛ぶ。


「は!?さっきのって誰だ?」

自分の元カノなんぞ祐樹が知るはずがないのだ、西條は慌てて記憶を振り返るが祐樹と出かけ始めてから女性と会った覚えは無い。


「え…、さっきの店員さんっスけど…それに、前事務室で適当な女の人抱いてるって」


西條の血の気が一気に足元に落ちる。
さっきの店員いざこざはよく分からないが、事務室の件には若干覚えがあった。
確か、宮崎にキスマークを見つかってちょっとからかわれたときだと。ばっちりその通りである。
その頃は祐樹などバイトほどにしか見ていなかったので、特に気を使わなかったのだ。

今更だが、最悪な男だ自分は…と西條は落ち込む。
だが弁解はしないとならない。確実に変な勘違いを祐樹はしているのだ。



「さっきの店員は知らねぇけど、…まぁ、それは昔の話で。…今はヤるどころか話してもねぇよ」


そんなに昔でも無いが、下半身にだらしの無い男だと思われたくないのだ。
実際、最近は全くそういった影は無い。
…確かに、人肌恋しくなって昔の同級生のツテなどから言い寄ってきた女性と寝てはいた。
が、やっぱり心の寂しさは補えなかった。


「つーか…何、お前が抱くとか言ってたのさっきの店員か?俺はナンパ野郎じゃねーよ!」


横にあったメニューで祐樹の頭を軽く叩く。
柔らかな髪がちょっとつぶれるくらいだが、祐樹はいきなりだったので思わず「いてっ」と呟いた。

けれど、突拍子も無く勘違いしたので祐樹はちょっと「わーすんません、勘違い!」と軽く謝る。
ちょっと今はフリーなのかと浮かれてみたり。

何となく祐樹はにやける顔を隠すためにお冷を飲み始めた。



「…ったく、お前かと思った」



ぶはっ!!と祐樹が一気に口の中に入れた水を噴出す。
テーブルは水浸しなうえに、若干水が気道に入ったので祐樹はむせ続ける。
俺が!?と内心大パニックを起こした祐樹を見て、西條も慌てた。置いてあったお手拭でテーブルを拭きながら、


「おまえ…いきなり噴出すなよ!」


「だ、だ、って、おれ、俺ってそんなこと、言うわけなっ…!」


想い人、ましてや年上の男性。さらにちょっと意地悪な西條に向かって「俺を抱くンですか?」なんて聞くはずが無い。というか抱く抱かれるとか出来るのか?と祐樹は今更ながら思った。


「わりぃ、冗談だ冗談。お前話すときは主語を言えよ」


「あ、…そ、それはすいません…」



再び沈黙が訪れる。
けれどそれは、あまり重くは無い。
西條はパラパラとメニューを捲るふりをして、キモいとは言われなかったなとちょっとした進歩に喜ぶ。
以前だったら確実に「俺男っすよ!?きも!キモい!」と連呼される所だ。
進歩と呼べるのかは分からないが。



対する祐樹は、またお冷を飲みながらぼんやりとする。
ちょっとだけ頬を赤らめて。



(…お、俺を抱くって…そんなに悩むことなのかな…ありえねーって言えばいいのに…)


まだ、西條への思いがピュアすぎてそう言った身体的なふれあいが想像できない祐樹。
それでも、西條に何かされるのならば傷つけられたり、嫌われたりするよりは100倍嬉しい。


(…わ、忘れよ!うどん食べよう!)

ふるふる小さく頭を振って、やっと来たきつねうどんを見る。先ほどの店員が来たのでちょっと悲しくなったが
。相変わらず、西條にハートを飛ばしまくっている。

因みに西條はシカト。

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