文化祭
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文化祭3日前ともなると、学校中はお祭り一色。
前日までバイトのため直帰していた祐樹は。
「岡崎くん!机並べるの手伝って!」
「次、注文メニューの暗記ね」
「あと飾りつけも…」
やる気満々な男女数名にいいようにこき使われてしまった。
俺じゃなくてもできるだろ、と思いながらも前々から手伝わなかった自分も悪いと反省しながら必死に仕事を進めた。
特に、飾りつけが大変らしく、祐樹は一生懸命みんなの見よう見まねで何とか飾り付けを進める。
そんな祐樹を見て、哀れと雄太は思うも、実際の全員の心理を知っているので言わないことにした。
みんな、仕事を頼むふりをして祐樹と話したいだけなのだ。
普段から祐樹は放課後居ないし、周りと話そうとしない。
話そうとしない、というよりは話題が単に無いだけなのだが。
しかし、文化祭というクラス一団となれるこの機会はチャンス。
「この飾りむずいね…」
「これはこうするんだよ」
「あんがと」
そのうえ祐樹の不器用さを利用し、教えてあげるという新しい戦法を使う者も多々。
祐樹本人は申し訳ないと思っているが、それがクラス全員のツボにはまっているとは、知らない。
ふと、祐樹はこの喫茶店の醍醐味を思い出した。
適当に隣で飾りを作る女子の肩を叩き(名前と顔が一致していないため)、
「そういや仮装って何やるか決まった?」
と聞けば、笑顔で。
「1人1人役割があってね、和服とか洋服とかごっちゃだよ。因みに岡崎君のは明日届くから!」
と答えた。
祐樹はどんなのなんだろうとぼんやり思いながら礼を返す。
対して、質問された女子は内心心臓が破裂しそうな勢い。
祐樹が話しかけてきたことも一部あるが、何より仮装の内容を聞いてきたのだ。
バレたらどうなることか。
すると、こそこそと女子が集まりだす。
「大丈夫?ばれてない?」
「大丈夫、ほら岡崎くんって結構ぼんやりしてるから…」
「というか前日でも怒りそうじゃない?」
「みんながそうなら安心するって」
この男子皆が恐れそうな秘密内容のとばっちりを食うのだな、と横で聞き耳をたてていた雄太は祐樹に向かってため息を吐いた。
一方、祐樹は。
やっとこさ慣れてきた花作りにぼんやりと勤しむ。
脳内では文化祭の日、西條はどんな格好で来るのだろうか、とかコーヒー奢れるかな、とか。
そして、
(…暇そうだったら、俺も空いてたら…一緒にまわろうかな)
ほわ、と無意識に笑みを浮かべる。
次の瞬間、自分の状態に慌てて首を横に振った。
内心焦りと意味の分からなさに脅えながらも、
(違ぇ!西條さん、いい大人が1人で文化祭とかきもちわりぃから俺がついてってやるだけ!そう!)
と、激しい言い訳を脳内で繰り広げる。
思わず力んで手持ちの花をぐしゃぐしゃに丸めるほどに。
しかし祐樹は知らない。
当日、果たして自分が西條の隣に居られるかどうか、を。
先ほど話しかけた女子が、祐樹の作った花を見て恐る恐る話しかける。
「岡崎君ってもしかして不器用?」
彼女の言うとおり、祐樹が作った花はどれもこれもちょっとばかし歪だ。
祐樹は肩をビクリと揺らし、笑顔を引きつらせる。
「そ、そんなことねーよ…!」
ちょっと力んだだけ!と言い訳をして、祐樹はまた花を作り始める。
しかし、やはり祐樹が作った花たちはどうも何だか、おかしい。
スタイルというか、見た目があまりよろしくないのだ。
先ほどよりは良くなったが、やっぱり出来ないらしい。
けれどこれはこれで面白いので、声をかけた女子は他の女子に知らせるためにそそくさと祐樹から離れた。