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「お前、普段どこで遊んでンだ?」


とりあえず車を発進させてみるが、8も年下の男と遊ぶなど初めてなので、とりあえず西條は本人に聞いてみる。
そもそも、祐樹が意外に真面目なので遊んでいる想像があまりつかないのだ。
いつも勉強とかしてるンじゃないだろうかと一瞬西條は心配になる。

が、祐樹は何度か首を捻って視線を宙に投げる。


「…カラオケとかっスかね…?」


と、言っても月に一度行くか行かないか。
西條の心配通り、祐樹はバイトと学校以外に特にどこへも行っていないのだ。
しかし、時折雄太と行くカラオケ。

実は祐樹、歌は得意である。
少年と青年の中間の声でちょっと高いそれは、今の流行の歌にとても合っていて聞きやすいのだ。
祐樹自身も歌が好きで(だが好きなのは演歌)もし西條と行けたらいいな、と思っていた。


(西條さんの歌…きっとうまいだろうな…)

ハスキーボイスで、女性が聞いたらメロメロになりそうなそれに期待をする。
しかし、西條はというと。


「…カラオケか……別な遊びは無ぇのか…?」


苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
カラオケが嫌いなのだろうか、もしかして自分とカラオケという密室に行くのは嫌なのだろうか、と祐樹はその表情を見て焦り始める。
「えと、買い物とか!」と慌ててカラオケから観点を逸らせば、西條はやっとホッとした表情になった。

その緩みに、祐樹も安堵するがやっぱり不安。
しゅん、と目に見えた反応をしてしまう。
眉尻が下がり、ちょっと項垂れる祐樹を西條は横目で見て、ちょっと焦った。


「…いや、別にカラオケが嫌いとかじゃなくてなァー…あー…」

「えっ、あ、別にそこまでしたい訳じゃ」


慌てて遠慮する祐樹に、気をつかっていると感じた西條。祐樹が行きたいところに連れて行きたいのは非常にそれは非常に望んでいるのだが。
問題は、場所である。

何度も唸りながら、どうしようかと悩む。
その唸りに祐樹はいちいちキョドりながら、一体何なのだろうと助手席からじっと見つめた。
まるで、1日の目標金額(本店から設定されている)を大きく下回ってしまった日のような表情。
祐樹は何かカラオケにトラウマでもあるのだろうかと無駄な心配をし始めた。しかし、


「…俺は歌えねぇぞ」

やっと吐き出した西條の欠点。
祐樹はきょとんと目を丸くして、「レパートリー少ないとか?」と聞き返す。
まだ、微塵も疑ってないのだ。


「あ゛ー…だから!……音痴なンだよ」

俺が!と、やけくそになって荒げた声を出す西條。
あまりの恥ずかしさに、ちょっと耳が赤い。
祐樹は、信じがたくて何度も瞬きを繰り返す。けれど、西條が「俺だって練習はしてンだよ」と後から色々付け足すので本当なのだろう。

祐樹はふるふると手を震わせて、口の前に持っていった。

そして、押し殺したような「ふふふふ」と我慢する笑い声。
何笑ってンだ、と西條がちょっと睨みを利かせて軽く横を向けば、祐樹はもどかしそうな笑みを浮かべていた。

その幸せそうな、初めて見る笑顔に、思わず西條は黙ってしまう。
何だその可愛い顔は、と心の中でやけくそに叫びながら「分かったなら適当に買い物行くぞ」と口を尖らせて呟いた。
それがまた、可愛いと思えて。
祐樹は必死に笑うのを我慢して、へにゃへにゃと笑みを浮かべた。

何だか、とても嬉しいのだ。
西條のことがまた1つ知れて、たとえそれが本人にとってコンプレックスであろうとも、祐樹は嬉しくて仕方ない。
いつか、聞いてみたい。
そう思いながら、やっと普通の顔に戻ることができた。


やっと、カラオケ云々の話題が過ぎ、西條はふと買い物と行ってもどこに行くか迷いだした。
車なのでどこでも行けるが、人ごみは好きでは無い。
ましてや、誰かと買い物などここ数年ぱったりと無いので分からないのだ。
ふと、祐樹がいつも着ている制服を思いつく。


「そういや、お前高校は天明寺か」

「?はい、そうっすけど…」


祐樹が通っている天明寺高校は、こころから車で30分程かかる市街地。
高校がある所自体は閑散としているのだが、少しばかり行けばなかなか賑わっている。
下手に分からないところに行くより無難だな、と西條は天明寺(祐樹の通う高校は公立なので地名がそのまま学校名)に向かってハンドルをきった。

いつものバスと同じルートなので、祐樹はまさかと思い、


「え!?天明寺…!?」

慌てて聞けば、

「ああ。天明寺は色々あるだろ」

俺バッティングセンター行きてぇなーと鼻歌を歌いながらご機嫌に言う西條。
そんなひどい!と祐樹は言いたくなった。現に、ちょっと青ざめる。

なぜかと言えば、同級生と会うことが怖いから。
という、学生特有の悩みである。
普段からそれほど友人が多くない祐樹だが、文化祭の1間で大分知り合いは増えたのだ。
今まで祐樹と仲良くしたくても、近寄りがたくて出来なかったクラスの男子と大分話すようになったのである。

それにもし見つかれば、「お兄さん?」と聞かれるかもしれない。
それはそれで構わないが、西條が嫌がるかもしれない。

祐樹は今から別の所を提案しようとしたが。

西條が、バッティングセンターを楽しみにしててご機嫌。尚且つ、かっこよくバットを振り速球を打つ姿を想像して、祐樹は。


「…お、俺バッティングセンター初めてっす…」

惚れた弱み。
西條とバッティングセンターに行くことの方が天秤にかければ重たかったのだ。
今から楽しみで仕方なくて、わくわくしてくる。


西條は、ちょっとパワーウィンドウを下げながらいつもの煙草を銜えた。
100円ライターで火をつけ、肺にいつもの味を染み渡らせる。体の内側が、ニコチンタールで満たされた。
ちょっと落ち着いた心で、西條はまた横目でちらりと助手席を見る。

祐樹はどうやら届いたメールに返信しているらしく、一生懸命画面を見て、一般的な高校生よりゆっくりボタンを打っていた。
その様子を見て確認し、また視線をフロントガラスへと戻す。

何だかやっぱり、祐樹が助手席にいるというのは新鮮すぎて未だに信じられない。
しかもこれから、一緒に遊ぶのだ。
やっつけで誘ってみたことが、本当に実現するとは思わなかったので、西條はまた思い切り煙を肺に送り込む。



(天明寺に入ったら車線ややこしいから気をつけねぇとな…)


これ以上ダサい所を見られないように、と西條は頭の中にある天明寺の地図をひたすら思い出した。


時刻は午前10時。
真っ青な空が、相変わらず日光できらきら眩しく光っている。

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