きらきら若葉
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ようやく髪が乾き、祐樹は惜しみながらもドライヤーのスイッチをオフにした。
一気に部屋が静かになり、変な沈黙が流れる。
先ほど、何となく望月の開けた窓から流れた風の音だけが静かに響いた。

その静けさで、西條もようやく意識を覚醒させ望月のシャツを羽織ながら、


「…さんきゅ、よし帰るぞ」


小さく礼を言って、立ち上がりシャツのボタンを手早く閉め、財布とキーケースを持った。
西條のさりげない言葉と仕草に、祐樹はもじもじと足を揺らして喜ぶ。
従順に言うことを聞き、祐樹は立ち上がって望月にひとつ頭を下げた。

ひらひらと望月に手を振って、玄関へ向かう西條の後を三歩下がって着いて行く祐樹。
そのふわふわした後ろ頭を眺めながら、望月は口元を歪めてまたため息を吐く。


「…今度は俺ン家じゃなくって、どっちかの家でやれよ…」


甘い雰囲気に当てられるのはもう勘弁だ。
殺伐とした雰囲気よりは良いかもしれないが。

今度また機会があって、西條と飲むことになったら進展具合はどうか聞いてからかってやろう。
そう望月は適当に計画して、部屋の片付けを始めた。




一方その頃、望月の部屋から出て行った西條と祐樹は、ちょっと沈黙しながら駐車場へ着いた所であった。
ピー、と無機質な音が鳴ったと同時に鍵が開く。
祐樹は祖父の古い車くらいしか乗ったことが無いので、ちょっと感動した。

遠くからでも鍵が開くとは何て便利なことか。
と、お前は何歳だと周りから言われそうなことを思いながら。

そんな年寄り臭い祐樹の思考など知らずに、西條は自分の車へいつも通りの乗り込んだ。
祐樹も慌てて早足になりながらも、助手席へと乗り込む。
シートベルトをきちんと閉めて、ふと西條をチラリと見た。

手馴れた様子でエンジンをかけ、骨ばった手がギアを男らしくガコガコ、と音を立てて動かす。
そのさりげない運転の作業すら、祐樹は凝視してしまった。


何だか、西條の「近く」にいる気がして。

普段は、バイトの時間という狭い時間でしか会えない。
ましてや仕事中となれば業務内容も違う訳で、実質プライベートとして接しているのは業務が終わった後くらいだ。
しかし、最近は大分プライベートでも接している。

何だか距離が縮まった気がして、祐樹はちょっと鼻歌を小さく歌った。
エンジンの音と車内ラジオのおかげで、西條には聞こえないその歌。
祐樹が最大限に機嫌がいい時の現れである。

けれど、この時間も祐樹が家に着いたら終わり。
そう気づいた瞬間、鼻歌はふと止まってしまった。
足をちょっと不規則に動かしながら、ちらりと横にいる西條を見やる。
相変わらず、男前な横顔である。

意外に睫毛は長いし、鼻も高めで肌もまだ綺麗だ。
何て整った顔立ちなのだろう。
そう思うと祐樹は思い切りため息を吐いてしまった。
大前提に男同士という大きすぎる障害もあるが、自分と西條では釣り合わない・こんな男前に恋愛相手として見て貰える自信は無いというちまちました障害に気づいたから。

すると、西條はチラリと祐樹を見てから視線を戻し、


「何だ、…帰りたくねぇのか?」


祐樹のため息に疑問を感じたのか、質問した。
朝早く出てきて、十代後半の遊び盛りが知り合いの年上の家に行って帰ってきただけなのだ。
自分がその年頃ならばちょっと物足りないと感じるはずだと西條は踏んだのだ。

しかし、そうではない祐樹。
不思議に思って首を傾げて、西條を見つめる。
帰りたくない訳ではない。
しかし帰ってもする事と言えば、勉強かテレビを見るか土いじりくらいしかない。
それが、数少ない祐樹の娯楽である。

けれど、今は何となく。


「…そういう、訳じゃないっスけど…も、もうちょっと外出してたいなーなンて…」


もうちょっとだけ西條と一緒に居てみたい。
しかし迷惑かもしれない、と一瞬冷静になった祐樹は前言撤回をしようかどうか迷い始めた。

おかげで、西條の喉がゴクリと小さくなったのも気づかない。


「…じゃあ、どっか出かけるか」

俺も暇だし、と付け加えて西條はハンドルを浅見方向ではなく自宅へと向ける。
さすがにこの格好で出かけるのは良くないので、それも付け加えながら。

祐樹の目が丸くなる。
普段からつり目がちとはいえ丸めの瞳。
それがくりくりとより丸々になり、西條を何度も瞬きしながら映した。


「…!い、いいっスか!?そ、そうっすね、今日はお日柄も良いし?」


「ああ、どこでもいいが…っつーか何言ってンだお前、お日柄ってスピーチか」


祐樹のキョドり具合に不思議がりながらも、西條は上機嫌でハンドルをきる。
今まで、出かけたと言っても祐樹は後部座席で寝ていて、尚且つあれは祐樹の過去へのしがらみを解いてやりたかったからという外出と呼べないもの。

初めて、2人で1日どこかへ出かける…というよりはむしろ1日中一緒にいるということは今まで無いに等しい。


祐樹はあまりのことに、意識がショートしかけた。
どこに出かけるのだろう、西條の家ってどういうのだろう。とひたすら考えまくる。

その間に、距離が近かったのか西條の住んでいるアパートに着いた。
西條はエンジンを止めようと思ったが、たかが着替え。
それだけで上げてもただの無駄な労働力だ。


「なぁ、俺速攻で着替えてくっから待ってろ」

どうせ着替えだけなので、祐樹を残してアパートに戻ることにした。
祐樹はちょっと西條の生活している環境を見てみたかったが、特に逆らう要素も無いので「了解っす」と頷く。


西條が車を出て、ちょっと新し目の3階建てアパートに入っていったのを車の中で確認した後。


祐樹は震える手で、携帯の電話を連打した。

3コールで出た声は、いつもの幼馴染。


「よぉ、祐樹どうした?」

先ほど起きたばかりなのだろう、ちょっと眠たそうな声をしている。
祐樹はその声に縋る様な声を出した。


「ゆ、雄太…!どうしよう!出かけるならどこだ!?俺何したらいい!?」


頬に血液は一気に流れるし、手は痺れる様に震えるしで祐樹は一気にパニックに陥った。
まさか、西條と遊びに行けると思わなかったのだ。
ウブな祐樹がパニックになっても不思議ではない。

しかし、何一つ状況が伝えられていない雄太は、


「お、落ち着けよ!何があったンだ?ちゃんと落ち着いて話せ、な?」

慌てて祐樹を宥めさせる。
しばらく、祐樹の「ううぉあああ」とかよく分からない歓喜のような困惑のような呻きを聞きながら。

やっと落ち着いた祐樹は、ひとつ息を吐いて、


「…さっき、西條さんに会って…何か色々あって一緒に遊びに行くことになってさ…」


ダッシュボードをもじもじと指先で弄りながら伝えた。
すると、電話越しの幼馴染は一瞬息を呑んで驚きつつも、面白おかしくて思わずにやけながら、

「へぇー!すげぇじゃん、やったなぁ。そうだ、あそこ行けよ、最近開放してる結婚式用の教会…」

「アホかお前は!」

からかう一手を挙げたが、祐樹は驚きのスピードで拒否をした。
いきなりそんなところに誘って、ひかれる以外の選択肢が浮かばないのだ。
恐らく、ひかれることは無いにしろ、西條は物凄く思い悩みそうだが。

案の定の祐樹の反応に、雄太はケラケラ笑いながら「悪い悪い」と謝る。


「ま、西條さん大人だからリードしてくれるだろ?祐樹はちゃんと食べたいものとか言えばOKOK」

「そ、そっか…うん、そうだな…西條さんにお任せしよう」


あ、これ絶対祐樹は受身になるな。
と、雄太は直感したが敢えて何も言わず、頑張れよと告げた。親友の配慮である。

祐樹は「おう、」とちょっと男らしい返事をし、いきなり電話したことを詫びながら電源ボタンを押した。

ふう、とひとつ息を吐く。
誰かに話して少しは落ち着けたのだ。それでも、心と繋がる心臓ははしゃいで鼓動を早め続けた。


車のフロントガラスを見れば、アパートから私服に着替えた西條が軽い小走りで来るのが見える。

スラっとした西條によく似合うキレイ目の服。
相変わらずセンスもあって羨ましい、と自分の着てきた服をちらりと見た。
因みに、祐樹の服は大体祖母が選んでくるもの。
新しいジャケットで来れば良かったかな、と祐樹は思いながらも、運転席に西條が乗ってきたので「まぁいいかな」と忘れた。


「よし、…どこ行くか」


さて、一緒にどこに行こうか。
今日という日を最高にするかのように、キレイな青空は太陽の光できらきらと光っていた。

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