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 「おい、朔哉。…うちのバイトに手を出すンじゃねぇよ」

この変態教師が、と地響きのような声で警告する。
と、同時に思い切り体重を乗せた足を、望月のふくらはぎに乗せた。

案の定、筋肉が潰される様な痛みに、望月は驚いて横に逃げる。
実質的に祐樹の上からどけた。

軽く舌打ちをして、痛みに悶える望月を睨みつけながら「シャツ貸せ」と命令。
望月は、多少怒られても仕方ないことをしたとは言え、長年の付き合いのある幼馴染から暴力を受ければ、

「お前…!早ぇよ風呂が!つーか俺の脚を踏むンじゃねぇ!」

多少なりとも怒る。
とは言え、これ以上逆らうのは面倒なので渋々シャツの入ったタンスへと向かった。
プラス、これ以上西條の半裸(下着とスラックスは着ている)は見ても楽しくないからである。
いくら自分と同じ体格とは言えども、西條の方が綺麗な筋肉が付いているのでちょっと妬ましかったりする。

そんなことは露知らず、西條は「後で洗って返す」と意外にも律儀なことを告げて、タオルで髪を拭きながらその場に腰を下ろした。

適当にタオルドライをするも、ここ最近少し髪が伸びてきたので簡単には乾かない。
早く祐樹を連れて行きたいので、西條は何度も髪の水分を抜こうとタオルを当てたり挟んだりした。

いつまでも、祐樹を望月の家に置いておく訳にはいかないのだ。
現に、先ほど西條から見れば押し倒されていたのだから。
嫉妬で腸が煮えくり返りそうになってしまう。

ぐるぐる考えていると、ふと背後に何か気配を感じた。
どうせ朔哉だろう、と西條は勝手に思い、特に気にせずタオルドライを続ける。
が、そのタオルがぐいぐいと別の誰かによって引っ張られた。

「何すンだよ」

西條は望月と仮定しているので、不機嫌極まり無い声をあげた。
いきなりタオルを引っ張るとは地味な嫌がらせだと思ったのだ。
しかし、


「あ、その、すんません…けど、ドライヤーの方が早いかと思って…」

返ってきたのは幼馴染の男らしい低い声ではなく、青少年のちょっと焦った高いような低いような声。
「ほら、これ借りました」と声を続け、西條の前に望月が以前懸賞で何故か当たってしまったドライヤーを差し出す。

その手を辿って、西條が振り向けば背中側に祐樹がちょこんと座っていた。

「…あぁ、そうだな」

直に床に座る祐樹が、何だか可愛らしく思えて西條はとっさに目を逸らしてしまう。
たかが、どこの男子高校生でもする胡坐がなぜ祐樹がすると可愛らしく思えるのだろう。
それが恋の病とは知っているものの、西條は何だかプライド的に認めたくなくて、ドライヤーをさっさと受け取ろうとした。

しかし、そのドライヤーを軽くぐいぐい引かれる。
まるで猫と遊んでいるかのようで、西條は首を傾げた。

また振り返れば、祐樹は何度か床と西條を交互に見やりながら、


「…お、俺ドライヤーとか使ったこと無いンで…使ってみてぇな〜…なんて…」

ちょっともじもじしながら不思議な提案をしてきた。
本音では、もちろん西條の髪に触れてみたいというちょっとした下心があるのだが。
そして、もちろん西條がこの案を断る訳が無い。

以前だったら「別にいい、お前髪抜きそうだし」とからかって軽く拒否したのに。


「…俺は実験台かよ…まぁ、いいけど」

今ではちょっと照れ隠ししながらも安易に許諾。
ドライヤーから手を話して、西條は肩の力を抜いた。
乾かしやすいように少し頭を下げながら。

ちょっと見えた西條のうなじに、ちょっとドキドキしながら祐樹はドライヤーのスイッチを入れた。
熱くないように、熱くないようにと距離を近づけたり離したりしながら温風を当てる。

時折、濡れて柔らかくなった髪を指で梳きながら優しく乾かしていった。

あまりの心地よさに、西條はうとうとと船をこぎ始める。
人に髪を乾かしてもらうことなどほとんど無かったのだ。ましてや、祐樹に触れられているという状態。
緊張はするも、今はそれ以上に安心できる。

対する祐樹も、西條の髪が柔らかくてシャンプーの匂いが漂うおかげで、胸の中からこみ上げるものがある。
髪が乾いてきて、段々といつもの髪の癖が出てきたのを少し惜しく思うも、うたた寝し始める西條が何だか可愛くて、祐樹は上機嫌に微笑んだ。

そんな緩やかすぎる午前の日を浴びた2人。
…を、少し遠くで見る望月は首をコキコキと鳴らしながら、ため息を吐いた。

西條も、祐樹も幸せそうにしているのは問題は無い。
むしろ最近の状況から言って、とても嬉しいことだ。
しかし目の前で知り合いの(しかも男同士)甘酸っぱいほのぼのした状況を見ていてもやるせない。


(本当、まぁ…岡崎くんにこにこして…)


あんな顔もするンだな、と望月はまたため息を吐いた。

その出した息を吸いながら、望月は壁に頭を付ける。
ぼんやりとドライヤーの音を聞きながら、窓の外を見つめた。
最近の雨模様は嘘のようにすっかり無くなり、雲ひとつ無い青空が続いている。

今日、学校に行く必要は無いが、なんとなく浅見まで行って知ってる顔を見ようかなとぼんやり望月は思った。


それはあまりにも空が綺麗で、そして目の前にいる幼馴染が幸せそうにしていたから。

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