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愕然とする望月をよそに、西條はさりげなく祐樹の隣に座って、ちらちらと彼を見つめた。
まだ覚醒して間もないので、ぼんやりしているためか未だに祐樹が何故ここにいるのかもよく分かっていない。

それでもやっぱり髪はふわふわで気持ち良さそうだとか、可愛いなだとか早速恋愛特有の病気にかかっている。

それは祐樹も同じで、西條の隣に座っているというだけでとてつもなく緊張していた。
もじもじと両手を擦り合わせながら、ちらちらと西條を見やる。
時たま目が合えば、心臓は跳ねて視線はまた足元へと泳いだ。

以前までは特に気にもせずに見れたのに、傍に居ても気にしなかったのに、とお互いに自分の照れくささ具合に軽く呆れた。


徐々に西條ははっきりと目が覚めてくる。
やっと、祐樹がなぜここに居るのか疑問に思った。


「…おい、お前なんでここに居るンだ?」


寝起きなので大分低い声で聞いてしまい、祐樹は驚いて身をびくりと跳ねさせる。
ビビらせるなよ、と傍で見ていた望月はまたもや西條に呆れた。しかし、当の西條はそれよりも祐樹が何故望月の家に訪れたのか気になって仕方ない。
もしや、望月のことを気に入って此方に通うようになってしまったのではないかと嫌な予感がしたのだ。
自分のアパートになど1度も呼んだことは無いが、とてつもなくイライラする。

だが、祐樹は望月のことを別に気に入ってなど居ない。むしろなるべく避けたい人物である。

なので、


「あの、前にビデオカメラ借りて…それ返しに来たら上がってって言われたから…」


持っていたちょっと古い形のビデオカメラを証拠物件かのように見せた。
それを見て、安心したのか西條はほっと息を小さく吐きながら「ふーん」と返事する。
なんとなくそのビデオカメラを見てみようと、西條は手を伸ばしてそれを受け取ろうとした。

その動作に気づいた祐樹も、それを差し出そうと手を伸ばした。そのとき、案の定。


小さく2人の手が触れた。
西條の骨ばった男らしい指と、祐樹のスラリと伸びた青少年特有の綺麗な指が、ちょっとだけ。


祐樹の心拍数がどっと上がる。
先ほど触れるどころか抱きしめられたというのに、この程度の触れ合いでもひどく緊張するのだ。
それは西條も同じで。
祐樹の暖かい手に心拍数は上がる。しかし、本命には少々奥手とは言え25年生きた大人。
それを気取られないように自然にビデオカメラを受け取った。

それでも見る人が見れば、お互いに意識しっぱなしなことはバレバレなのだが。


(…っンとに何なんだこの甘酸っぱい雰囲気は…)


見ているこちらが砂を吐いてしまいそうな異常さに、望月はちょっとストレスが溜まり煙草に手を出した。
静かに胡坐をかき、小さく煙を吐き出した。
部屋の中でゆらゆらと煙がたゆたう。

しかし、煙草の匂いと未だ残る酒臭さが混ざって気持ちが悪い。
祐樹は思わず眉を顰めてしまった。
煙草は自分も時たま吸うし、酒の匂いも祖父の焼酎で多少慣れている。しかし混ざると気持ちが悪い。

そンな些細な表情に西條は気づいたのか、祐樹をこの部屋から連れ出して帰るか、と内心取り決める。
ビデオカメラを返した以上、この部屋にいる意味が無いし、望月と祐樹を近づけさせたくない。

だが、西條はようやく気づく。
自分がまだ風呂に入っていないうえに、思いっきり酒と煙草の匂いが染み付いていることを。

さりげなく自分の腕周辺の匂いを確認すると、案の定汗臭いし酒臭いし煙草臭い。最悪極まりない。


(俺は何つー状態で岡崎の隣に居たンだよ…!)


せめて風呂に入ってからじゃないと、車で2人のときに「何か臭いな」と思われかねない。
それは最悪だろう、と西條は焦る。慌てて立ち上がっり、望月に詰め寄った。


「おい、風呂貸せ、風呂」

あまりに詰め寄る西條に並々ならぬ恐怖を感じて、望月は「ああ、わかったから!貸すから!」と逃げるようにしてタオルを取りに行った。

いきなり西條が立ち上がって行ったので、祐樹は目を丸くしたまま呆然。
西條は1分1秒も惜しいのか、その場で上着を脱ぎながら脱衣所へと向かおうとする。

初めて見た西條の半裸に、祐樹は思わず釘付けになった。男の肌など1ミリも興味が無いはずなのに、なぜか質感やら綺麗に筋肉の付いた男らしい背中から目が離せない。

以前、西條が風邪を引いて着替えさせたときは祐樹が風呂に入っていた間に祖母がしていたので見たことが無いのだ。
そのうえ、別にバイトと社員が肌を見せる機会など1秒も無い。祖母に先を越されたのだと思うと、何だかちょっと空しくなった。


「おい、岡崎」

何だか久々に岡崎と呼ばれて、祐樹はびくりと肩を揺らしながら「はい!?」と声を裏返させて返事をする。西條はそのキョドリ具合を不思議に思いながらも、望月から投げて寄越されたタオルを受け取り、


「俺が風呂上がったら帰るぞ」

送ってやるから待ってろ、と命令。
惚れていても、早々簡単に認識は変わらないのだ。
気づけば以前と同様な会話である。

それに祐樹は「あざぁっす」とぺこりと一礼。
祐樹の了承を確認した西條は一度頷いて、脱衣所へと消えて行った。


しばらくして聞こえるシャワーの音を聞きながら、祐樹は残された部屋で望月と共に沈黙する。

特に話すことも無いので、どうしようかと祐樹は何となくその辺りに目線を泳がせた。
以前来たときより多少散らかっているが、相変わらず教科書や書類など仕事関係のものが目に付く部屋。
暇だし、勉強のことでも聞いておくかと祐樹はもう一度望月に視線を戻した。

が、やっと気づく。
相手が何やらニヤニヤしている事実に。


「…あの、望月先生?」

いつもは先生という感じの爽やかな笑みなのに、今は意地悪を考える子どものような表情をする望月に、恐る恐る祐樹は問う。
すれば、望月は益々その笑みを浮かべて、




「なぁ、前にも聞いたけどさ。岡崎くんって、瑞樹に惚れてるだろ?」



祐樹の図星を思いっきり抉りまくった。
いきなりの突撃質問に、祐樹は一瞬意識を飛ばす。
直後、バレているという事実に祐樹は奇声を上げた。


「ななななな!?なにをっ仰いますカっ、餅つきじゃなかった望月先生!」


顔を真っ赤にして、ばたばたと暴れまくる祐樹。
先ほどから西條が関われば頬を染めるまるでウブな反応に、望月は腹を抱えて大爆笑した。


「ぎゃーはっはっは!!ちょ、マジおもしれー!何その反応?なぁなぁ、どこに惚れた?抱きたい?抱かれたい?」


しかも失礼なことをほざきまくりで。
祐樹は一言一句ちゃんと聞くが、ちゃんと理解出来たのは「どこに惚れた」の部分だけ。
抱くとか抱かれるの意味を分かる程経験が無いのだ。

とりあえず祐樹はその言葉を置いておき、勢いよく望月に詰め寄った。
苦手だが、この際関係無い。


「違う!そういうんじゃなくて!」

必死に否定をする。
なぜなら相手は西條の一番身近な人物。
下手に暴露されて、西條に変な目で見られるもしくは嫌われることは絶対に避けたいのだ。

西條が自分を中條のような性癖を持たない人物だと認識していても、中條のような性癖を受け入れている訳ではない。
祐樹は西條を抱きたい訳では無いのだが。

しかし、祐樹がいくら否定しても大人の望月に敵う訳が無い。
あっさりとその否定を「顔真っ赤にしてオロオロしてるヤツは否定できねぇよー」とあっさり翻されてしまった。
言葉を詰まらせる祐樹。

ここで、昨晩西條が望月に打ち明けた祐樹への思いを言えばきっと良い方向には行くのだろう。
この2人の認識の仕方がよければ、なのだが。
しかし、それを取っても望月は何だか言う気が失せてしまった。


(俺があっさり言うよりも、2人で何とかする方がいいだろ。面白いし)


そう言った理由からで、望月は西條が祐樹を好きなことを黙ることに決めた。
だが、祐樹をからかうことは止めない。
またもやニヤニヤ笑いながら、


「今から浴室行ってきていいぞ?西條さんお背中流しますっつっていけばいいンじゃねぇ?」


冷やかしまくった。
すると、いい加減イラつきが頂点に達したのか、祐樹はがぁっと勢いよく望月に飛び掛る。
祐樹は、恋愛関係でからかわれるのは苦手なのだ。というか慣れていない。

さすがの望月も殴られる、と思い何とか防御に出ようと自分も祐樹を押し返した。
が、祐樹は殴る気など0で。


「あ、」

「う、うわっ!?」


おかげで望月は思いっきり祐樹を押し倒した形になる。
対する祐樹は、ただ単に望月のうるさい口を両手で塞ごうとしていただけなので、何だか無理矢理キスを迫られて拒んでいるような体勢になってしまった。


こんな状態、瑞樹に見られたらやべぇなぁ、と望月はぼんやり思いながら、その西條がひたすら想っている祐樹の顔をまじまじと観察してみる。


(まぁ…例え男でも…惚れても文句は言わないな、)


幼馴染の惚れた相手が、望月から見てお似合いなのでほっと安堵の息を漏らす。
なんだかんだ、やっぱり西條のことを気にしてはいるのだ。


しかし、望月は気づかなかった。


自分の背後に、鬼のような形相を浮かべてイライラしているその幼馴染が仁王立ちしていることを。

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