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1つの布団に2人で寄り添って眠るなんてことは、以前に一度あったことだった。
そのときは、何かも分からぬうちにキスをして、何でするんだと問えばお互いに「分からない」と濁った逃げを選んだ気がする。

と、パンクした脳内でも冷静に祐樹は過去を思い出していた。いや、むしろ一周回って混乱。


今、祐樹は少し酒臭い西條に思いっきり抱きしめられていた。

さっきまでじろじろと寝顔を見ていたはずなのに、と一瞬の出来事がまだ理解出来ていない祐樹。
身動きも出来ず、カチコチに身体を固めた。
必死にぐるぐるとこの状況を分析する、が。


(えーと、俺が見てたらいきなりこれで?これってなに?え?なに!?)

西條の体温、寝息、自分を抱きしめる力、匂い。
あまりのことに、祐樹の脳内はオーバーヒートしていた。
ひぃぃ…と小さな悲鳴を上げながらじんわりと涙を浮かべて、耳まで顔を真っ赤にさせる。
想い人に抱きしめられて、嬉しいやら恥ずかしいやら怖いやらで泣きそうなのだ。

それに更に追い討ちをかけるかのように、熟睡した西條はふと顎の下にふわふわしたものに気づいたのか、無意識に祐樹の頭に顔を埋めた。
ゆるゆると顔を動かし、縋るようにより抱きしめる。

祐樹の心臓がきゅううと締め付けられる。
もう何を考えたらいいかわからず、思考は真っ白になった。離れることも忘れ、ただ西條の寝息を聞き、その体温に包まれる。





「…あれ?岡崎くん?」

その頃、祐樹が西條に抱きしめられているなど微塵も知らないこの部屋の主がやっと風呂から上がってきた。
さっぱりした顔つきで、濡れた髪をタオルでわしゃわしゃと乾かしながら、部屋に入ったはずの祐樹を探す。
西條といい祐樹といい、この狭い部屋で何故消えるんだ、と呆れながら。

ふと、西條が丸まって寝ている布団を見下ろす。
すれば、何やら眠っているのは西條だけではないことに気づいた。あまりにも不自然な大きさだから。
2人分の布団の盛り上がりに、もしやと感じて望月は恐る恐る布団を捲った。
そこで見た光景は、何とも微笑ましいような、不思議な状態。


「…えーと、これは岡崎君が大胆なのか、瑞樹ががっついてるのか…どっちだ?」


いつのまにか抱き合って横になっている2人に、望月の口の端が引きつる。
祐樹は望月の声でやっと正気を取り戻したのか、わたわたと暴れながら、必死に弁解を始めた。


「こ、これはっ…!俺が西條さん見てたら、西條さんがいきなり寝ぼけてっ…!」


そういえば瑞樹は寒がりだったな…と望月はこの状況に納得する。寝ぼけて祐樹を湯たんぽ代わりにしたのだろう。
しかし、不思議なのはそこだけではなく、西條から離れようとする祐樹の表情だ。

困ったように眉尻を下げながらも、顔は真っ赤で、少し泣きそう。
離れようとしつつも、あまりにも力が強くて抜けられないのか、それとも触れる体温に力が抜けてしまっているのか、全然身体を離せていない。


「助けてくれ」とか細い声で祐樹が救いを求めたので、望月はとりあえず熟睡する西條の頭を思い切り叩いた。


「…っ、痛ぇな…!」


重い瞼を必死に上げながら、西條は目覚める。
叩かれた頭を擦りながら祐樹に気づかないのか、思いっきり起き上がった。
おかげでころころと祐樹は床に転がっていった。
その面白い状態に、望月はちょっと笑う。
しかし、起こされた西條はとてつもなく不機嫌な顔をしていた。


「朔哉…テメーなに叩いて起こしてンだよ…お袋みてぇな起こし方しやがって」


「ああ、懐かしいなー。お前の母親の起こし方、叩くか蹴っ飛ばすだったからな…」


今亡き西條の母親を思い出して、望月はなぜか懐かしみだす。おっとりしているように思える優しい人だったが、西條の母である瑞穂は実は物凄い暴力的な一面もあったのだ。
西條が寝坊していれば、叩いたり蹴ったりして起こす。もしくは耳元でフライパンをお玉でガンガンに叩くほどだ。
恐らく、西條の性格は母親譲り。

だが、今はそんな懐かしいことを思い出している場合ではない。


「…岡崎くんが苦しそうだったからな、俺の優しさの暴力だ」


「は?岡崎…?お前何言ってンだよ…居るわけねぇだろ…」


まだしょぼしょぼする目を擦りながら、西條はゆっくりと立ち上がる。
風呂借りるぞ、と言いながらそちらへ方向転換した瞬間、足に何か当たった。
不思議に思って見下ろせばそこには、居るはずの無い人物が。

西條は呆然として座り込んでいる祐樹を見つめる。
祐樹も同じようにぽかんと口をあけて、西條を見上げていた。

2人の間に、変な空気が流れる。


蚊帳の外な望月はそれを眺めて、何気なく内心西條にエールを送っていた。
挨拶とかしろよ、ここになんで居るんだって聞けよ!と、エールというか命令を。


…だが、西條と祐樹はそこまで器用ではなかった。


西條は目を数回泳がせながら、「蹴って悪かった」と謝る。今、この状況でなぜそこを謝るのか訳が分からない。ついでに頬がちょっと赤い。
対する祐樹も、おろおろと目を泳がせ尚且つ手を宙に迷わせながら「いや、大丈夫っす…」とその意味不明な謝罪を素直に受け取った。西條と同様どころかそれ以上に頬を赤くさせながら。

そして沈黙。

お互いに、とてつもなく照れているのだ。
久々に会って、尚且つ好きだとやっと気づいた後だから。


望月の口の端が、今日一番に引きつった。



「…お前らはっ…中学生か!?」


覚えたての恋愛をしている甘酸っぱい青少年ですか!?と望月は内心叫ぶ。
もう明らかに、祐樹も西條のことが好きであることがモロにバレているのだ。もちろん、望月も気づいた。
しかし、残念ながらお互いには気づかない。

しかも、望月の謎なツッコミに2人とも首を傾げて、


「何寝ぼけてンだ朔哉」

「中学生?」


望月を冷ややかな目で見る。
ちょっとカチンと来た望月は、この鈍くてウブでお互いに初恋みたいなことをしている淡い2人の協力を心から「したくない」と落ち込んだ。


前途多難すぎる恋愛など、興味はあるが巻き込まれたくないのだ。


そんな悩む望月などに気づかない当の2人は、お互いにまた目があって、ちょっと慌てて逸らしたとか。

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