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一方その頃、西條はと言えば。

相変わらずテキパキと仕事に取り掛かり、いつもの営業スマイルで常連さんを和やかに迎えていた。
仕事と私情は線引きするのが大人である。
祐樹のことなど1つも考えずに、いつものようにレジを打ったり在庫状況を確認したり。

すると、そろそろ休憩時間なことに気づく。
愛用している腕時計を見ながら、店長に「昼休憩取ります」と告げて事務室に向かった。


いつもの業務、いつもの時間。

なのだが。

事務室に入った瞬間、仕事モードから休憩モードに切り替えたためか。
なんとなく早足でロッカーから自分の荷物を取り、机の上に置いてある今月のシフト表を引っつかんだ。


(…シフト被るのは明後日か…くそっ、何で中條ばっか入ってンだよ…岡崎を入れろ岡崎を)


軽く舌打ちをして、新人だからという理由で沢山のシフトを希望した中條とそれを軽く許諾した店長をちょっと恨む。
元々、店員とバイトの関係なのだ。
いくら特別に想っていても、まだそれ以上も以下でも無い。
つまり、今の接点は祐樹がバイトの時間のみ。

昨日のように休みでも、祖父の見舞いに行けば会えるのだけれども、それをダシにして祐樹に会うというのは何だか気がひける。素直に見舞いに行きたいが。


ふと、西條はなんとなく昨日の夜のことを思い出す。
袖口に顔を埋めてはにかんだ笑顔を浮かべる祐樹。
つまんだ頬は柔らかくて、自分を見上げる瞳はくりくりしていた。

思わず頬が緩む。
今まで、確かに綺麗めな顔立ちはしていると常々思っていたが、今はころころ変わる表情や笑顔が可愛くて仕方が無い。


早く会いてぇな、とぼんやり思いながら携帯を開いた。望月のメールアドレスを選択し、色々と聞きたいことがあるので「今日 お前ン家行く」とだけ打って送った。

…そう、あの雨の日。
祐樹を霊園まで送ってきたのは望月なのである。
一体いつどこでそこまで親しくなったのか突き止めなければならない。


(朔哉にだけはぜってぇ捕られて堪るか…!)


幼い頃から親友且つライバルな望月。
彼にだけは絶対に祐樹と親しくさせてはいけないのだ、西條の中では。
豊かな想像力が、勝手に望月と祐樹のラブラブな映像を映し出し始める。

確かに、望月の草食系で優しそうな男前と祐樹の小動物的な感じを並べさせるとお似合いである。
逆に、西條と祐樹を並べると。



(…俺、捕食者じゃねぇ?)



がく、と西條は思わず項垂れてしまった。
身長差は確かに大分あるけれど、望月も祐樹とは大分身長差はある。
しかし問題は顔つきと性格だ。
西條は自覚しているのだが、まず性格そして対応。
昔からジャイアニズム丸出しな俺様だとよく言われ、尚且つ結構それを祐樹にぶつけてきた気がする。
叩いたり、プロレス技をかけたり…今思えば自分は凄いことをしてきたものだと西條は自分自身に呆れた。

そして、容姿。
西條はひよりが置いていった手鏡を引っつかみ、開いて自分を映す。


(…目つき悪、)


生まれつきなのでどうしようもないが、西條は実はこの自分の顔があまり好きではなかった。
幼い頃から、美少年系な望月を見てきたためだろう。
不細工と認識しているというわけではないが、そちらの方が美しいのだという美意識が培われてしまっているのだ。

だからこそ、望月が祐樹に近づくのは気に食わない。


すると、望月からの返信メールが来たのか携帯のランプが光る。
以前飲んだとき、彼女は居ないらしいのでどうせOKなのだろうと確信を持ちながら携帯を開いた。
案の定、「了解」の2文字。
西條は心の中で「了解」と返事をして携帯を閉じた。


…ふと、冷静になって思う。


(…朔哉がどうとかっつーより…別に岡崎は俺のモンじゃねぇしな…)


一緒に居たいと、言ってはくれたがそれは「居る」というだけで西條だけの祐樹で居てくれるわけではないのだ。ましてや、好きだとかそういった応対は全くもってしていない。

…応対していない上に、気づいていない時点でキスを2回もしてしまったのだが。
あの柔らかく小さい唇を思い出し、西條はまた頬が緩んでしまう。あのときの俺はすげぇな、と自画自賛ある意味自分に呆れながら。


そもそも、男同士で自分は祐樹より8つも年上。
四捨五入すれば三十路の野郎を、好きになったりする可能性などほぼ0に等しいだろう、と西條はちょっと絶望的になる。


はぁ、と溜息を吐きながら、朝コンビニで適当に買ってきた弁当をあけた。
添加物丸出しの味に慣れてはいるもののやっぱりどこか物足りない。
ぼんやりと以前祐樹が作ってきてくれた手作り弁当を思い出しながら、もそもそとぬるい白米を食べる。


(岡崎がまた作ってきたら最高だな…。…俺はどんだけアイツのこと考えてンだよ?)


焦りながら自分に弁当を渡した祐樹を思い出す。
必死に自分のために作ってきてくれた健気な行動を思い返して、西條は自分の心の中の発言を撤回した。


(仕方ねぇ、惚れたもんは)



いくら可能性が(西條が思っている分には)絶望的とはいえ、仕方ないのだ。
西條は昼飯を食べながら、また仕事モードに切り替え、残った書類を点検及び修正することに専念し始めた。

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