< ! > 女装前哨戦。







拒否される事を前提にしてると話が早い、という事に気が付いた。
それなら精神的打撃も最小限で済むし、これは良い発見をしたと気分は良いが、
だが拒否された事実に変わりは無い。
しかしなにせ拒まれると見込んでの発言なので、
大人しく引き下がってやるつもりも毛頭無かった。


「良いだろ、ちょっとぐらい」

「ちょっとなら良いとかじゃない」

「そりゃあ恭弥はいつも可愛いけどな」


黒の革張りのソファから風紀委員長雲雀恭弥の冷え切った視線が投げられている。
俺は来客用のソファで教員の名札を下げたまま、それに負けじと熱い視線を返す。


「セーラー服の恭弥はもっと可愛いと思うんだよ」

「僕は僕が可愛くてもなんの得もしないから却下」


机の上で紙を一枚遊ばせてから、恭弥はそれを真っ二つに引き裂く。
びり、と高い音を立てて、なにかの資料と思しきプリントは大ダメージを喰らって、ひらりと床に放り投げられた。


「俺が元気になったら恭弥も嬉しいだろ、ほら、超お得」

「嬉しくない、うるさくなるだけ、むしろ損」

「なーぁー、慣れない激務で疲れた俺を癒して欲しいなぁ…」

「やだ」


相変わらず恭弥は取り付く島も無い、
だが島が無いならこちらの船に引きずり込むまでだ。
俺はこの子と出会ってから、幾分たくましくなったと思う。


「じゃあさ、」


最早視線さえ返してこない恭弥に構わず続ける。
わざと音を立ててソファから立ち、歩み寄った。


「来週の期末テストの英語で、俺が100点取ったら着て」

「ねぇあなた2-Aの日誌知らない、無いんだけど」

「…せめて突っ込んでくれよ」


机に無造作に置かれた学ランに埋もれていた日誌を見つけて、
平然と事務作業に戻ろうとする恭弥の手から黒い日誌を奪い取ってやる。


「なにするの邪魔しないで」

「じゃあ、俺が授業持ってる2-Aの生徒で満点が出たら着てくれる?」


今回の学期末テストは生徒たちからも厳しいと噂の英語主任が、1年分の膨大な範囲から問題を作る。
満点を取るのは至難の業だ。
なぁなぁと詰め寄ると、恭弥はとてつもなく面倒臭そうな顔をする、
こうなったらもうイエスと頷くのは時間の問題で(それはもう、嫌々、渋々と言った顔だが)、
案の定、溜息を吐くと投げやりに、わかったよ、と言った。


「その代わり」

「ん?」


主任がまだテストを作ってすらいないのに早くも浮かれる俺に、恭弥が良く通る声で言う。


「誰も満点が出なかったら?」

「あー、じゃあそん時はお前の言う事聞いてやるよ。なんだ、バトる?」

「ううん。あなたが着てよ、セーラー服」

「…は?」


にこり、やたら綺麗に笑った恭弥は停止した俺の手から日誌を奪い返す。
その表紙裏の30名程の名簿に目を通して、ふーん、とだけ言って、
書類タワーの頂上に興味無さげに積み上げた。

来週末、3限目、英語。
ぶっちゃけなんの関係も無い2年A組を巻き込み、
俺と恭弥のセーラー服戦争が幕を開けた。



 T H E   J I H A D   O F   S A I L O R          









「勝ったぜ」「勝ったよ」










120222.



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