< ! > 女装注意、ディーノ編。







例えどんなくだらない事でも、
約束したのならそれは果たさねばなるまい。
例え賭けに負けた方がセーラー服を着る、などという、
馬鹿馬鹿しいを極めた様な約束でも。


「すーすーする…」

「スカートだからね」


白いセーラー服を着ているのは恭弥じゃなくて俺だ。
2年A組の生徒たちは全力で答案用紙に向かってくれたが、
(もちろん俺の為では無く、各人の成績の為である)、
残念な事に、学期末の総復習で100点の栄冠を掴み取る者は居なかった。
答案の返却された週明けの月曜日、
校則よりもこの学校の秩序たる風紀委員長は、当然この結果を仕入れていた。
自ら英語科職員室に乗り込んできた恭弥に攫われて、
もちろん他の教員たちが彼に文句を言えるはずも無く、
草壁を経由して連絡を受けたロマーリオが俺たちをホテルまで運んでいって、今に至る。


「なかなか似合ってるよ」


ふふん、と勝負に勝った恭弥はご機嫌だ。
ご機嫌な恭弥は可愛いし、仏頂面で無い彼は珍しいのでちょっと嬉しい、
だが自分の格好を思い出してそれどころじゃなくなる。
女子学生の象徴とも言える衣装を実際に身に纏った今となっては、
こんな恥ずかしい格好を俺は最愛の人に要求していたのかと情けなくもなる。
真っ白いワンピース型のセーラー服はロマーリオがどこからともなく持ってきた。
宴会の余興にでも使えるだろうと誰かが置いていったもののようだ
ばっちり男女兼用のそれを置いていった犯人を内心で呪う。
いつも良くやってくれる部下ばかりだが、こんなジョークは要らない。


「…もう脱いで良いですかね」

「良いわけ無いだろ」


ぴしゃりと切り捨てて、恭弥が近寄ってくる。
そして腰に腕を回されて、もう状況はどんどん混沌としていく。


「えーっとあの、恭弥?」

「…こんなに狼狽えてるあなたって、悪くないね」


可愛い、と囁かれて頬にキスされた。


「…恭弥さん?」

「なぁにディーノさん」


言いながら、目一杯つま先で立った恭弥が頬に擦り寄ってくる。
なんだったら今すぐにでも襲ってやりたいくらい可愛いやりようだが、
その恭弥が俺を可愛い可愛いと言っているのだ。


「ディーノ、可愛いよ」

「どうした、恭弥」

「どうもしてないよ」

「酔ってる、とか」

「そんなわけ無いだろ」


素面の恭弥はなんでか史上最強に積極的だった。
こんなに喜ばしい事はないが、さっきから俺はセーラー服である。


「僕だって健全な男子中学生って事だよ」

「健全な男子中学生は成人男性の女装に興奮したりしねぇぞ」

「誰のせいだと思ってるの?」


そろそろつま先がしんどいらしい恭弥に、とうとうベッドに押し倒された。


「あなたを好きにさせたあなたが悪い」

「好きになったのはお前だろ」

「それから勝負に負けたあなたが悪い」

「そりゃあまぁそうだけどさ」


物理的な距離が一気に縮まって、キスの頻度も格段に増える。
唇の角度と場所を何度も変えながら、
身体をまさぐられて変な汗が出た。


「待て待て待て」

「なに」

「いやいやいや」

「いつもあなた、こんな感じじゃないか」


そう言われると返す言葉も無い、
いやでもこれはおかしい。
なんとしてでも阻止せねばともがくが、
乗り上げる恭弥に大人しくして、と牽制されれば途端に動けなくなる。
己の貞操の危機を覚えつつも、この子の言葉ならばついそれを受諾してしまう。
なにせこの子にぞっこんに惚れているのだ。


「残念だったね、満点出なくて」

「あの問題は難しかったよ、俺でもちょっと苦戦しそうだ」

「やっぱりへなちょこって事だ」

「そうかも知んねぇけど、いやでもそれとこれとは別だろ」


裾を捲って恭弥の細い手が侵入してくる。
必然的に下半身が露わになって居たたまれなくなった。
背中の熱を冷えた手に奪われて、身を捩る。


「ねぇ聞いて、僕英語のテスト満点だったよ」

「え、嘘だろ」

「嘘じゃないよ。ねぇ、ご褒美になにくれる?」


額と額とをこつりと触れ合わせて、目と鼻の先で恭弥が微笑む。
あんまりにも綺麗で、一瞬言葉を無くしてしまった。


「…なにが欲しい?」

「あなたが欲しい」


一層綺麗に笑った恭弥が、セーラー襟から紺色のスカーフを引き抜く。
そのままそれで目隠しされて、視界が紺一色に塗り潰された。


「ちょっとおい、」

「暴れるなら手錠も掛けるよ」

「お前なぁ…」


すぐ近くで声がして、そのまま耳元にキスされる。
リップノイズ混じりに可愛い、と囁かれてもうどうしようもない。
珍しくいけいけな恋人に、もう好きにさせてやろう。
大人しく抵抗を止めたら唇を食まれた。
長い長い口付けの後、恭弥はまた、可愛い、と頬を擦り寄せた。




 (`へ´) < 勝 っ た よ         









120222.



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