< ! > 女装注意、雲雀編。







例えどんなくだらない事でも、
約束したのならそれは果たさねばなるまい。
例え賭けに負けた方がセーラー服を着る、などという、
馬鹿馬鹿しいを極めた様な約束でも。


「脱いで良い、」

「今着たばっかりだろ」


可愛い恭弥可愛い、とさっきからそれしか言わない締まりの無い顔のあなたを、
今すぐ地の底に叩き落としてやりたいくらいには屈辱だった。
ディーノが教鞭を取る2年A組の生徒たちに、
僕らの運命を分かつ英語の試験がやってきた。
今回のテストを作る事になったのは英語科主任の教師で、
ただでさえ難易度の高い問題を作る彼の1年間の総復習を満点で通過出来る者が居るはずが無いと高を括っていた。
しかしだ。答案の返却された週明けの月曜日、
草壁に2-Aの答案結果を聞きに使いに出させたら、
なんと満点がふたりも居たと言うではないか。
草壁の情報が間違っているとも考え難く、
そして放課後、応接室に乗り込んできた見るからにご機嫌なディーノがすべてを物語っていた。
校門で待ち受けていた赤い外車に拉致されていつものホテルまで攫われていって、今に至る。
自らこんな要求をしてくるくらいだったので、
ばっちり僕の背丈に合う真っ黒いセーラー服をあなたは用意していた。


「なぁなぁなぁ、俺頑張ったと思わねぇ?」

「別に。あなたが100点を取ったわけじゃない」

「でも俺だってちゃんと100点取れたと思うぜ」

「仮にも教師なら、それくらい当然だろ」


可愛いなぁと数秒おきに繰り返し、いつにも増して笑顔を輝かせるあなたは最早眩しい、
そんなに満点をふたり輩出した事が嬉しいのか、それともそんなに僕の女装が見たかったのか。
後者ならばこんな変態を愛する並中の教員としてこのまま置いておくわけにもいかない、
やはりここで咬み殺しておかなければとトンファーに指を掛ける。
ご丁寧に太股に装着するトンファーホルダーまで用意した事を後悔しながら死ねば良い。


「うっわぁやっぱそれ駄目だってえろいって!」

「へぇ目を瞑ったまま死にたいの」


うわぁぁ、と叫びながらあなたは両手をばたばたと目の前で振っている。
と思ったら急に抱きつかれて、バランスを崩してベッドになだれ込む。
顔が近い。トンファーを振り上げようとしたら易々と取り上げられ、ベッドの下へと放られた。


「ちょっと、離して」

「やーだ、誰が離すかよ」

「離れろこの変態っ」

「変態って、傷付くなぁ」


言葉とは裏腹に相変わらずその表情はにこにこと楽しそうだ。
だがその中に隠しようもない情欲を見て取って、ますます逃れなければと躍起になる。
蹴り上げようとした足を掴んで開かれ、両足のあいだに強引に身体を割り込ませてきた。
その内に自由だった両手も丁寧に恋人繋ぎで縫い留められて、
落ちてくる唇からさえ逃れられなくなる。


「ん…、離してってばっ」

「聞いたぜ恭弥。お前も英語のテスト100点だったんだって?」


触れるか触れないかの距離で唇が動く。
目の前の蜂蜜色が褒める様に、だが意地悪そうに光って思わず息を飲む。


「当たり前だろ、僕があなたより下に居るわけが無い」

「はは、現に今俺の下に居るのにな」

「だから退けって何度も、…ちょっと!」


左手が自由になったと思ったら、離れたディーノの右手がプリーツスカートをめくった。
黒いタイツの上から脚を撫で回されて思わず身体が強ばる。


「恭弥は黒と赤が似合うな」

「だからって、セーラー服は無い」

「まぁまぁ、そう言うなよ」


へらへら笑うその顔面にトンファーをブチ込んでやりたいが生憎それも叶わない。
その時彼の手元からびり、と妙な音がして目を疑った。


「…なにして、」

「悪ぃ、いっぺんやってみたかったんだー」


いたずらを詫びる様に言いながら、
その指先は黒いタイツをびりびりと引き裂いていた。
いかがわしい本の見過ぎだと詰ってやりたいのに、
破れた穴から冷たい指先が直に触れれば罵倒の言葉は引っ込んでしまう。


「ちょっと、やだ…!」

「教え子が100点満点だなんて、かてきょーとして誇らしいぜ」


馬鹿言えあなたが僕に英語を教えた事など一度でもあったか、
これは紛れもなく僕の実力だ。
だいたい家庭教師らしく闘ってくれたのだって始めの内くらいで、
最近はもっぱら性教育みたいな事しかしてないじゃないか。


「恭弥にもご褒美やんねぇとな」


ことさら優しくキスされて、もう羞恥は限界を飛び越える。
褒美をくれると言うのなら、今すぐこの場から脱出したい。
結局このずるい人は自分が良い方向に丸め込もうとしているのだ。
だんだん面倒になってきて抵抗をやめると一瞬驚いた様な顔をして、
そっちから仕掛けておいてなんなのだと腹が立った。
腹立ち紛れに背中に腕を回して思い切り爪を立ててやる、
だけどベストとシャツとに緩衝されて大したダメージも与えられず、
結果彼の情炎に油を注いだだけだった。
どうせあなたがねだったこの服だって、その内意味が無くなるのだ。
諦めて目を瞑ればあなたはまた、可愛い、と頬を擦り寄せた。




 (σ▽σ) < 勝 っ た ぜ         









120222.



back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -