イヴァンちゃんとバクシーを無理矢理一緒に祝ってみました


ラキショクリスマス無配ペーパーでした。イヴァジャンのようなバクジャンのような、イヴァン+バクシー+ジャン



☆Dec.23rd

「はっぴばーすでーイヴァンちゃーん」
 ぱちぱちぱち。ジャンが間延びした声でバースデーソングを歌い、イヴァンはその前でむっすりとした顔をしていた。それも当然で、イヴァンの誕生日だというのにクリスマスが忙しく、幹部の誰ひとりとして、イヴァンのためのオフを手に入れることは出来なかった。ジャンも例外ではない。執務室のデスクに向かい、黙々と書類仕事をしながら、バースデーソングを歌った。ソファに足を組んでどっかりと座っているイヴァンは明らかに不満げだ。
 そんなわけで、執務室にはイヴァンとジャンしかいない。
「……仕方ねぇだろ。ニューイヤーには祝ってやるからさ」
「別に、誕生日とかどうでも良いし」
「拗ねるなよーイヴァンちゃん。誕生日プレゼントやっから」
 現金なもので、それだけでイヴァンの瞳がきらきらと輝く。最年少というのはそれだけで可愛いものだ。
「べ、べべ別に嬉しかねーし」
「へー」
 ジャンは一番下の引き出しをがさごそと漁った。紙袋を取り出してイヴァンに放り投げる。
「おめでとちゃん」
「うわっ、てめぇ、こんな祝い方があるかよ!」
「いちいちうっせーこと言ってるとベルナルドみたいに髪が抜け落ちますわよ、イヴァンちゃん」
 ジャンの言うことを聞いているのかいないのか、イヴァンは熱心に紙袋を漁り始めた。
「ん、あ……?」
 イヴァンが紙袋を掘るようにして、底まで探った。
「なんだよこれ」
「何って、見ればわかるだろ」
「……ガム、だよな」
「あぁそうだガムだ」
「これが誕生日?」
「嬉しいだろー? 俺のオススメのストロベリーガム一年分。あ、一日一個の計算ね」
 紙袋にはファンシーな包みのストロベリーガムがいっぱい詰まっていた。
「泣いて喜べ」
「……これ、が……?」
「自分がもらって嬉しいものを贈るのが鉄則だろ」
 イヴァンが俯いて無言になる。そして顔を上げると、イヴァンは耳まで真っ赤になっていた。
「ファックファックファックシットファーック!」
「俺があげたんだぜ、何でも嬉しいだろ?」
「そりゃそう、だがよ……」
「あ、忘れてた」
 もう一度引き出しをあさって、うすっぺらい封筒を取り出した。
「はいこれ」
「ん……? 金でも入って……」
 イヴァンが片目を眇めて封筒の中身を覗く。
「お触り券十枚綴り×三」
 封筒の中には紙きれがたくさん。そこには「尻一回」「胸一回」「太腿一回」「耳一回」などなどと書かれている。
「それくれたら、俺のこと好きなだけ触って……良いぜ?」
 服の裾を捲って臍の窪みをちらり。襟も捲って鎖骨もサービス。
 イヴァンは怒りを通り越したのか無言になって、ソファから立ち上がった。
「――覚えてろよ」
「はーい。お仕事いってらっしゃい」
 ジャンは手のひらをひらひらさせてイヴァンの背中を見送った。


「ったく、ジャンの野郎……」
 イヴァンは罵りながら、満更でもなかった。ジャンの言った通り、ジャンのくれるものなら結局なんでもいいのだ。たとえば、お触り券がジャンの手作りだというだけで、ほっこりしてしまったりする。
「ボス、おはようございます」
 メルセデスを迎えにいくと、部下たちが待ち構えていた。そしてメルセデスに乗り込もうとして、すぐに気付いた。
「これは……」
 メルセデスがぴっかぴかだ。いつでもぴかぴかだが、今日は一段と光輝いている。一体誰が。
「昨日の夜、カポが一人で、車を洗われていたんです」
 部下の一人が頬をほんのり染めながらネタを明かし始めた。
「俺たちがやりますって言ったんですけど、一人でやらせてくれって、ハッピーバースデーの鼻唄を歌いながら」
 あいつ、ジャンの野郎。
 イヴァンは最高の気持ちでメルセデスに乗り込んだ。



☆Dec.24th

「ちょ、はあああ? なんだよこれ! おい、ジャン!」
 翌朝、ジャンはイヴァンの叫び声を聞き付けて、ガレージに顔をだした。純白のメルセデスが見るも無残な姿になっていた。
 色とりどりのらくがきだ。Mother fuckerだのなんだの、淑女の前では言えないような単語から、妙に可愛らしくデフォルメされた猫の絵まで、さまざまだ。
「ん? あー、こりゃすげぇ。でも大丈夫だって、これ水性だから」
「ならまぁ……って、お前、どうしてこれが水性だって知って……」
「そりゃ、らくがきした張本人がそこで筆持ってんだから」
 ジャンが顎で指した先をイヴァンが見る。
「な、なななんでてめぇがここに。GDのイカレ野郎が!」
 手やら何やらを絵具で汚して、右手と左手に一本ずつ、それでも足らないのか口にも一本筆を咥えて、バクシーがいた。
「んあ? いやね、超ご機嫌マックスでここの前通りかかったらさァ、金髪こねずみちゃんが絵具くれたんだって」
「は?」
 イヴァンがジャンを見る。ジャンは気まずそうに頭を掻いた。
「こいつがさ、今日が誕生日だっていうもんだから、何が欲しいって聞いたら」
「すっっっげえらくがきしたい気分だったのん。そしたらぴっかぴかの丁度良いキャンバスがあったら、描かずにいられるかっての」
 バクシーはるんるんとメルセデスの周りを飛び回りながら、猫の絵をさらりと描いた。
「っ、て、めええええええええええええ」
「うるせーこというなよ、な?」
 てへぺろ。バクシーが可愛らしく舌を出した。
「それで済むなら警察もマフィアもギャングもいらねぇんだよファック!」
 イヴァンが叫ぶのを気にもせずに、バクシーはジャンが買ってあげた水彩セット(初心者用)を片付け始めた。
「てか何でぬこ」
 意外と可愛い猫の絵を見て、ジャンは首を傾げた。
「だってかーわいいだろぉ? ちっ、もー描くところねーな。他行くわ」
「ん、おめでとな、バクシー」
「サンキューな」
 妙に爽やかに手を上げて、バクシーがジャンとイヴァンに背を向ける。
「このふにゃちん野郎が! ジャンが! 磨いて! くれたのに!」
「あらぁ嬉しいこと言ってくれるのね」
「そういう問題じゃネェ」
 今にも走ってバクシーを追い掛けようとするイヴァンを全身で留める。バクシーはのんびりと、散歩するみたいに去っていく。
「ファックファック! この……asshole! cocksucker!」
 イヴァンが思いつく限りの罵倒を並べ立てる。
「お前のかーちゃんでーべーそー」
 バクシーはそれだけ返してガレージから消えた。
 ふーっ、ふーっ、と荒い息をしてイヴァンが顔を真っ赤にしている。
「まぁまぁ」
 ジャンは上下に動くイヴァンの肩をぽんと叩いた。
「まぁさ、良いじゃん? 二人で磨こうぜ?」
 身長の殆ど変わらないイヴァンの頭を撫でてから、水の入ったバケツを持ち上げてみせた。
「……それなら、まぁ、良い」
 ぼそり、イヴァンが言う。イヴァンとジャンの共同作業で、忙しい一日が始まる。それは悪くない。



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