六花の季節


野宿はコノエとライにとって既に恒例行事だ。しかし冬の野宿となると話は変わってくる。リークスを倒してから、二匹で過ごす初めての冬。リビカの耳や尾は確かに毛で覆われているが、冬とそれ以外の季節を比べると寒さはやはり厳しい。
「……しくじったな」
ライがぼそりと呟く。陽の月は随分前から傾き始め、今はすっかり低い位置にある。夜が深くなる前に野宿の場所を定めなくてはならない。
「どうかしたのか?」
「大したことじゃない」
言いよどむライは珍しい。下草を踏み分けて進むライの後を歩きながらコノエは首を傾げた。
「何かあっただろ」
「獲物を捕らえるのにてこずった」
「今回は情報と違ってたし、仕方ないだろ。結局平気だったし」
獲物の出現場所が手に入れた情報と若干違っていて、見つけ出すのに手間取り、時間が掛かった。
そんなことかとコノエは軽く応じたが、ライはそれに答えない。沈黙の居心地が悪くてコノエが先に言葉を発した。
「久しぶりの野宿だな」
コノエが言うと、前を行くライの耳がぴくりと動いた。
「ライ?」
疑問を尋ねる暇もなくライが止まった。
「ここで良いだろう」
「そうだな」
場所さえ決まれば野宿のためにすることはこれといってない。二匹は並んで大木の根元に座る。
ライは袋からクィムの実を取り出した。
「食べるか」
「いらない」
そんな短い会話を終えれば手持ち無沙汰になる。ライはクィムを齧った。
「ライ」
「何だ」
「野宿するのに何か問題があるのか?」
最近を振り返ってみれば、気温が下がり始めた頃から遠出することがなくなった。日帰りで藍閃に戻れるような場所でばかり獲物を狩っていた気がする。今日にしたってそうだ。獲物が情報通りの場所にいたならば、日暮れ前に藍閃に戻れただろう。
「……冬だからな」
「寒いってことか? それなら俺は全然平気だけど……あれ?」
話している途中、空から降ってきたものに目を凝らす。白い欠片。
手で受け止めると冷たい。手の温度でたちまち溶けて雫を作った。雪だ。
「雪か……」
コノエが空から視線を移すと、心なしか心配そうな表情のライとぶつかった。ライの方が気まずそうに視線をずらす。
野宿と雪。
隣にはライ。
思い出さないわけはなかった。
リークスと戦っていたあの時。虚ろのせいで全滅した火楼を見たあの日。今みたいに野宿をしながらただ静かに雪が降っていた。
少しだけ、胸が詰まるような感情が込み上げる。
あの時みたいにライが隣にいる。
あの時みたいにライの尻尾を握り締めた。
「大丈夫だよ、ライ。俺は平気だ」
コノエは俯いて言う。ライはコノエがライの尻尾を掴んでいることにも何も言わない。
「ライが隣にいるから平気だ」
「……そうか」
ライの小さな溜息がコノエの耳に届いた。ライは雪を避けていたのだ。わざわざ藍閃の近くでだけ仕事をして。
ライが気遣っていてくれたことに気付かなかったのが何となく気恥ずかしい。記憶に再び傷付かないように気をつけていてくれたのに。
今更お礼を言うのも気が引けた。だからといって何もしないではいられなくて、コノエはライに近付いた。
肩が僅かに触れ合う。服越しにもほんのりと体温が伝わってくるような気がした。
ライは自分のマントの前の金具を外した。コノエが怪訝に思っているうちにライの胸に引き寄せられる。
「う、わぁっ」
バランスを崩してライに思い切り寄り掛かる。そのままライのマントに包まれた。
「この方が暖かいだろう」
ライの憮然とした言い方が可笑しくてコノエはくすりと笑った。
「あったかい。……ありがと」
コノエはマントのお礼を言った。その奥に別な感謝も出来るだけ込めて。
ライのマントに二匹でくるまる。二匹分の体温が心地良い。尻尾もお互いに絡め合う。
コノエは頭をライの肩に預けた。それで少しだけ、泣いた。

雪はしんしんと降り積もり、夜はゆっくりと更けていく。
あの時よりも近い距離で夜を過ごす。



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