こたつむり


ニルティエ




「ティエリア」
「……寒い」
「ティエリア?」
「寒いと言ってるんですっ」
「ッ」
こたつに入って足を抱えていたニールは、脛を踵で思い切り蹴られて息を呑み、背中を丸めた。
「いってぇ……肩までこたつに潜ってて何が寒いんだよ」
掘りこたつではなく櫓タイプの一畳くらいの大きさの正方形のこたつを絨毯の上に置いて、ティエリアとニールは向かい合わせに中に入っている。ティエリアが寝転がって肩まで、というよりも口元が布団で隠れるくらいまで潜っているせいでスペースを奪われたニールは膝を抱えて布団で肩まで覆い、顎をこたつの天板の上に乗せていた。
不意に名前を呼んだ途端の、襲撃だった。
「寒いと言ったら寒いんです」
「お前、しっかり頭まで入ってるじゃねぇか」
「そういう問題ではない。この足が、万死に値する!」
げしげしと脛を蹴られて堪らず炬燵から足を抜いた。
「何がいけないってんだ」
「あなたがそうやって足を抱えてるから布団と床の間に隙間が出来て冷たい空気が中に入ってくるんですっ」
「え? ああ」
なるほど。いつものことだがティエリアはやはり正論だ。寝転がっているティエリアをニール側から見ると不機嫌そうな赤い瞳だけが見える。
「こうすりゃ良いってことか?」
こたつの中で伸ばされているティエリアの足を避けるようにして足を伸ばしながらゆっくり横になる。こうして膝も立てずにいれば隙間はできないだろう。
「っ、ちょ!」
「んー? 何か問題でも?」
「……ありすぎです」
ティエリアの邪魔にならないように足を伸ばしたら、必然的に右足をティエリアの足と足の間に入れることになった。
「そんな、ところに、入れるなっ」
「ここだと仕方ないだろ」
どうしても、足の指がティエリアの内腿に触れてしまう。なんとかずらそうともぞもぞ動いてみて、失敗した。
「っ、この変態が」
「おいおい濡れ衣だって。なんならベッドでも行くか?」
「それを変態と言うんです」
「――ッ!」
蹴られた、股間を。思い切り。
 身体をくの字にして身悶える。それでも隙間だけは作らないように布団は死守したのだから我ながら健気だ。
「わ、悪かった! 悪かったって!」
何度も容赦なく攻撃してくるティエリアはひょっとしたら男じゃないのかもしれない。服まで剥いた仲だから勿論知っている、知ってはいるが。
「……わかりました」
ようやく蹴りがおさまって、代わりに顔面に何か降ってきた。身を捩っていたせいで顔で受けてしまう。鼻が潰れる。ひんやり冷たくて小さいが重い。絨毯に転がったそれを手に取ってみる。
「みかん?」
「炬燵では蜜柑を食べるものだと聞いた」
「食べれば良いだろ」
こたつの向こう側にいるであろう姿が見えないティエリアに蜜柑を放り投げる。しかし無言のまま、すぐに戻ってきた。キャッチボールみたいだ。
「どうした?」
「……あぁ、わかった。剥いてやるよ」
「それで今の非礼は帳消しにしてあげます」
「ありがたい話だな、そりゃ」
蜜柑の皮を剥いていく。ティエリアの爪の間に筋が挟まるのを想像して、なんだか違う気がした。柑橘の匂いがするティエリアは悪くない気もするから香水でも買ってくるか。薄皮の食べ方を知っているのだろうかと笑ったらもう一度蹴られそうだからやめておこう。




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