一夜過ぎて


ニルティエ




 七夕が終わった。
 7月7日の23時59分が終わり、7月8日の0時0分になった。
 7月7日は雨だった。土砂降りで、星の一つも垣間見えなかった。力強い月の光も分厚い雲を通り抜けはしなかった。天の川は土色をした水で溢れていることだろう。今も、雨はざあざあと降り注ぐ。
 いなくなってしまったロックオンとの、一晩の逢瀬を楽しめるとか、そういうロマンチックなことを期待していたわけでもなかった。ロックオンはいなくなったのではなくて、死んだ。織姫と牽牛は別れ別れになっただけだから、一年に一度だけでも会える。ロックオンは死んだから、一年に一度だって会えない。
 大体、そんな風に過去を思い出して枕を濡らしている場合でもない。

 ロックオンから聞いた七夕の話を思い出して、眠れなかった。脳まで蕩けさせるような甘いテノールが、つい最近のことのように思い出される。胸に、全身に刻みつけられた記憶は、思い出にはならず、いつも傍にある。
 織姫と牽牛は離れ離れになって、それでも一年に一度だけ、逢うことを許される。そんなくだらない、ちいさなありふれた御伽話。
 一年に一度のその日を夢見て、毎日を過ごすんだ。けど、その日に雨が降っちまったらそれでおしまい。その年は逢えない。二人ともわんわん泣き喚くかもな。ん? おかしいと思うか? そりゃあ、男だって泣くさ。それから、泣かずに次の七夕を待つんだ。会えなくても諦めないで、忘れないで、もう一年。それでも、待てるんだぜ? それでも逢えなくて、また一年。凄いよな。でもわかる気もするんだ。だって、愛し合ってるから。一年会えなくても、二年会えなくても、いつか逢うことができるたった一日を信じて、生きて、生きて。忘れないでいることの辛さも乗り越えて。

 愛し合って。
 
 7月7日の24時17分だから、まだ七夕は終わっていない。
 遺言めいた彼の言葉を思い出して、年に一度くらい、感傷に浸るのも悪くはない。
 夢で、逢いましょうか、ロックオン。逢えなければ、来年を待ちます。その次の年もまた次の年も会えなければ、いつか、何十年も先になるかもしれないけれど、あなたのもとに行く日が来るのを待てばいい。
 愛しているから。
 生きて、待つ。会いに行く。



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