ちってぃえちゃんのなつやすみ


DA6無配

※ちってぃえちゃんは幼女ティエリアです
※ティエリア総愛され







 太陽の光がリビングの大きなガラスを通ってきらきら光る。レースのカーテンが風にゆっくりとひるがえり、うっすらとした影をぴかぴかのフローリングに落とす。気持ちの良い朝だ。
「ティエリアー、食べ終わったなら外に行こうぜ」
小さなティエリアは夜早く寝て朝遅く起きる。ふわぁ、と小さな口をいっぱいに開けて大きなあくびをした。
「終わった」
「それじゃ外行こうぜティエリア」
ニールがティエリアを抱き上げた。
「にーる」
「ん?」
ティエリアは真面目な顔をしてニールを見上げた。
「パンがついている」
すぐに折れてしまいそうに細い人差し指と親指がニールに伸びて、フランスパンの茶色いカスを摘んだ。
「ティエリアはお利口さんだな、あーん」
ティエリアがニールの口にパンくずをぽいっと捨てた、ようにライルには見えた。
「おいしい。ありがとな、ティエリア」
「そうか」
ティエリアは冷静で、ニールはへらへらと締まりのない笑顔を晒している。親ばかもほどほどにしろと思う。大体、他の家族の目が痛い。刹那もアレルヤもハレルヤも、いちゃついているように見えなくもないニールとティエリアをじっとりとした目で見ている。
「兄さん」
「なんだよー、ライル。そんな目で見たってティエリアはやらないぜ」
「あんたのもんじゃないだろ」
「そうだ、ぼくはぼくのものだ、ばんしにあたいする」
いつの間にそんな言葉を覚えたのか、ティエリアは本当に賢い。そして兄さんは相変わらずバカだ。
「えらいなぁティエリアは」
「……ひげがいたい」
すりすりと頬ずりするニールにとっては完全にティエリアと二人きりの世界みたいだが、ティエリアにとってはそうではなさそうだ。
「ほら、兄さん早く。ミッションだってば」
ライルはニールの開いている方の手を引いた。ティエリアは小さいから片腕で抱えたって重くない。
「ライルっ、ティエリアが危ないだろっ」
「どこがだよ」
ティエリアはニールの首にしっかりと腕を絡みつけてしがみついている。嫉妬しそうだ。ライルはつばの広い麦わら帽子をティエリアの頭に乗せた。ティエリアがにっこり笑ってすごくかわいい、という幻想を見た。実物のティエリアはありがとうとライルに礼を言いながら日焼け止めを腕に塗っていた。かわいい。帽子と日焼け止めで日焼け対策完璧なティエリアが白いワンピースを着ているのはとてつもなく可愛い。ちなみに俺にロリコンの気はない。


「今日は……草抜きだ」
ライルが嫌々呟いて軍手をはめた。泥で汚れて黒ずんでいる。ニールにも同じく汚れた軍手を渡す。ニールは自分の軍手をはめてから、どこからともなく小さな小さな軍手を取り出してティエリアに渡した。汚れ一つない上に、かわいらしいピンク色だ。
「あついからおうちがいい」
「だめだ」
駄々をこねるティエリアに、ライルはきつい口調で言った。こんな小さな子どもが役に立つわけもないが、家事は分担制でこなさなければならないという躾は小さな頃からするべきだ。しかし暑い。家の中にいるなら風通しも良いから心地良い気温だが、直射日光はきつい。ニールとティエリアの世界を作らせてしまえばライルが家の中に戻っても気付かれないだろう。
「っ、ふぇ……」
「ライル! ティエリアを泣かすなら容赦しねぇぞ」
「何でだよ……ティエリア、これは重大なミッションだ。わかるな?」
片手の手のひらで覆ってしまえそうな大きさのティエリアの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「ミッションっ?」
きらきらっとティエリアの瞳が輝く。
「そうだ、ミッションだ」
「らいるとやるー」
ティエリアはミッションという言葉に滅法弱い。じたじた足をばたつかせるティエリアを見て、ニールは残念そうにティエリアを地面に下ろした。


「はぁ……」
「どうした、らいる」
「あついな、ティエリア」
「これはミッションだ、そんなことをいうやつはマイスターにふさわしくない」
ティエリアがニールに懐いていてくれればこっそり涼しい部屋の中に戻れたのに、という本音は隠しつ呟けば、ティエリアの突っ込みが鋭い。億劫そうに雑草を毟っては放り投げるライルの横でティエリアは小さなスコップで無心に地面を掘っている。
「何してんだ?」
抜けばいいのにわざわざスコップを使って地面を掘っている。
「ねっこからぬいたほうがいい、とにーるが言っていた」
小さいくせに正しい知識を身につけている。一人だけティエリアとライルから離れて丸めた寂しそうな背中をこちらに向けている兄さんに聞かせてやったら泣いて喜ぶだろう台詞を言いながらもティエリアは手を止めず、せっせと地面を掘っては確かに根こそぎ雑草を抜いている。
「本当にお前はすごいな」
「らいる」
誉め言葉も華麗にスルーしたティエリアはライルの方に華奢な握り拳を差し出してきた。
「あげる」
「俺に?」
プレゼントは素直に嬉しい。ティエリアが俺にプレゼントなんて、親心が通じたのかもしれない。ティエリアの手の下に広げた手のひらを差し出す。これだから子どもはかわいい。ぽとり、何かが手のひらの上に落とされた。
「えーと……」
てらてら光っている。茶色い。細長い。うねうねしている。ぴちぴちしている。ここまで描写する必要もない。ミミズ、だ。
「うわっ」
思わずぽいっと地面に放り出す。ミミズを持っていたくなどない。嫌がらせか。嫌がらせだな。ぽかぽかっとティエリアに殴られた。
「にーるがミミズさんはたいせつにしなさいっていっていた。つちをよくしてくれるって」
また兄さんのせいか。とんでもないことをティエリアに仕込んでくれたものだ。いつの間に……。
「にーるー」
ライルが捨てたミミズをそっと再び手に取ったティエリアはニールの方へ駆けていった。
「どうしたぁ?」
ティエリアが近づくとニールはまたへらへらと笑った。ティエリアからミミズを受け取ったニールはティエリアをひとしきり誉めてから、ばちん、とウインクをライルに寄越した。ティエリアはニールの手のひらに乗せたミミズの尻尾だか頭だかを突っついている。ニールは土に戻すように諭しているようだ。勝手にしろよ。


 一人先に部屋の中に戻る。アレルヤとハレルヤは何かものすごい勢いでシューティングゲームみたいなものをやっていて、常人には見えない速度で画面上を何かが飛び交っている。刹那はキッチンに立っている。今日の昼食当番は刹那だから味には期待できないだろう。
 ライルが特に何もせず扇風機と二人でだらけているとすぐに正午がやってきて、ニールとティエリアも部屋に戻ってきた。
「ライル、さぼっただろ」
「そうだっけ」
ティエリアにめろめろのニールはライルに文句を言いながらも視線はティエリアに向いている。汗ばんだティエリアの肌を濡らしたタオルで拭いてやっている。
「昼飯だ」
刹那が水のたっぷり入った透明なボールに素麺を浮かしたものを人数分テーブルに並べていく。
「腹減ったー」
手洗いも済んでいたライルが真っ先にテーブルにつき、次にニールとティエリア、そしてゲームをキリの良いところまで終えたアレルヤとハレルヤが席についた。
「いただきます」
全員で揃えて言う。少し高いティエリアの声が目立った。Tシャツにジーンズ姿の刹那に青いエプロンがやたら似合っているが、水中の素麺はきっと素麺なのだろうが讃岐うどんに近い。お世辞でも冷や麦とすら呼べない。タイミングを逃して伸びてしまったのだろう。
「……うどん?」
「違う」
ライルの正直な感想を刹那はにこりともせずに一蹴した。
「冷や麦、かな?」
アレルヤの控えめな感想にも刹那は首を横に振る。
「せつな、このそーめんおいしい」
ティエリアの感想に刹那は微かに口角を持ち上げて笑った。
「ティエリアの味覚は確かだな」
「あたりまえだ」
ティエリアは賢いが味覚には不安が残る。今だってそうだし、普段は固形食料の方が効率的だとか文句を言いながら食べている。まずい。今からでも食育を始めなければ。その場にいた刹那とティエリア以外の感想だった。


 食べるのが辛い素麺を、それでもお百姓さんに感謝しながら食べ終えて、ティエリアはお昼寝タイム。ハプティズム兄弟はゲームに明け暮れ、ニールは食育に関する子育て本を熟読し、ライルは三時のおやつを物色した。ライルは普段自分が使っている緑のタオルケットをティエリアに掛けて、ティエリアの横で菓子を分け始める。あぁ、寝ているティエリアは天使のようだ。


 三時のたまごボーロタイムを経て、陽は傾いて夕方。
 風呂の時間だ。
「ティエリア、お風呂だよ」
「さっさと脱げ」
「な、なに言ってるのハレルヤ、ティエリアは女の子だよ……」
「ゆっくり脱ごうが一気に脱ごうがこのガキの裸を見るってことには変わりないだろ。お前、ロリコンの気でもあるのかよ?」
「そ、そういうわけじゃ……わっ」
「ろりこんってなんだ?」
脱衣室に筋肉で暑苦しいアレルヤとハレルヤと、小さなティエリアがみっちり詰まっている。わたわた慌てるアレルヤを尻目にハレルヤはさっさと手早くティエリアの服を全部脱がせた。
「いつ見てもつるっつるだなー」
「どこ見てるのハレルヤ?」
「んー? どこだと思うよ?」
ハレルヤはティエリアの両脇に手を入れて持ち上げ、浴室のタイルの上にティエリアを下ろした。真っ赤になっているアレルヤと、早速自分で自分に湯を掛け始めているティエリアを見比べて肩を竦めた。
 風呂を上がって再び脱衣室。狭苦しいそこにいたくなくてハレルヤは手早く自分の支度を終えるとパンツ一枚で上は何も着ずにリビングに向かった。ティエリアはアレルヤに任せちまえば良い。
 リビングに戻り扇風機に当たって涼んでいるとアレルヤの悲鳴が聞こえてきた。
「ティエリア、だめだって!」
ぺたぺたという足音とともにティエリアがリビングに入ってくる。その後ろをアレルヤが腰にタオルを巻いただけの姿で慌てて走ってくる。
「女の子なんだからちゃんと服着なきゃ」
アレルヤの言葉にニールとライルと刹那もティエリアを振り返る。ティエリアがハレルヤとペアルック状態で、誰もが口をぽかんと開けたままにした。つまり、ティエリアはかぼちゃみたいな白いパンツをはいていて、上は何も着ていない。裸も同然だ。
「なぜですか? はれるやとおなじかっこうでなにがわるい」
「だって、ティエリア。ハレルヤは男でティエリアは女の子だから……」
「それはふこうへいだ」
アレルヤの言葉にティエリアは取り合わず、ハレルヤの膝の上によじ登ってハレルヤを見上げた。
「そうだろう?」
ははっ、とハレルヤは楽しげに笑った。
「そうだなァ、悪い狼に食われても良いのかよ?」
「はれるやはたべられたことあるのか」
「まさか。俺は強いからな」
「じゃあぼくもつよくなる」
「そうかそうか」
ハレルヤはくしゃくしゃとティエリアの髪を掻き混ぜた。濡れたままの髪がふんわりと空気をはらむ。
「はれるやみたいにきんにくむきむきになる」
それはやめてくれ、と誰もが心で呟いた。
「そんなことしなくても俺様が守ってやる」
「ぼくがはれるやをまもる」
ぎゅう、と抱きしめられたティエリアはくすぐったいときゃっきゃと笑った。


「じゃんけん、ぽん」
勝者、ライルとハレルヤ。毎晩のこれは大切な儀式みたいなものだ。
 ティエリアの隣にライルとハレルヤ。そして川の字×2で眠り始め、結局は互いの体温という引力のせいでみんなでひとかたまりになって眠る。
 ひとつ、やねのしたのまいにち。




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