中毒症状


あきのりさんからの1万フリリク「ニルティエでニールがやきもち」






ロックオン・ストラトスは湯気を立てるコーヒーで満ちたカップを静かに傾けていた。同室には同じくマイスターのアレルヤが椅子に座ってくつろいでいる。
続けて入ってきたのはティエリアだった。コーヒーサーバーへ歩み寄る。ティエリアも休憩しにきたのか、とロックオンは何気ない視線を送り、ティエリアの背中をぼうっと見ていた。次にティエリアが振り返った時、手には二つのカップが握られていた。
「アレルヤ・ハプティズム」
抑揚のない声が呼び掛けた相手はロックオンでは、なかった。
「え、僕? 何、ティエリア」
アレルヤも予想外だったのか、ティエリアの感情を感じさせない声に若干たじろいだ。
「コーヒー、飲まないか?」
「え?」
ティエリアの言葉はアレルヤを驚かせるには十分だったし、ロックオンもまたカップを取り落とすところだった。ティエリアが他人に干渉するのは極めて珍しいことだ。
「何を呆けた顔をしている」
ティエリアはアレルヤの隣に座ると、カップを持ったまま訊ねた。
「いらないのか?」
「僕にくれるの?」
アレルヤが訝しむと、ティエリアもまた不審そうな表情を浮かべた。
「別に、君のために持ってきたわけじゃない。間違えて二杯分注いでしまっただけだ」
「あぁ、そういうこと。ありがと、ティエリア」
アレルヤが手を伸ばしティエリアから受け取る。指同士が触れ合う。受け取ったアレルヤはカップに口をつけた。
「あ、つ……」
ティエリアはコーヒーの熱さに顔をしかめるアレルヤをつまらなそうに見るともなく見ていた。ながらティエリアもまたコーヒーを飲んだ。
「気を付けろ」
「ありがとう。今思ったんだけどさ、ティエリアって細いよね、指」
「話が見えない」
「コーヒー持ってきてくれたとき、細いなぁと思ったんだ。腰とかも」
アレルヤがカップをごとりとテーブルに置き、空いた手をティエリアの腰に滑らせた。アレルヤの手のひらが腰のラインを辿る。
「やめろ」
「あ、ごめん。つい」
ティエリアの制止にアレルヤは名残惜しげに手を離した。
ティエリアは自分のカップを持っち、ドアへ向かった。
「あれ? ティエリアは……」
「自室で飲む」
相変わらず平坦な口調が怒っているように聞こえたのだろう。アレルヤはたじたじになって言った。
「え、あ、ごめん。気を悪くしたなら……」
「もとよりそのつもりだった」
真っ直ぐに切り揃えられた髪がさらさらと揺れる。部屋を出ていく後ろ姿に、ロックオンは飲み干したカップを置いて立ち上がった。
ロックオンもまた部屋を出ようとし、しかしその前にアレルヤに近付く。
「アレルヤ」
いつもよりも幾分低い声で呼び掛ける。普段と異なる声音に気付いたのか、アレルヤはびくりと肩を震わせて振り向いた。
「な、何ですか、ロックオン……?」
「お前さ、何が『つい』だよ」
「え……?」
「まぁいいや。じゃあな」
ロックオンの言葉の刺に、アレルヤはすっかり萎縮していた。そんなアレルヤを放置したまま、ロックオンはティエリアを追った。


ノックはしない。怒っている時にまで紳士的でいることは到底できそうになかった。
ティエリアの部屋に入ると、ティエリアはベッドに腰掛けてコーヒーを片手に本を読んでいた。
「何ですか、ノックもなしに」
ティエリアは柳眉を片方跳ねあげた。
「何って、わかんないか?」
「なんのことです?」
とぼけているわけではないらしい。ティエリアは嘘を吐くのが致命的なまでに下手だ。嘘を吐けばすぐにわかる。
「そのコーヒー、美味しいか?」
「別に、問題はない」
「何で俺にはいれてくれなかった? アレルヤにはあげたくせに」
「どういう意味ですか」
ティエリアはサイドテーブルにカップを置くとロックオンに向き直った。
「あなたは既にコーヒーを飲んでいた。僕は愚かにも二杯注いでしまったから、余分な一杯をまだ飲んでいないアレルヤ・ハプティズムに渡した。それだけのはずですが」
「へぇ」
ティエリアを勢い良くベッドに押し倒す。
「っ……」
突然の衝撃にティエリアが目を閉じた。スプリングが軋み、二人が揺れる。
「何、を……」
ロックオンはティエリアの細い両手首を片手でまとめてベッドに縫い付けた。これでティエリアは思うようには動けない。
「何、だ」
ティエリアを見下ろし、見つめる。その視線が知らず常より鋭いものになっていたのだろう。いつもは気丈なティエリアが一瞬、怯えるような表情を見せた。
ティエリアの頭上で手を押さえ付けたまま、顔を近付ける。間近に迫るティエリアの顔。
「指だって触らせて、腰まで撫でられて、なんで払わなかった?」
詰問する。問い詰める。いくらなんでも子供っぽい感情だと、頭の片隅にある理性が言う。そうは言っても抑えられない感情もあると、頭の大部分を占め始めた本能が言う。
「アレルヤに、特に他意はなかった」
「なんでそれがティエリアにわかるんだ? ……俺の気持ちにも気付かないくせに」
当然、本能が勝った。
「い、っ……ん……っ」
ティエリアの唇にロックオンのそれをぶつけた。噛み付くようなキス。
「ん、ふ……ぁ……」
ティエリアが横を向いて逃げようとする。逃がさない。歯列を辿り、暴れる舌を絡めとる。わざと音を立てて吸う。ティエリアが飲み込みきれなかった、どちらのものともつかない唾液がティエリアの口の端から溢れ、頬を伝う。力ない拳で胸元を叩かれ、漸くロックオンはキスを中断した。
げほげほとティエリアがむせる。酸欠か、涙を溜めた紅い瞳に力がない。
「俺がいなきゃ、何もできないくせに」
苦しげに息を吸うティエリアを見下ろして言った。
「それ、はあなたの傲慢だ。あなたに束縛される謂われは、ない」
こんな時にも理路整然としている。キスをされた後だというのに?
それが少し羨ましく、自分が情けなく、鈍いティエリアが憎らしい。醜い独占欲に、ロックオンは自分を嘲笑った。それでも、止まらない。ティエリアのことになると、呆れるほど幼稚になってしまう。
どうしたら、ティエリアは自分だけを見るか。考えて出した結論に笑うしかなかった。

「ほんとに? じゃあさ、一人でイける?」

ティエリアと肌を重ねたことがあるのはロックオンだけだ。ティエリアは自慰を知らない。無垢な身体を初めて抱いたのはロックオンで、それ以後もロックオンに抱かれるだけ。
ずるいとわかってはいる。
「な……」
口を開けたきり唖然としているティエリアの、腕の拘束を外した。
「俺がいなくても出来るんだろ?」
滅茶苦茶なことを言っているとわかっていて、やめられない。
「やれよ」
「いやだ」
「できないのか?」
「――できる」
ティエリアの可愛らしいプライドが、不可能を許さないのを知っていて強要する。
「じゃあ、見せてくれるか?」
いつもと違うロックオンの様子を恐がっているのはわかっているから、出来る限り甘く優しい猫撫で声で。
ティエリアはゆっくりとジッパーを下ろした。震える白い指がまだ反応を示していない性器を取り出す。しかしそこで、固まった。
「どうしたんだ」
「無理、だ」
「そうか? 俺がいつもやってるみたいにやればいい」
ロックオンはティエリアの手にそっと自分の手を重ねた。びく、とティエリアの身体が緊張する。
ティエリアの薄い手ごとティエリア自身を握ると、性器がぴくりと反応した。
ゆっくり上下に動かしてやる。ティエリアがぎゅっと強く唇を結んだ。
「っ……」
ティエリア自身がゆるく反応を示し始めたのを見て取り、ロックオンは手を離した。ティエリアはそれでも手を動かしている。
清廉で綺麗なティエリア。淫らな行為と無縁に見えるティエリアが、自分で自分を慰めている背徳的な光景にロックオンは見入った。
「ひ、ぁ……ん……あぁっ」
ティエリアの指が鈴口を開くように刺激すると、どぷりと先走りが零れた。手を伝い、流れていく。次第にくちゃくちゃと卑猥な音を立て始めたそれが見るに堪えなかったのか、ティエリアは目を閉じた。
ティエリアのそれは既に勃ち上がり切っていた。
しかし。
「は……っあ……ぁ…?」
先走りが零れるばかりで頂に辿り着けない。
「ん、ぁ……ゃ……」
扱く速度を速めても、執拗に先端を刺激しても、肝心の刺激は得られずに辛い熱ばかりが腰にたまっていく。
「なん、で。どうして……っ」
ティエリアは淫らに腰を振っていた。腰を揺らし、自らの恥ずかしい場所を自分で弄り、羞恥に涙を流してなお、達することが出来ない。その媚態に、ロックオンはごくりと喉を鳴らした。
「ろっく、おん……」
ティエリアが縋るようにロックオンを見る。
「どうした、ティエリア」
ロックオンは何も気付いてない風を装って訊ねた。
「助けて、くださ、い」
息も途切れ途切れにティエリアが言う。思わず手を出しそうになるのを堪え、ロックオンは言った。
「俺に何をしてほしい?」
「……っ、イかせて、ください」
ティエリアの顔は真っ赤だ。羞恥に震えている。
「具体的には?」
「さわ、って……っ、ぅ……」
もう、限界のようだ。ティエリアの声は消え入りそうに小さく、限界まで俯いた顔は泣きそうに歪んでいる。ロックオンは漸くティエリアの身体に手を伸ばした。
「ここか?」
張り詰めているティエリアの雄をぴんと弾いた。
「あ……」
それだけでとろとろと溶けたようになるティエリアが愛しい。
「ここ?」
後ろの袋をやわやわと揉みしだく。
「や、あぁぁっ」
悲鳴に近い嬌声がロックオンの耳を打つ。どくん、と腰の辺りに熱が集まるのを感じた。身体の中心が疼く。
「それともこっちか?」
手をティエリアの背後に回し、探り当てた双丘の奥の窄まりを布越しにきゅっと押した。
「ひぁ、ぁ……あぁ、ん……」
ティエリアが思い切り背を反らした。紫の髪が散らばる。
「ろ、くおん……っ。あなた、も……」
快楽に我を忘れたのか、ティエリアがロックオンのズボンの前に手を掛けた。ベルトのバックルをがちゃがちゃともどかしげに外す。ズボンを下着ごとおろされ、既に膨らみきったロックオン自身が姿を現した。
「いっしょ、に……一緒が、いいっ……」
ティエリアのいじらしさに、ロックオンは胸の詰まる思いがした。こんな風に乱暴に、ティエリアの感情を無視して行為を進め、泣かせ、啼かせて。
思わず、ティエリアを抱き寄せた。
「ごめんな」
一瞬だけ強く抱き締めて、離す。代わりにティエリアの性器とロックオンのそれを重ね、手のひらで包んだ。熱い。ティエリアも欲望の熱を感じたのだろう、白い喉元を晒し、ロックオンにしがみついてくる。
二本のそれを擦り合わせると、熱が急速に膨張していく。ロックオンが腰を動かすと雁首が擦れ合い、じりじりと熱を高める。
「ひぅ、あ……」
ロックオンの指先がティエリアの先端を突くとティエリアが切羽詰まった声を出した。
酸素を求めて喘ぐ口に、唇を重ねる。先程とは違う優しい口づけ。舌を絡め合い、お互い赤ん坊のように吸う。上顎の裏をぞろりと撫でるとティエリアの腕からがくんと力がなくなってロックオンに寄り掛かってくる。
腰の動きを一層激しくするとティエリアがロックオンの背中に爪を立てた。ぴりりと痛みが走るが気にならない。欲望と欲望をぶつけ合う。
「ん、んんっ……っ」
「くっ……」
ティエリアの身体がびくびくと大きく震える。甘ったるいキスに追われ、こもった絶頂の声が響いた。


はぁはぁとティエリアは荒い息。どちらからともなく離れた唇の間で唾液の糸がきらりと光り、切れた。互いの雄は白濁でどろどろだ。
「僕は」
ティエリアが途切れ途切れにロックオンに告げる。
「あなたとしか、こんなことはしない」
「知ってる」
断言できる。そんなことはわかっている。ティエリアは嘘を吐かない。ティエリアは真っ直ぐだ。
「僕には、あなただけ」
「わかってるって」
「じゃあ何で、こんなことを……」
「嫉妬だよ。独占欲だ。お前さんにもいつかわかるかもな」
ティエリアは人間だから、と付け加える。
「悪かった」
謝ると、体温に包まれた。肌に馴染んだティエリアの温度。ティエリアに、抱き締められていた。
「ティエ、リア……?」
「僕は、幸せものだな」
「は?」
散々に扱われ、どこからそんな言葉が出てくるのだろうと、罪悪感の中でロックオンは首を捻った。
「あなたみたいに誰からも頼られ、好かれる人にそう思ってもらえている、ということだ」
「やっぱお前、変わってるよな」
「何がですか」
「こんな風に言われたら重すぎるって思うのが普通じゃねぇか?」
「さぁ」
ティエリアはロックオンを抱き締めたままそっぽを向いた。
「僕は、あなたとしかこんな風になったことがないから比べられません」
最高の殺し文句。これだから、天然は怖い。
「じゃあさ、」
ティエリアのシャツのボタンを口で外す。
「今から最後までして、いいか?」
ティエリアの無言は肯定だ。ゆっくり一つずつボタンを外せば程よく筋肉のついた胸と飾りが顕になる。

甘やかな夜はこれからだ。それは甘い薬、そして毒。



その毒、強毒性につき。







記念品なのに18禁にしたくせにえろくなくてすみません…
あきのりさん、リクエストありがとうございました!




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