ふたり


ニルティエ前提ライティエ
2nd初期。幸せじゃない話です





「……」
「ティエリア?」
新しくロックオン・ストラトスをソレスタルビーイングに迎え入れてしばらく。落ち着いた頃に設けられた酒の席。
ロックオン・ストラトス――ライル・ディランディは隣に座るティエリアの異変に気付いた。
いつもただでさえ無表情な顔がピクリとも動かない。
「具合でも悪いのか? 顔色悪いぜ。飲み過ぎじゃねぇか?」
ライルはティエリアの額に手をあてた。特に冷や汗が浮いているわけでも、とりわけ熱いわけでもない。酒のせいでほんのり温かい程度だ。
「ロックオン……」
「どうした?」
ティエリアの視線は宙を彷徨っていた。ライルを見ているわけでは、ない。
「おい? ホントに大丈夫かぁ? 風にでも当たったほうが……」
ライルはティエリアの肩を掴み、立ち上がるように促した。ティエリアは特に抵抗するでもなく、されるがままになっている。
やはりおかしい。
いつもならばお節介だと言って手を振り払われるところだろう。
「ロックオン? どうかしたの? 今日の主役が席を立つなんて」
すっかり出来上がっているスメラギが眠そうな目で言った。呂律が回っていない。
「ちょっと飲み過ぎたみたいなんで、風に当たってきます」
申告し、ティエリアの背を押した。部屋を出る。
ティエリアを伴ってのんびり歩くことしばらく。
「……」
ティエリアは黙ったままだ。
「おいおい。部屋行くか?」
問いに答えず、ティエリアはその場にしゃがみこんだ。
膝を立て、そこに乗せた腕に頭を預け、うずくまっている。
「気持ちでも悪いのかよ。それとも貧血か? 女みたいにほっそいもんな、可愛い教官殿は」
茶化す言葉にも反論が返ってこない。流石におかしすぎる。
ライルも座り込み、ティエリアに合わせる。
「……っ、ろっく、おん。ロックオン……」
小さく聞こえた声はロックオンを呼んでいる。
「だから、俺はここにいるぜ?」
顔を近付けて主張した。
いきなり、ティエリアは顔を上げた。
「ロック、オン……?」
ティエリアの瞳がライルを捉える。紅い瞳にライルの顔が映り込む。
「ティエリア?」
ゆっくり問い掛ける。
ティエリアの端正な顔が僅かに歪む。あっという間に瞳を光るものが覆っていき、ぽろりと一粒、溢れた。一度零れた雫は止まることを知らず、次々に溢れては頬を伝う。
「お、おい。俺がなんかしたか?」
ぽろぽろ涙を零しながら自分を見つめるティエリアに、ライルは慌てた。
「あなたは……」
ティエリアがしゃくりあげる。しかしライルを見つめる目は揺らがない。
「どうして、僕を置いていったんだ。どうして……!」
ティエリアの視線がライルに縋る。
「たくさんのものを僕に残したくせに、あなたは残ってはくれなかった」
ティエリアのゆるく握った拳がライルの胸を叩く。
「どうして……!」
叩いていた手が止まり、ライルの服を掴む。
「どうして……っ」
俯いてひくり、と喉を鳴らしたきり、ティエリアは口を閉じた。肩が揺れている。
自分と同じ顔が、ライルの頭を過った。去来するのは今よりもずっと若い頃の、自分そっくりの顔。
随分昔に別れて以来、全く会わなかった兄さん。誰にでもやさしかった兄さん。
もういない、兄さん。
「俺は、ここにいる」
ライルはティエリアの肩を抱き寄せた。
「ロックオン……?」
今度はゆっくりと顔を上げたティエリアが、ライルをしっかりと見た。
「俺は、いなくなったりしない」
ライルは断言した。その意思はある。
「ロックオン! 今度は、いなくならないのか? 僕を置いて、行かないのか?」
泣きじゃくるティエリアは、ライルの背に腕を回し、しがみついた。
「あぁ、俺は行かない」
まだ、兄さんのところに行くつもりはない。
「本当か?」
「当然だろ。だから泣くな」
ティエリアをきつく抱き締める。
「ロックオン……」
次第に嗚咽は小さくなり、消えた。寝息が聞こえ始め、ライルは腕の力を緩めた。
「ろっく、おん」
「寝言、か」
忘れちまえ。
俺たちを置いていった兄さんなんて。
泣いて、寝て、忘れてしまえばいい。
ライルはティエリアを横抱きに持ち上げた。想像以上に軽い体に拍子抜けする。
ティエリアの、ライルの上衣を握る手が弛むことはない。
白い頬に残る涙の通った跡。
ライルはティエリアの部屋に向かった。



せめて、良い夢を――。



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