やさしい夜


ニルティエ






ティエリアは扉の前に立った。呼び出す。
「私だ」
「入れよ」
いつも通りの許諾を伴ってドアが開く。濡れた髪で、肩にタオルをかけたロックオンがベッドに腰掛けていた。
「どうしたぁ?」
間の抜けた声がティエリアを迎え入れる。
「座れ」
ロックオンがベッドをぽんと叩いた。隣に座るのが当然であるかの態度に、少しむっとする。
ティエリアは近くにあった椅子を引き寄せ、ロックオンの目の前に座った。
「んで?」
ロックオンは表情を動かさないティエリアを前のめりに覗き込んだ。ティエリアは何も言わずに手を伸ばし、ロックオンの肩のタオルを奪った。
「おい」
「風邪をひく」
ロックオンの頭からタオルを被せた。茶色の髪をばさばさと拭く。
「そんなに乱暴に拭かなくたって……」
「シャワーを浴びたのだろう? 乾かさないと風邪をひきます」
「へーきだろ、それくらい」
「マイスターたる自覚を持っていただきたい。体調管理を怠らず……」
休まずに動くティエリアの手がロックオンに捕まる。
「ありがとな」
「何がですか」
「素直じゃねぇなぁ」
ロックオンは掴んだティエリアの手をそのまま引っ張った。椅子からティエリアの腰が浮く。腰を掴まれ、身を反転させられた。
「な……」
気付くと、ティエリアはロックオンの膝に座る格好になっていた。
「何を」
「ティエリアこそ風邪ひくなよ。入ったばっかだろ? 髪が湿ってる」
ロックオンは膝の上に座るティエリアの髪を撫でた。紫の髪もまた乾いておらず、艶やかに輝いている。
「私は構わない。あなたより短いからすぐ乾く」
ティエリアはロックオンの手を振り払い、立ち上がろうとした。しかし腰をがっちりと掴まれて動けない。
「放せ」
「イヤだね」
ロックオンはティエリアの濡れてひんやりとした滑らかな髪に鼻を埋めた。
「濡れてる」
「平気だ」
「大体、髪の長さだって俺とろくに変わんないだろ」
「あなたの方が柔らかいから乾きにくい」
「屁理屈言うなよ」
ロックオンは自分の頭に乗っていたタオルをティエリアに被せた。
「僕は……」
「黙って拭かれてろ」
ティエリアは俯いた。自分の腰に回されたロックオンの腕を眺めることしかできない。
ロックオンの手の心地よさに目を閉じる。
気を抜いていた。
「っ」
突然、首筋を這うざらついた感触に息を飲む。
「ロックオン!」
「あんまりいい匂いだったから、つい」
「あなたは何を考えてるんですか! そもそも僕があなたの髪を……」
ティエリアはロックオンの拘束から逃れようと足をばたばた動かした。
「暴れるなよ」
タオルを投げ出したロックオンはティエリアを両手で押さえ込んだ。それでも足らず、ティエリアごとベッドに寝転がる。
「上質な抱き枕だな」
「誰が……!」
「嘘」
ロックオンは密着したまま囁く。
「ティエリアはティエリアだ。あったかくて、柔らかくて、気持ちいい」
「……」
「たまには一緒に……」
「断る」
「何もしないって」
「………本当か」
「あぁ」
ロックオンの返答に、ティエリアは渋々全身の力を抜いた。
「……濡れたまま寝たら、風邪をひく」
「ティエリアがいてあったかいから平気だ」
ロックオンはティエリアを抱く手にぎゅうと力を込めた。
リモコンで電気を消す。
静かに夜が満ちる。



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