ありがとうを言う方法


ニルティエ






「これ、お前のだろ、ティエリア」
丁度自分の部屋から出てきたティエリアは、柔らかい声に呼び止められて振り向いた。
「ブリーフィングルームに置きっぱなしだったぞ」
少し離れて立っていたロックオンは手に持った本を持ち上げてティエリアに示した。
ティエリアが読みかけていた本だ。続きを読もうと思ったが見当たらず、どこかに忘れてきたんだろうと、探しに行くところだった。
「忘れ物なんて珍しいな。朝の話し合いの時に忘れてったんだろ? どうした。疲れてんのか?」
ロックオンの顔に、僅かに心配そうな表情が浮かぶ。
「いや……すみません」
ティエリアは先を続けようとするロックオンを遮った。
「すみません、ねぇ」
肩を竦めながらロックオンが本を差し出す。ティエリアがそれに応じて手を伸ばすと、ロックオンは本を差し出した。受け取るなり、踵を返す。
「少し、そこで待っていてくれますか」
「あ? 別に用事はないが……」
ティエリアはロックオンを残して部屋に入った。後ろでドアが静かに閉まる。
受け取った本をベッドに置く。眼鏡を外してポケットに入れる。
大きく一回、深呼吸をして部屋を出る。ロックオンはドアから少し離れた所で廊下の壁に寄り掛かっていた。近付く。
「眼鏡外してきたのか?」
ロックオンは不思議そうに首を傾げ、邪気なくティエリアに話し掛ける。ティエリアはロックオンの目の前に立った。しかし目を合わせることはせず、ティエリアは床に視線を落とす。
「……やっぱり、少し顔赤くないか?」
ロックオンがティエリアの顔を下から覗き込み、頬へと手を伸ばす。
触れそうな距離の指先に、ティエリアは思わず少しだけ後ずさった。
「……平気か?」
逃げるように離れたティエリアをロックオンは無理に追うことはせず、優しい響きを持った言葉投げ掛けられると、ティエリアは、知らず、腕を組んで指はピンクのカーディガンを縋り、握り締める。
「あ、の」
「何だ?」
「本……ありがとう、ございました」
視線を床に落としたまま小さく言った。眼鏡を掛けていないせいで僅かに視界がぼやけている。
「そっか」
髪をくしゃくしゃと撫でられる。
「でも、そういう事は人の目を見て言った方がもっといいぜ?」
離れていくロックオンの手が、少し、寂しい。
「じゃーな。また後で」
ロックオンは背中を向けて去っていった。
部屋に戻る。ティエリアはベッドに倒れこんだ。
言えるわけがない。
朝、ロックオンの姿を追っていて、本を忘れてきた、などと。
今、ロックオンの笑顔をまともに見たら礼を言えなくなるから、眼鏡を外した、などと。
ティエリアはベッドに潜り込んだ。先程見逃した、というよりも見られなかったロックオンは、どんな笑顔をしていたのだろう、と思いを馳せる。



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