情報依存


ニルティエ、1st初期






戦いの狭間、束の間の休息。プトレマイオス。ティエリア・アーデは悩んでいた。
わからない。伝えられる情報の意味が。
ヴェーダや機械と分かり合うのはたやすい。情報がそのままの意味を持つ。
人間から伝えられる言葉は、機械の言語とは違う。そのことはわかってきた気がする。でもまだ、わからない。

 ――ロックオン・ストラトス。

彼の言葉もまた、難しい。
自分に何らかの関心があるらしいことは分かる。だが、わからない。


「ロックオン・ストラトス」
ティエリアは廊下で見かけた年長のガンダムマイスターに声をかけた。
「ん? ティエリアか。なんだ?」
振り返り、茶色の柔らかい髪がふわりと広がる。柔和な表情がティエリアに向けられた。
「用事がある。私の部屋にきていただけますか」
ティエリアの言葉に、ロックオンは僅かに目を見開いた。
「珍しいな。お前から声をかけてくるなんて」
そう言いながらも、特に嫌がる素振りは見せない。ティエリアはロックオンに背を向け、私室に向かう。ロックオンがついてくるのがわかった。
 部屋につく。ドアが静かに開き、入る。ベッドと生活必需品があるだけの部屋だ。私物などはなく殺風景極まりない。
「寂しい部屋だな」
続いて入ってきたロックオンがぽつりと感想を述べた。ドアが閉まる。
「何も困らない」
「そうかもな」
ティエリアに曖昧な同意を示し、肩を竦めた。
 ティエリアはドアにロックを掛ける。眼鏡を外すとベッドの近くに置いた。
「んで、どうした。秘密の話か?」
「茶化すな」
「はいはい。それで……っ」
ロックオンの言葉は途切れた。ティエリアがロックオンをベッドに押し倒したのだ。
「おいおい、何のつもりだ」
ロックオンは自分の上に乗るティエリアを見つめた。まっすぐな視線に、ティエリアは目を逸らす。そして、ロックオンのパンツに手を掛ける。
「おいっ」
ティエリアはロックオンのパンツの前を開け、下着ごと下ろした。
「お前、洒落になってねぇぞ。酔ってんのか? 溜まってるにしたって……」
ロックオンは蹲るティエリアの肩に手を掛け、上半身を起こそうとした。
「なっ……」
ティエリアは、ロックオン自身にそっと手を這わせた。突然の接触にロックオンは怯んだ。
「どんな気の迷いかは知らないが、とりあえずやめろ! 話ならいくらでも聴いてやるから……っ」
ゆっくりと、細く白く長い指をロックオンのそれに絡ませる。
「……大きい」
ティエリアは両手を使い、そろそろとそれを撫でていく。それの大きさが変わる。
「おい……ティエリア」
叱責を含んだロックオンの言葉に、ティエリアはびくりと身を強張らせた。
「何のつもりだ」
顔を上げ、ロックオンを見る。顔を僅かに歪ませて、耐えているような表情のロックオンがティエリアをじっと見ている。
「どういうことだ」
ティエリアを問い詰める。
「――あなたの、遺伝子を下さい」
ティエリアは少しだけ悩んで、答えた。
思いがけない回答だったのか、ティエリアの答えを聞いたロックオンは呆然としているようだった。ティエリアはロックオン自身を愛撫することに没頭する。
 筋を指先で辿ると、ぴくりと震えて明らかに反応を示す。その様子を見て、ティエリアはそれを口に含んだ。
「く……っ」
ロックオンが声を漏らす。ティエリアは括れに舌を絡ませた。息苦しい。
「どういう、ことだ」
ロックオンの質問に答える余裕はない。ねっとりと舐め上げる。途端、質量を増したそれに、息が詰まる。
「っ、ふっ……ん」
声が漏れる。唾液が溢れる。ティエリアはそれも気にせず愛撫を続ける。ぴちゃぴちゃという水音。舌先で先端を突付くと口の中に苦味が広がった。
「――っ、やめろ」
ロックオンに無理矢理引き剥がされた。
「ん……っ」
唇の端からつぅと透明な糸が伸びて、切れた。
「何を、するん、ですか」
息苦しさから開放されて、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「それはこっちの台詞だ」
ロックオンがティエリアの肩を掴んで揺さぶった。
「自分が何やってるかわかってるのか?」
「それくらいわかって」
「だったら」
「わからないんだ!」
ティエリアは声を荒げた。
「わからない。あなたのことが、何もわからない」
俯く。ロックオンの胸に縋った。
「あなたの気持ちも何も、わからないんだ。だから、遺伝子を解析して、分析して、情報を……」
ティエリアの言葉にロックオンは顔を顰めた。渋面のままティエリアを引き寄せ、抱きしめる。突然の予想できなかったロックオンの行動に、ティエリアは固まった。
「ティエリア」
ティエリアの名を静かに呼ぶ。腕に力が込められた。
「あのなぁ、情報でわかることなんて大したことじゃない。大切なのはそんなことじゃないだろ」
ロックオンは諭すように静かに話す。
「こうやって話したり触ったりして、時間がかかって、やっと分かる。わからなくて大変なのはお前だけじゃない」
紫の髪をそっと撫でた。
「俺だって今、お前が考えてることがわからない。お前のことだけじゃない。アレルヤのことも、刹那のことも、わからない。自分のことだってわからないくらいだ」
「そう、なのですか? あなたも」
ティエリアは髪を撫でられるむず痒さに身じろぎした。
「私は……やはり何も分からない」
「そうじゃないだろ。誰も、何も、わからないんだ」
温かい。ロックオンの体温も、ひょっとすると、言葉も。ロックオンの胸に頬を当てると、熱と、鼓動が伝わってくる。
「俺も、お前も、他の誰も、遺伝子だけで決まるわけじゃない。そんなものを調べるのは意味がない。環境や状況や、相手や天気や、そんなちょっとしたことでころっと変わっちまうのが人間なんだよ」
ロックオンの手がティエリアの背を撫で下ろす。不思議と、ティエリアの昂ぶった気持ちが静まっていく。
「目は覚めたか? わかったなら離れろ」
ロックオンは腕の力を緩め、ティエリアを離した。
「だが」
「どいてくれないと襲っちまうかもしれないだろ?」
「あ……すまない」
ティエリアは白い肌を僅かに赤くし、ロックオンから離れようとした。しかし、ロックオンのすっかり勃ち上がったそれを目にし、やめた。
「中途半端だと、辛いのだろう?」
再び背を丸め、ロックオン自身に口付ける。
「お、おい。わかったなら……」
「は、ぁ……ん……」
ロックオンの制止を聞かず、再びそれを口に含む。懸命に舌を使う。吸う。
「だからっ……」
頭を上下に動かす。それでも届かないところには指を絡める。
「っ、もう……離れろ」
ロックオンの切羽詰った声が聞こえる。ティエリアの髪が掻き乱される。それを無視し、先端を押しつぶすように舌で突く。
 途端、熱が口内で破裂した。
「ん……」
熱い液体を飲み下す。その途中で髪を引かれ、痛さに口を離してしまった。白濁が僅かに顔にかかる。
「ったく、見た目の割りに、大胆なことするんだな」
脱力したロックオンが呆気に取られた表情で荒い息をついている。ロックオンは重たそうに手を伸ばし、ティエリアの顔に付いた白濁を指で拭った。
「無茶をするな」
「していない」
はぁはぁと、ロックオンよりも荒い息を吐くティエリアの顔は僅かに上気している。息苦しかったせいか、ロックオンを見据えるワイン色の瞳にはうっすらと涙の膜が張り、とろんとしている。
「あー、もう」
ロックオンは頭を掻いた。ティエリアを押しのけると服を整え、立ち上がる。
「俺はもう行くからな。用事は済んだんだろ」
「……すまない」
ティエリアはベッドに座り込んだまま俯いた。
「そういう態度をとるなよ。ホントに襲いたくなるだろうが」
ロックオンの言葉にはっとして、振り向く。切り揃えられた髪が勢いに宙を舞う。ロックオンの背中がある。
「それはどういう……」
「お前のこと、嫌いじゃないっていう意味だ、ティエリア」
ロックを外し、ロックオンは出て行った。


『嫌いじゃない』。その言葉を心の裡で反芻する。
それは単に文字通り『嫌いではない』ということなのだろうか。それとも――。
疑問に思いを巡らせながら、ティエリアは自分の体が火照っていくのを感じていた。



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