過去と今と未来の場所


刹フェル短文
2ndの戦後






ぬるい風がゆったりと走っていく。桃色の髪がふわりと攫われ、頬を掠めていくのがくすぐったい。
制服で地球に下りるわけにもいかず、白いワンピースを纏っていた。飾りも何もなく、真っ白ですっきりとしたワンピースの裾から入ってくる風がすぅすぅと剥き出しの腿に当たって心許ない。
それすら珍しい、と感じるのは今までの人生の殆どを宇宙で過ごしてきたからなんだろう。人生、などというにはおこがましい程度しか生きていない。
十八年はあまりに短い。でも、信じられないほど色々なことがあった。
家族。欠けてしまったものは戻らない。クリスは、ロックオンは、リヒティは、皆は、宇宙でいなくなってしまった。地球から見る宇宙は青いけれど、そこは真っ暗。
フェルトは風に流れるくせっ毛の髪をそのままにして、透明で穏やかさすら感じられる青空を眺めていた。
「フェルト」
低く、落ち着いた声がして振り返る。
「刹那」
刹那が、フェルトの方を見ていた。仏頂面に見えて、その目は優しくて。
「大丈夫か?」
「何が?」
「泣きそうに見えた」
「そうかな」
目を細める。後ろで一つに結った髪がふわふわと揺れる。
「あぁ。……思い出していたのか」
「これ?」
まとめた髪の先を指で梳く。刹那が頷いた。
「うん。でも、平気」
「それなら、いい」
刹那が目を細める。二人の間を柔らかい風が抜けていく。
「ありがと、刹那」
帰ってきてくれて。ここにいてくれて。
刹那の手が、すっとフェルトの方へ伸ばされた。その意味がわからなくて首を傾げる。
「帰りたいんだろう、宇宙に」
「そう、かも。みんなの場所だから」
クリスや、ロックオンや、リヒティや、みんな。家族。居場所。
手を差し出すと、刹那の手がそっと重ねられて、指が絡んでくる。
「やはり、泣きそうに見える」
言うなり、刹那の顔が近付いてきた。ふっ、と唇が重なる。触れるだけのキス。刹那から大地の匂いがする気がした。
「な、何、突然……」
「泣き止んだか?」
僅かな微笑みにつられてフェルトも唇を綻ばせた。
「刹那って、時々ずるいよね」
「どういうことだ」
「そういうところ」
にこ、と笑って刹那の手を引く。
「帰ろう」
「あぁ」
空へ行こう。刹那と一緒に皆の所へ。まだ何も終わってない。やらなきゃいけないことはたくさんある。
「似合っている、服」
「……ありがとう」
今更の刹那の言葉に顔が少し熱い。慣れない格好はもう二度としたくないと思っていたけれど、たまにならいいかもしれない。

お洒落って楽しいね、クリス。



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