陽光射す場所で


刹ティエ
2nd初期のイメージ







柔らかい陽射しが降り注ぐ王留美の別荘。
紫の髪を風に靡かせながらティエリアは目を細めて萌える木々を眺めた。太陽はやはり苦手だ。青い空を珍しくすら感じる。
「ティエリア」
大人びた声に惹かれて振り返る。
「刹那か」
黒い髪は風を含み、ふわりと柔らかい
「お前は、随分変わったな」
「変わった? 僕は何も変わっていない」
無言。
しかしそれが嫌ではない。心地よい無音と、ざわめく葉の音。
「変わったのは、刹那、君の方だ。背が伸びた」
「それしか言うことはないのか?」
「何か言葉にしろとでも言うのか」
「いや」
刹那がくすと笑った。つられて、顔が綻ぶ。
情報が全てではないのだと今は思える。解析によって全てが得られるわけではなく、分析によって全てが理解できるわけではなく、統計によって予測できることばかりではない。言葉で全てが伝わるわけではない。沈黙もまた手段なのだと、わかっている。
「ティエリアは、変わった」
刹那がティエリアを見下ろす。
「そんな風に景色を眺める姿など、想像できなかった」
「そんな風、とはどういう意味だ」
「優しい」
真顔で言われて、ティエリアは顔を背けた。刹那の言葉はいつも短いが、真実に近い、と思っている。だからこそ直球に自分のことを言われるとたじろいでしまう。
「そうだとすれば、彼と、君のせいだ」
照れ隠しというにはあまりに事実だ。
みんなと、今はいないみんなと彼と、君のせい。
「僕は、地球が嫌いではない」
「俺は、この世界は嫌いだ」
一瞬、刹那の顔が憎憎しげに歪む。穏やかな空気を瞬間だけ破壊する。
「誰もが――ティエリアが、憂いなく過ごせる世界が好きだ」
刹那の固い信念が好ましく、悲しい。
「その世界に君の居場所はあるのか、刹那」
「俺たちは矛盾している」
真剣な顔に自虐はない。
「その世界は、俺たちの居場所がある世界であってはいけない」
あまりに悲しい真実にも、刹那は揺らがないのだ。
「……わかっている。だが」
泣きたいと思った。
正義ではない。
刹那も僕も、咎を負うべきだ。僕たちの存在は許されるべきではない。
だが、なぜ刹那が。
その決意は初めからある。刹那は変わったが、変わっていない。それは僕も同じだ。それでも、刹那には幸せでいて欲しい。更なる矛盾であるとしても、刹那が辛いのは嫌だ。
「僕は、君を安らかにする存在でありたい。今この瞬間も、どんな未来でも」
聞いているのかいないのか、刹那の返答はなかった。代わりに刹那はしゃがみ込むと足元にある黄色い花を摘んだ。タンポポだ。
「変わらないな」
「さっきは変わったと言っただろう」
「綺麗で、可愛いままだ」
刹那はティエリアの髪に花を挿した。紫に黄色が映える。
「小さくて、悪かったな」
「そんなことは言っていない」
「大体、こんな女のような……!」
「似合っている」
刹那は指でティエリアの髪を梳いた。さらりと流れ、射す陽に透き通るように輝く。
恥ずかしげもない刹那の言葉に、ティエリアは口をぱくつかせた。
「ティエリアの背が伸びなくて良かった」
「何故だ?」
「キスがしやすくなった」
臆面もなく言った刹那に、唇を塞がれる。間近にある瞳を見ていられず、目を瞑った。
しばらくして刹那が離れ、ティエリアは目を開けた。
「……よく、恥ずかしいことを言えるな」
「事実だ」
「身長はそんなには変わらない」
「試してみるか」
う、とティエリアは言葉に詰まった。言われていることはわかる。ここで引くのも忌々しい。
「め、目を閉じろ」
ティエリアの指示に、刹那は予想外に素直に従った。赤茶色の瞳が瞼の下に隠れる。意外に長い睫毛が瞼に影を落とす。
それを見て、ティエリアは刹那に顔を近付けた。唇に唇を重ねようとしたが、届かない。仕方なく爪先立ちになり、口付ける。
「ん……」
バランスが崩れ、刹那の方へと倒れかかった。難なく支えられ、腰を掴まれる。もう片手はティエリアの項に添えられ、抱き寄せられた。
「……大きくなったな」
むっとして、言う。見上げると赤茶の瞳がすぐ傍にある。慌てて目を逸らすが、頤を掴まれ上を向かされた。
「何……っ」
啄むように繰り返されるキスに、満ちていく。
閉じた瞼越しにも太陽が眩しい。




ずっと宇宙にいて、眺めるのは暗い空間ばかり。
それでも明るいのは、君の隣だから。



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