君へ


刹ティエ
刹那誕生日






地球の北半球では春うらら。
しかしその恩恵はプトレマイオスにはなく、暗い宇宙で航行を続けるばかりだ。
プトレマイオスにある球形の不可思議な小部屋。その、ティエリア・アーデのためにだけ存在する部屋で、彼は情報の海をたゆたっていた。
アクセスルームに身を任せ、眠るように閉じていた目蓋を開くと、虹彩が黄金に輝く。ティエリアの意識にヴェーダの膨大な情報が流れ込む。
ティエリアの思うがままに取り出される情報の中に、気になる数字を見つけた。
0407。
今日の日付だ。
一体何の数字だろう。
ティエリアの疑問は情報となり、直接ヴェーダに伝わる。
疑問に即座にヴェーダが反応を返してくる。ティエリアの意識下に現れたのは刹那の情報だった。



「刹那・F・セイエイ」
廊下を進む、幼さの残るマイスターを見つけ、ティエリアは声をかけた。
「何の用だ、ティエリア」
外見に似合わない、落ち着いた声が返ってくる。
「今日は何の日だ?」
「何……?」
ティエリアの問いに、刹那は眉をひそめた。
「何のことだ」
心底わからないといった様子で逆に訊ねられ、ティエリアは困り果てた。
「今日は大切な日なのだと、ロックオン・ストラトスに聞いたんだが……」
「何故、そこでロックオンの名前が出る」
顔に表情を出さない刹那の、声に苛立ちを感じた。わけがわからない。
「彼に、誕生日とは何かについて聞いたんだ。僕は何も知らないから……」
「誕生日? ……あぁ」
刹那は一瞬だけ目を丸くし、それから納得したようだった。
「すっかり忘れていた」
決まり悪そうに刹那は渋い声を出した。
「今日が、俺の誕生日か」
確かめるように、刹那は言った。
「自分の誕生日を忘れていたのか?」
「あぁ。それで? ロックオンから何を聞いた?」
刹那の言葉にティエリアは言い淀んだ。
「誕生日は大切な日で、生まれた日を祝う日だと」
「そうか」
「それから……プレゼントを渡すのだと」
言ってからティエリアは俯き、意を決すると刹那をひたと見据えた。
「あ、あの、僕は偶然今日知って、マイスターの情報はトップシークレットだから彼らには聞けないし、だ、から」
そこまで言ってから、ティエリアは再び俯いた。
「僕、には、君にあげるものが、ない」
「珍しいな」
刹那の手のひらがティエリアの頬に伸ばされた。
「何がだ」
「お前が慌てているなんて、珍しい」
刹那がそっと頬を撫でる。
「震えている」
差し出された両の手がティエリアの顔を包み込む。その温かさに、落ち着きを取り戻した。
「俺は何もいらない」
「え?」
「ティエリアが、俺の存在を祝ってくれるのならそれでいい」
言って、刹那はティエリアを抱き寄せた。
「刹那……」
ぬくもりに目を閉じてから、気付いた。
「僕は、肝心なことを言っていなかった」
刹那の耳に囁く。
「誕生日、おめでとう」
しっかりと意思を持った声が刹那の耳を打つ。
「ティエリア。一つ、欲しいものがある」
「……僕が君に与えられるものならば」
ティエリアが答えた次の瞬間。
「――っ」
どこまでも甘く、とろけるようなキス。
僕には愛などわからないが、それでも君の存在は僕を喜ばせる。
だから。
「ありがとう」
君という存在に。
微かな声は刹那に届いたのかどうかわからない。
「何か言ったか?」
「いや、何も」
少しだけ屈む。
照れ隠しに、自分からキスをした。




いつも与えてくれるばかりの君に、僕が渡せるせめてものプレゼント。



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