身長差


2nd8話のあたり




「……女装でミッション?」
「あぁ。スメラギ・李・ノリエガのミッションプランだから不具合はないはずだ」
刹那は目の前に立つ仲間を頭のてっぺんから爪先までじろじろと眺めた。細い。中性的でもある。四年前は確かにピンクを着こなしていたわけだし、特に問題はないのかもしれない。
「だが、状況は?」
状況によっては男だとばれてしまうこともあるかもしれない。ソレスタルビーイングは慎重に動かなければならない。念を入れて入れすぎることはない。
「ダンスパーティーらしい」
「……ダンスできるのか?」
刹那のもっともな疑問に、ティエリアが胸を張って答える。
「ヴェーダから一通りの知識は得た。問題ない」
自信満々といった様子のティエリアに、刹那は内心溜め息を吐いた。
「実践経験は?」
「女役の経験があるわけがないだろう」
「経験なしのお前を戦場に送り込むわけにはいかない」
「馬鹿にするな。僕だってダンスくらい……」
反論しようとするティエリアの手を取る。もう片手をティエリアの薄い背中に回した。びくりとティエリアが肩を竦ませる。
「刹那……っ」
「経験はあった方がいいだろう」
ティエリアをリードしながら動き始める。渋々付き合うといった表情を浮かべていたティエリアだが、次第に真剣なものに変わっていく。
制服の二人がくるくると回る。ティエリアのまっすぐな髪がなびき、刹那のくせっ毛が揺れる。音楽すらないにもかかわらず、花が咲いたような空間。
「……背、伸びたな。昔だったら僕が君の男役だ」
ティエリアが遠い目で呟く。
「四年も経てば、お前の男役を引き受けられる程度にはなる」
刹那が言うと、ティエリアはさっと刹那から離れた。ティエリアは少し不機嫌な様子で目を細めている。
「どうした?」
突然の変わりように、刹那は首を傾げた。むすっとしたティエリアが刹那から顔を背ける。

「……僕の方がまだ二センチ高い」

ぽつりと呟いたティエリアの言葉に、刹那は堪えきれずに吹き出した。
「何がおかしい…っ!」
「何でもない」
「ならば何故笑う」
可愛い、などと言ったら怒って去ってしまうだろう。どう誤魔化そうか考えて、刹那はティエリアの手を引いた。
「な……っん……」
不満を述べようとする唇を、刹那のそれで塞いだのだ。ティエリアがあっという間に借りてきた猫のようにおとなしくなる。柔らかい唇を甘く噛むようにして味わってからゆっくり離れる。
「キスがしやすくなった」
上気して赤くなったティエリアの頬をさらりと撫でる。
「……今のうちだけだ」
ふん、と軽く鼻を鳴らしてティエリアが俯く。
「練習、するのだろう!」
ティエリアが強引に刹那の手を取り踊り始める。俯いて足の動きを見つめながら舞う。時々刹那の足を踏んではよろけるティエリアを抱き留める。
「踊る時は相手の顔を見ろ。転ぶ」
ティエリアに耳打ちした。ティエリアの動きが止まる。肩口に顔を埋められ、刹那も動きを止めた。
「こ、んな顔、君に見せられるわけが、ないっ……」
素直な紫髪の間から覗く耳まで赤い。さらさらと触り心地の良い髪を弄りながら、ミッション当日のティエリアの相手が自分ではないことに肩を落とした。



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