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「よ、っと……」
少し古びたクローゼットからTシャツとカーディガンと短パンを出して、ユキはジャージからその服に着替える。
着替え終えると部屋を出て、洗面所へと向かう。
「ふんふんふんふふーん」
ユキは鼻歌を歌いながら、鏡の前に置かれた赤いピンで前髪を留め、黒いキャスケット帽子を被る。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい、気をつけるんだよ」
ジェシカに一声かけてから、玄関に置いていた鞄を手にとって、花屋の裏口から南イタリアの街へ飛び出す。
ユキは帽子を深く被り直して、道を歩き始めた。
最初は故郷と違って慣れなかったが、今ではもう気にならなくなっていた。
「Ciao、ユキちゃん。今日も綺麗だね」
「俺はお世辞は聞かないぞー」
「ホントのことだって」
「うっそだーー」
町に住む人達がユキに声をかける。
ユキは笑顔で言葉を返す。もちろんイタリア語で。
拙いイタリア語も過ごしているうちに上達していった。
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