偽り王子にGrazie! | ナノ


  1-2


「よ、っと……」


 少し古びたクローゼットからTシャツとカーディガンと短パンを出して、ユキはジャージからその服に着替える。

 着替え終えると部屋を出て、洗面所へと向かう。


「ふんふんふんふふーん」


 ユキは鼻歌を歌いながら、鏡の前に置かれた赤いピンで前髪を留め、黒いキャスケット帽子を被る。


「いってきまーす!」

「いってらっしゃい、気をつけるんだよ」


 ジェシカに一声かけてから、玄関に置いていた鞄を手にとって、花屋の裏口から南イタリアの街へ飛び出す。

 ユキは帽子を深く被り直して、道を歩き始めた。

 最初は故郷と違って慣れなかったが、今ではもう気にならなくなっていた。


「Ciao、ユキちゃん。今日も綺麗だね」

「俺はお世辞は聞かないぞー」

「ホントのことだって」

「うっそだーー」


 町に住む人達がユキに声をかける。

 ユキは笑顔で言葉を返す。もちろんイタリア語で。

 拙いイタリア語も過ごしているうちに上達していった。

prev / next

[ back to top ]