偽り王子にGrazie! | ナノ


  1-1


 2XXX年、南イタリアのとある町──


「はー、ようやく終わった……」


 その町で有名な花屋の店先で、ジャージ姿の一人の娘がひと仕事終えて珈琲を飲んでいた。

 彼女の周りには薔薇や百合の花の鉢や、大きな苗木などが飾られている。


「おはよう、ユキちゃん。今日も良い天気だね……おやまあ、ユキちゃんってば、これを一人で運んだのかい?」


 店内から少し年老いた女性が出てきて、彼女に話しかけた。昨日から大きく位置が動いている花の鉢や苗木を見て驚いたのか、目を丸くしていた。


「おはよう、ジェシカさん。うん、俺が全部運んだんだけど……もしかして運んだらダメだった感じ?」


 ユキと呼ばれた彼女は、少し困ったように首を傾げた。


「いんや、運んでくれて助かったよ」

「そっか、それならよかった!」


 ジェシカの言葉にユキは笑顔でそう言った。


「それじゃあ、私は朝食の準備でもしてくるよ」

「りょうかーい。んじゃ、俺はパパッと着替えて散歩にでも行ってくる!」

「そうかい」


 いつもと同じように二人で店の奥、ジェシカの家に入って行く。

 ジェシカはキッチンに、ユキは二階の部屋へと向かった。

prev / next

[ back to top ]