「それじゃあ、また会えると良いわね」
「ああ」
彼女の去った後も私は、そのまま木の枝に座っていた。
牛が食べた物を反芻するように、私もまた、目を閉じて彼女との時を反芻していた。
 『これは私の墓なの』
死すれば灰になる私には、その概念が解らない。
――灰。
はた、と気付き目を開ける。
 城の地下室の灰と朽ちた木片は、仲間達の生きた痕跡だったのだ。

 リデルは毎日の様に、日没前の僅かな時間だけ自分の墓にやって来る。
だから私も、日課の様に同じ木の同じ枝に座り、暇潰しに他愛もない歌を口ずさみながら彼女を待つ。
彼女が現れても特に何を話すでも無く、何をするでも無く。
気が向けば今日みたいに彼女の近くに降りたりもする。
その微妙な距離は、城から出た時の焦燥感、飢餓感を穏やかに薄めていく。

 それと同時に勘も鈍化していたらしい。
「その子から離れろ!! 化け物め!」
突然の罵声と共に届いた銃弾が足元で弾け、背後に生えた木の幹にめり込んだ。
鋭くそちらを睨みつけると、墓地の外れに武装した集団が居る。

 「化け物とは失敬な。お前達、人の子にすら有る種族名が、私には無いような言いぐさではないか」
リデルにだけ無い、怯えと憎しみに満ちた目を前に鼻で笑った。
「それに私は、この墓場より先に足を踏み入れていない。お前達に危害を加えてもいない。ただ、歳と種族と性別が違うだけで、友人と会うのもいけないのか?」
 話の途中で、気の急いた誰かの放った銃弾が、胸から背中へと突き抜けたが、私は意に介さず彼等に問いかける。
「う……わァ?! 何で死なない?」
「こいつ、本当に化け物じゃないか!」
「う、撃て!! 殺せ! 殺される前に殺すんだ!!」
人々は狼狽え、奇声を上げながらろくに照準も合わせずに乱射する。

 その中の何発かが、彼女を。
 悲鳴も上げず倒れたリデルを抱え、反射的に広げた翼が暴徒達をなぎ倒した。
銃弾が尽きる前に彼らの命は尽き、それから私に出来る事と言えば、不甲斐なくただ逃げるだけしかなかった。

 「名前くらい、教えてくれても、良いじゃない? 私達、友達なんでしょ?」
抱えて城へ向かう途中、痛みと出血による浅い息で彼女は言った。
「ユーリ。私の名は、ユーリだ」
 通称ではなく、真名を告げた。
支配されるとしても、呪われるとしても、彼女からならば全て受け入れるつもりで。
「良い名前ね。私はリデル。もう知ってたかしら?」
そう言って微笑んだ彼女は、目を閉じて私の肩に力の抜けた頭を預けた。

 初めて彼女と会った時のように、何度となく墜落しながら城に辿り着き、唯一の寝具である棺桶にリデルを横たえた。
彼女を眷属にすれば、失わずに済むだろうか?
 祈るように彼女の首筋に牙を立てる。
「……何故」
食料であるはずの血液を反射的に吐き出してしまい、私は呆然とした。


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